Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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ショッピングモール

 

 春もとうに終わり、時期は初夏を迎えている。

 木々は深い緑の葉を茂らせ、空は青く澄み渡った快晴で迎えた……そんな心地よい日曜日の午前中。

 

「何これあっつ……」

 

 駐車場へと止めた車から数歩歩いたあたりで……さっそく、紅がそんな弱音を吐いたのだった。

 

「今日はどちらかというと涼しいほうだが……まあ、紅はずっと病院に居たからな」

「一応リハビリの一環なんだから、無理そうならすぐに言うんだよ?」

「うん、わかってる……」

「とりあえず、建物の中に行こう。ほら、手貸せ」

「ありがと、昴……」

 

 そう言って手を引く昴に先導されて、日の当たらない建物の陰までいくと……ふいに、先程までひどく倦怠感に苛まれていた体が軽くなる。

 

「……あれ、ちょっと楽になった?」

「紅さんは……だからね。色素もないし、日光下は普通の人よりだいぶしんどいと思うよ」

 

 周囲の人々の耳を気にして、若干言葉を一部濁らせて解説してくれる宙の言葉に、紅はそういえばそうだったと自分の種族を再確認する。

 

「だから日差しが強い時に外出するときは、昨日あげたUVカットクリームをしっかり塗って、傘はちゃんと持っていくこと。いいね?」

「はーい……」

 

 吸血鬼云々が無かったとしても、そもそもアルビノという時点でだいぶ生活に制限がかかるのだということを再認識し、げんなりする。

 

「母さんも、同じ苦労をしてるの?」

「うん、あの人は日光で紅さん以上に強い悪影響を受けるからね……ただ、慣れてるからいなす術も持ってるって言ってたかな」

「何それ、羨ましい」

「はは、そのうちに教えてもらうといいよ」

 

 笑って、むくれる紅の頭をポンポン叩く宙。

 そんな中で、ふと聖が何かに気付いたように声を上げる。

 

「そういえば紅くん、天理さんは来なかったんだね」

「ああ、うん。すごく悔しがってたんだけどね、仕事さえ無ければって」

 

 昨夜ふらりと病室に現れた天理に、宙たちと買い物に行くと伝えた時の……場所が夜寝静まった病院でさえなければ地団駄を踏まんばかりの悔しがり方をしていた母の様子を思い出して、紅が苦笑する。

 

「うーん……今日メンテナンス予定のワールドシミュレーター『テイアⅡ』のメインフレームは、彼女しか手を出せないからなぁ……」

「ええと、『Destiny Unchain Online』のクエスト生成やNPCに搭載されたAI制御コードを管轄している、超高性能量子コンピューターでしたっけ?」

 

 そう聞き返す昴だったが……紅はこの時点で、ヤバい父の悪癖が出ると察する。

 

「そうそう、まあそういうことになってたね。実際はヒトの脳幹細胞のマイクロチューブルの構造を模した光子内包極小機械群集合体によって、不揮発性記録媒体も兼ねる演算特化型人工高次元知性体で……」

「待った、父さんの話はいつも専門的過ぎて俺たちにはサッパリ分からないからね!?」

「あ……っと、ごめん。悪い癖だから直さないとなぁと分かってはいるんだけど……」

 

 娘に怒られて、バツが悪そうに頭を掻く宙に、全くもうとため息を吐く紅。

 

「……でも、安心した」

「……え?」

 

 不意に、話を静かに聞いていた聖からそんなことを言われて、紅が首を傾げる。

 

「紅くん、お母さんと仲直りしたんだね」

「……そう、かな。うん、多分そうなんだろうね」

 

 確かに聖が言うとおり、気付いたら紅の中で天理に対するわだかまりみたいなものは、いつのまにか薄れていた。

 そうか、仲直りできてるんだ……そう思えた紅の足取りは、皆が言うには、先ほどよりもずっと軽くなっていたそうだった。

 

 

 

 

 ――その店舗は、ショッピングセンターPOLといった。

 

 紅たちが住む街のはずれにある、郊外型の大型ショッピングモールだ。

 広大な駐車場と、三つの五階建ての棟を空中回廊で繋いだその百貨店は、だがしかし日曜日だというのにそこまで混み合っているようすはない。

 

 というのも、現在では無人ドローンによる宅配が発達したために、通販へとショッピングの主流が移動したからだ。

 

 ただそれでも、フードコートでの食事も視野に入れた買い物客やゲームコーナーのレトロゲーム目当てな者、実際に実物に触れて商品を選びたい者など、それなりに客は居る。

 

 

 

 そんなPOL東棟の三階、婦人服売り場。

 そこに、ひときわ周囲の視線を集めている、二人の少女の姿があった。

 

 

 

「ねぇ、これなんて可愛くない?」

 

 そう言って聖が指差したのは、可愛らしい装飾が施された、青と白の涼やかなワンピース。

 

「……ちょっと少女趣味すぎない?」

「でも、今の紅くんならきっと似合うと思うな?」

「……それなら、聖だって」

「あ、じゃあお揃いで買う?」

「〜〜〜〜ッ!?」

 

 悪戯っぽい流し目と共に何気なく放たれた聖のその言葉に、紅が、ボンッ、と真っ赤になる。

 そんな仲睦まじげな二人の少女は、周囲の人々から暖かい視線を向けられていたのだった。

 

 

「いやー……息子が女の子になっちゃった時はどうしようかと思ったけど、華があるのもこれはこれで、いいものだねぇ」

「……そっスね」

 

 女の子二人、密着するような距離感で仲睦まじく服を選んでいる……そんな様子を表情を緩めて微笑ましく見守っている宙に、昴が目を逸らしたまま無愛想に返事を返す。

 

 彼が無愛想な理由……それは、この場所が女の子の服売り場なせいだ。

 全周囲煌びやかな少女の衣装に囲まれて、健全な男子高校生である昴は縮こまってこの時が早く終わることを願うしかない。

 

 だが……えてして女の子の服選びは時間が掛かるものであると経験からよく理解している彼の目は死んでいた。

 

 そんな、いっぱいいっぱいな様子の昴は差し置いて……

 

「ね、試着してみよ、試着!」

「う、うん……」

 

 はしゃぐ聖に促され、紅がおっかなびっくり値札のところにある試着ボタンに手をかざす。

 すると……NLDからAR空間が視覚に出力されて、紅の着ている服が光の粒子に包まれて、商品として展示されているワンピースへと入れ替わった。

 

 その魔法少女の変身みたいなエフェクトと、紅視点では全く別の格好に一瞬で衣装チェンジしたことに、紅は、おぉ……と感嘆の声を上げる。

 

 正面に置いてあった鏡には……青と白のワンピースを纏う、天使のように真っ白な女の子の姿。ゲーム内だけだと思っていた、その姿。

 

 

 

 ――これが、俺なんだ。

 

 

 

 呆然と、鏡に映る自分の姿に手を伸ばそうとして……

 

「……紅くん?」

「あ、ごめん。すぐに視覚共有するよ」

 

 聖の声に慌てて我に返った紅が、NLDに触れて操作する。

 

【グループとAR情報を共有しますか?】

 

 眼前にポップアップしたウィンドウに示されたそんな質問に、YESのボタンを押す。

 これで、聖や昴、宙に紅が見ている自分の姿が共有化されたはずだ。

 

「……すごい、可愛いよ紅くん!」

「俺はちょっと、複雑な気分だよ……でも、これ、薄くない?」

 

 聖の称賛の声に照れつつも、スカートを両手で軽くつまんで翻してみたり、身をよじったりして、紅は鏡に映る自分の姿をあちこちから覗きこむ。

 光が透けて、微かに体形のシルエットが浮かぶほどに繊細な生地のワンピースはひどく軽く、ターンするたびにその黒のニーハイソックスに包まれたふくらはぎを撫でて捲れ上がり、紅の白く眩しいふとももがチラチラと露わになる。

 

 ……はっきり言って、頼りない。女の子はよくこんな防御力のない服を平気で着れるなと、戦慄する紅なのだった。

 

 だが……

 

「これから夏本番だもん、大丈夫大丈夫!」

「……まあ、避暑地とか海とか似合いそうな服だよね」

 

 実際にはあまり居ないはずなのに、何故か皆が夏の海や田舎に抱く幻想の白いワンピースの少女。

 まさにそんな感じの服なものだから、多分この先暑くなってくる季節にぴったりだろう。これで麦わら帽子もあれば完璧だ。

 

「うんうん、それに、妖精さんみたいに可愛いよ、買おう、ね!」

「う、うん……聖が、そこまで言うなら……」

 

 自分でも鏡に映る自分の姿に「ちょっと良いかも……」と思っていたこともあり、押し切られるようにして頷く紅。

 

「さて、次は普段の部屋着とかも見てこないとねー」

「あ、ま、待ってよ聖!」

 

 楽しそうに紅の手を引いて、店内を歩き回る聖。

 紅はそんな聖に振り回されながらも、まんざらでもない様子であり……

 

 

「……なんていうか、尊いですね」

「ははは、そうだろう?」

 

 昴が二人に聞こえないよう呟いた言葉に、宙が自慢げに賛同する。

 

「でも、お金大丈夫ですか? さっきの白いワンピースだって結構するんじゃ……」

「大丈夫、僕けっこう稼いで溜め込んでるから。あ、そこの店員のお嬢さん、あの子らが試着してるの全部お会計ね、はいカード」

 

 さらりと何やら今時珍しいプラスチックの……黒く見えた気がするのも、対応した女性店員の顔が引きつったように見えたのも多分気のせいだろう……カードをポンと出した宙の姿を見て、昴は改めて思い出すのだった。

 

 

 

 ――そういやあいつ()、超のつく資産家のご令嬢だったな……と。

 

 

 

 





満月家の普段の生活はとても質素。
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