急展開です。いやむしろ急転回です。転げ回ってます。
口を開けた闇がそこにある。形を持たず形を保たず、ただ中にポッかりと、空くのではなく浮いていた。
浮いているというよりも。
ただそこに在るだけのようだ。
その中から聞こえた艶やかな言葉は、少なくとも女の声であることは容易に判断がついた。地から響くような声ではなかったけれど、頭に響く。なんと言うか、頭のすき間を縫うように声が
人の心の形を知っているような。
しかし、いつまでもそのうやむやな声についての描写を続けるわけにはいかない。それくらいに奇妙な声だったのだけど、いや、それだけが伝われば、または伝わらなければそれでいい。
便宜上彼女、その声の主は全てにおいて、ただただ
「初めまして、夜明永くん。お久しぶりね、永遠亭の不死人」
「あらあら、貴方がこんな辺境に、何の用なのかしら? 茶菓子の用意は出来ないわよ、八雲紫」
八雲紫、輝夜は挑発気味にその声の主のことをそう呼んだ。たぶんそれは、僕に声の主の正体を知らせるためでもあったんだろう。
その八雲紫と呼ばれた女は、輝夜のセリフを反復するかのように「あらあら」とだけ繰り返し。
「貴方が誰かの気を使うなんて……この子はいったいどういう子なのかしらね?」
ニュッと、穴から美女が上半身を突き出した。
もちろんビビる。ビックリする。何かが潜んでいるとは思っていたのだが、まさかこんないきなり現れるとは思っていなかったからだ。
惜し気もなく。唐突に。
「さあ、私は何も知らないわ。いきなり転がり込んできた男の子なんだから」
「そう。でも私は知ってるわ。彼が外で何をしたのかーーしでかしたのか。そしてそれすら忘れた、人々の無情と世界の無常を」
八雲紫ーー金髪でスタイル抜群で、傘を持った美女ーーは、妖艶に笑う。輝夜の笑みは小悪魔のようだったが、彼女の笑みは冷たく、悪魔のような笑みだった。
どんなに見てくれがよくても、決して仲良くなれないタイプの。
その彼女が僕に対して言ったのだ。“何をしでかしたか知っている”と、言い放ったのだ。
死刑宣告よりもあまりに重い一言をーー
「もちろん、彼を忘れたのは世間ですが、彼を招いたのは私です。私の求める才能を、貴方が持っていたから」
ピクリ、と輝夜が動いた。依然として鈴仙は何も言わない。立ち尽くしているのかはここからよくわからないけれど、急展開に置いていかれて当然とも言えるだろう。
「残念ながら、この才能を持つのは日本でただ一人でした。決して強い才能ではありませんでしたが、しかしその希薄な個性が可能にした
「勿体振るなよ。僕は、訳がわからないままこの世界にやってきた。つーか朝起きたらここにいた。こんな瞬間まで置いてけぼりにしないでもらえるか? えっと、八雲紫」
「
間髪すら入れず、惜し気もなく彼女は言った。
「そう、それが貴方の才能、つまり能力。唯一無二の汎用よ」
「……へえ、なんとなく、少しだけわかったわ、八雲紫」
少しだけ震えた声で、輝夜が呟く。
「あら、貴方、世話役もいないのに思考が出来るのね」
「ええ、貴方がラスボスだということがね!!神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』!!!」
輝夜が札を見せて宣言すると同時にーー眩い光と共に、幾重にも重なったレーザーが、穴に向かって射出された。
穴の向こう側で使われた技がどうしてわかるのかって?
穴が消えたからに決まってるだろう。
要は大量のレーザーが僕に降り注いだからに決まってるだろう。
「あびゃぇ!!?」
「……あっ」
家具を撒き散らしながら、吹っ飛ぶ僕。広い部屋ではあったけれど、壁に頭を強打し、意識が朦朧とする。いや、数瞬後には意識を手放しているだろう。
それでも、その言葉はハッキリと聞こえた。
「夜明永くん、私は貴方にとってのラスボスよ。でもね、貴方と蓬莱人、水と油は交わらないことを覚えておきなさい」
まるで意味がわからなかった。