あたしのばあちゃんちに知らん人しか来ない 作:パイナップル焼うどん
ヒールは慣れないところに履いてったら危ないからスニーカー
日焼け止めは必須メイク道具はいつものやつ
服は動きやすいやつ、あ後キャップも
あとは、
「あっスキンケア系はばあちゃん家には無いか、んしょっと」
目的のものを取りに部屋を出るとうんざりするほど暑かった、冷房の効いた快適空間から少し出るだけで肌がペタってくる。夏、うざ。早くミッションを済ませて戻らねば溶けてしまう。
髪をまとめていて正解だった。暑さって新宿のナンパといい勝負のうざさ。
東京は現在35度、8月の気温としてはまぁ普通に暑い。
そういえば友達は明日頃まで部活があると言っていた気がする、こんな中で運動だなんて正気じゃない。紫外線を浴びることに危機感を持って欲しい。
時計を確認して少し焦る。もうすぐに家を出る時間は迫っている、飛行機は流石に逃せない。
友達との約束にほぼ毎回遅刻しがちなあたしだがそれくらいはわかっている、チケット代のお金も余計に使いたくない。
おばあちゃんへの手土産は事前に用意したのを忘れず待てばいいからよし。
ばあちゃんの家に行くのは数年ぶりだ、小さい頃の記憶ではしっかりと猫可愛がりされていたが成長して思い返すと少し恥ずかしくなる。
なにせ北海道。東京住みのあたしからすれば遥か彼方、彦星くらい遠い。
世には何かある度に遠縁だろうが北方だろうが集まるご家庭もあるらしいが、うちは親戚の集まりが活発な方ではないし仕方ないといえばそれまで。
お陰でお年玉の収入も毎年寂しい。桁違いの額を自慢して回る同級生たちを歯軋りしながら見るのだ。チクショウ。
まぁいいあたしはこの夏必ずあれを見つけてやるんだ。せいぜい大人から巻き上げたその端金を噛み締めているんだな。
固い決意と共にスニーカーの紐をきつめに結んだ。
電車とバスでひとまず空港まで、飛行機で一気に北海道の新千歳まで飛んだ、そうしたら再び電車とバスに揺られること数時間。
目的のバス停で降りてから歩き続けて少し汗が伝ってくるのを拭った。
避暑地なだけあって東京より数倍過ごしやすい、北海道さまさまである。
忘れずに引っ掴んだ手土産を機嫌良く揺らしてリュックを背負い直した、地図を確認すれば目的地は後もう少し。
少し遠くに青々とした山、辺りは一面ひらけていて田んぼと畑と時々民家。辛うじて舗装のあった道が終わってザラザラとした土を踏鳴らし始めてから、通行人は見ていない。ド田舎乙。
ジリジリ照りつける日が痛い、ブリーチ毛がじっくり焼かれる感覚がしてくる。着いたらまずはクーラーつけてシャワーを浴びてさっぱりしたい。メイクも落とそう。
憎らしい太陽を見上げた途端に後ろから強い風が走り抜けて肌が一瞬涼しくなった。
驚いて咄嗟に首を戻すとそこには見覚えのある景色が突然見えた。大きな屋根と古びた門、生垣は所々はげていてなかの縁側がうっすら覗ける。
反射的に懐かしさが湧いてきて、追って疲れがどっと押し寄せた。
「っやっとついたぁぁー」
だいぶ長かった、そして暑かった。東京だったら絶対タクってた。達成感でタッタッとつい駆け足気味で門を潜る。
予め郵便受けに鍵があると知らされていたのを回収し、少し立て付けの悪い引き戸を開けた。
こんにちは〜‼︎‼︎と元気よく上がり込んでブレーカーを探す。ぶつぶつと呟きながら探し出したスイッチを上げた。
それから掃除道具をひとしきりかき集めて隅から掃除を始めた。
あんなにシャワーを浴びたいとかなんとか思ったいたけどまずは掃除が先よどうせ汚れる。埃払を片手に気合を入れた。
うっすら積もった埃を払って掃除機をかけて窓を開けて換気をした。
ひと段落ついた頃に急にお土産の存在を思い出した、咄嗟に玄関まで走って放り出されたまんまのそれを急いでお仏壇まで引っ掴んできて、払ったばかりのそこにどんと置いた。
以前に旅行に行った先で見つけた人の頭くらいある丸かめの味噌。祖母は味噌が大好きだったと母から聞かされていたことを唐突に思い出して持って帰ってきた品だ。
御供物として一時ここに置いて夜には私の御御御付けになる算段である。ひいばあちゃんもばあちゃんあたしも味噌が好き。母もだね。
ギリギリ死んでいなかったマッチでお線香を焚いておりんを打ち、数秒手を合わせた。ただいま、お久しぶりばあちゃん。数年振りの孫ですが現在はギャル系に路線変更して彼氏作りに奮闘しております。どうか素敵な彼氏ができるのを見守っててね。そのうち紹介するから。
「よし、布団干してシャワーだ。」
できれば熱めの湯で汗を流したかったが生憎水しか出なかった、古い家だ覚悟はしてきたけどねと自分をフォローして水で全身を流した。
荒れた庭の隣にこれまた長年手入れされず放置された畑があった、流石に全部ダメになってるかと思いきや野生のひん曲がった胡瓜をいくつか獲得できた。シャワーを浴びる間に流水で冷やしたそれを縁側へ持って出る。
豪快にヘタを齧って庭に吹く、さつきちゃんスタイル。
着いたのが昼過ぎ頃で、忙しくしているとあっという間に日が暮れそうだった。青にオレンジが混じり始める空をぼーっと眺める、食べ終えた胡瓜のお尻のヘタを庭の隅の方に投げやった。
落ち着いた途端に静けさが襲ってくる、都会の喧騒に慣れきった鼓膜に染みる、これが趣きね。
ガサッ
ハッとして生垣の方を見た、所々はげて穴ぼこから向こうが見えるその中に人らしき影は見当たらない。
風では立たない音だ、生き物が何か動いた音。獣か?畑はそこまで荒らされてなかったけど、どうしよう。怖い、かもしれない。
「誰かいるの?」
生垣を伝って門の口の方へ寄ってみると、門の影に人影がみえる。かなりガタイがいい、男の人っぽい?てかなんかもじもじしてる?えコワ、でもとりあえず動物じゃないし事情を聞いてみな
「あっあの!!!!!!!!アシ(リ)パさん!!!俺だよ!!!!!!杉本佐一!!!!!!!!!!」
決心をするまでもなく大男は飛び出してきた。しかもイケメン。余計怖いて。
「 どちら様ですか……⁇」
えマジで誰。