Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「では、城内は流石に駄目だが庭園は散策できるようにしておる。今から案内していこうぞ」
そう言って、クリムは歩き出す。
すると、撮影中だったマギウスオーブが、クリムの右肩あたり、やや斜め上の若干後方に追従してきた。
コメント:このポジション……デート距離!
コメント:天才かよ
コメント:Pの指示か、カメラさんグッジョブ!
コメント:会話する時チラチラこっち見るのがたまんねぇ……
何やら盛り上がっている視聴者に苦笑しながら、クリムは城壁前広場から庭園に向かい歩く。
「さて……庭園までしばらく道が続くため退屈だとは思うが……」
コメント:退屈なんてとんでもない!
コメント:至福の時間です!
コメント:母ちゃん、俺今女の子と歩いてるよ……!
「そ、そうか? ならば良いのじゃが……」
若干視聴者の勢いにたじろぎながらも、まあ退屈していないならいいか……と納得する。
だがそれはそれとして、間がもたないのは確かだ。ゆえに道中どうするかは既に決めてあった。
「じゃがまあ、目的まではしばらく掛かるから、その間にましゅまろ処理でもしようかと思うのじゃが、良いな?」
NLDに標準搭載されているSNS、そのアプリケーションの一つである、匿名での質問を受け付けるアプリを開きながら問い掛ける。
概ね肯定の意見なのを確かめて、クリムは最初の質問を読み上げた。
「では、一つ目じゃな。『クリムちゃんは吸血鬼ということですが、好きな血液型はなんですか?』おお……まともな質問じゃな!」
コメント:質問がまともだっただけでこの喜び様w
コメント:いつも紳士な質問しか来ないからなー
「やかましいわ。しかし好きな血液型と言われても、我フレイヤ以外の血は飲めんから比較のしようがなぁ……」
コメント:まさかの単勝。キマシタワー
コメント:偏食やべえ
コメント:ノロケ? ねえノロケなの?
「やかましい、結構深刻なのじゃぞ! 次!!」
ざわつくコメントにプリプリと怒るフリをしながら、クリムが次の質問を読み上げる。
……
…………
そうして、たまった質問をサクサク処理しつつ、しばらく歩いていくと。
「クリムちゃん、こんにちはー!」
「「「こんにちはー!!」」」
正面から駆けてきた子供たちが、すれ違い様にクリムへと手を振ってくる。
そんな微笑ましい光景に表情を緩めながら、クリムも子供たちへ返事を返す。
「うん、こんにちは。あまり走って転ばないようにね?」
「はーい」
「それと、もし転んで怪我をしたら、すぐにお花のお姉ちゃんのところにいくんだよ?」
コメント:素w
コメント:やっぱりまおー城じゃないか!
コメント:いいお姉ちゃんしてんなぁ……尊い
コメント:こんなの魔王様じゃない、まおーさまよ!
コメントの好意的な反応に苦笑しながら……そういえばと、子供たちの最後尾にいた女の子に声を掛ける。
「ところで、皆がどこにいるか知ってる?」
「うん。花壇でお花の種植えしてるよー」
「そっか、ありがとね」
そう礼を告げると、子供たちはクリムに褒められたのが嬉しかったらしく、キャッキャとはしゃぎながら走り去っていく。
クリムはその姿を満足げに頷きながら見送って……姿が見えなくなった頃、ようやく歩き出した。
コメント:ねぇ、小生この魔王城攻めるのやだ!
コメント:おのれまおー、精神攻撃とは卑劣な!!
コメント:攻めた勇者側が悪役なやつじゃないですか!
コメント:ただの楽園で草しか生えない
「はは、すまんな。街の皆が仕事の間、まだ家の手伝いができない子供のために寺子屋を開いたのでな。子供ばっかりなのじゃよ」
コメント:だから何やってんだよまおー様ァ!?
コメント:創作によく居るひたすら善人なやつw
コメント:住人の信頼厚すぎて草w
「というわけで、その先生当人に突撃してみようかの。よしお主ら、ついてまいれ」
コメント:おー
コメント:オラ逆にワクワクしてきたぞ
子供たちから聞いた目的地へと再び歩き出したクリムに、コメントはもはや諦めと共に、生暖かい雰囲気で見送るのだった。
そうして、しばらく歩いて人影を見つけたのは……以前アドナメレクと激闘を繰り広げた、あの広場。
あの時はボロボロに朽ちていた広場も、今やすっかり再生され、綺麗な白亜の庭園の姿を取り戻していた。
だからこそ、その光景に花々が無いのが寂しくもあるが……その一角に、目的の探し人たちは居た。
「ああ、居った居った。おーい、フレイヤ」
「あ、クリムちゃん、配信……は終わってないみたいだね」
どうやら花を生けるために必要な土を花壇に運んでいたらしいフレイヤが、クリムの傍らに浮かぶマギウスオーブを見て察してくれる。
ちなみに雛菊とリコリス、それとフレイは現在新参入メンバーを連れてスキル上げに行っていたので不在である。
「うむ、今現在庭園を案内中じゃ。ダアトは居るかの?」
「うん、あっちで子供たちと花壇の世話をしてるよー、何か用事?」
「うむ、あの娘も紹介しておこうと思ってな。何せ我らの城の大家じゃからな」
クリムが、フレイヤと冗談まじりにそんな談笑をしている間。
コメント:おい、ここ……
コメント:ああ、間違いない……お姉様のテリトリーだ
コメント:中……外……中……あああ!?
コメント:踏んでくださいなんでもしますから!!
コメント:発症者多すぎぃ!!www
コメント欄は、レイドダンジョン経験者のトラウマが刺激され、大変なことになっていた。
なにやらざわついているコメント欄を他所に、クリムは広場外縁に座り込み、子供たちと一緒に花壇を掘って何かを植えているフード姿の少女へと歩み寄る。
「うん、もう少し掘って……あまり浅いと鳥さんに食べられてしまいますからね」
子供たちに優しい声で指示を出している、樹精霊の少女。彼女に近寄ろうとしたその時、割り込んできた別の者が居た。
「ヒッ……こほん。あらマスター、何かご用かしら?」
「……お主、まだトラウマ抜けとらんの?」
「だ・れ・の・せいよー!?」
クリムの呆れ声に、クラシックなメイド姿をした金髪の美少女が食って掛かる。そんな光景に……
コメント:え、アドニスちゃん!?
コメント:なぜメイドさんw
コメント:クリムちゃん、いたいけな女騎士を調教したの……
「人聞きの悪いことを言うでないわ! 正規雇用ぞ!?」
さすがに聞き流せず、ぜぇはぁと声を荒らげながらツッコミを入れるクリム。
突然叫んだクリムに真っ青な顔で震えていたアドニスだったが……すぐにクリムが叫んだ対象が傍らに浮かぶ球体だと気付いたらしく、興味津々といった様子で近寄ってきた。
「へえ、これで撮影しているのね」
興味深そうに、クリムの傍らに浮かぶマギウスオーブを覗き込み、突いてみたりするアドニス。当然ながら、撮影は継続中であるわけで。
コメント:近い近い近いww
コメント:ガチ恋距離たすかる
コメント:はぁアドニスたんかわかわ
画面いっぱいに表示された美少女メイドさんの顔に、コメント欄は沸き立っていたのだった。
「ちなみにアドニス、お主が映っていることに、皆結構な好評なようだぞ。人気者じゃな、お主」
「そっ……そうなの? 別に嬉しくはないけど礼は言っておくわ」
「素直じゃないのぅ……」
ツンと澄まし顔でそっぽを向くアドニスだったが、その耳まで赤い様子に呆れたように呟くクリム。
コメント:だがそれがいい
コメント:典型的ツンデレ美味しい
コメント:ツンツンしてるけど嬉しいのモロバレ可愛い
視聴者からはそんな好意的な声が多い。だが一方では……
コメント:泣かせたい
コメント:絶望顔させたい
コメント:沼地のジャイアントトードに突っ込ませたい
コメント:カエルにモグモグされて粘液塗れのアドニスたんと聞いて
純粋な好意の声に倍する、歪んだ好意の声。
喜んでいるアドニスに水を差すのは躊躇われ、これらの声はそっと己が胸の内に仕舞い込むクリムなのだった。
「あ、アドニスちゃん、それとマスターもいったい何を?」
あまりに2人が騒がしくするものだから、ダアトが子供たちと共にクリムのほうへやってくる。
コメント:お、NPC?
コメント:綺麗な声だな、女の子?
コメント:子供たちからの懐かれよう、さてはこの子が先生か
またも現れた人物に、次々と憶測が飛び交う。
「ほれダアト、お主も何か言いたいことがあれば、せっかくだから遠慮なく言うがいい」
そう勧めると、「え、私がですか? そんな、恐れ多い……」と遠慮するダアト。
だがクリムには、彼女が映ればもしかしたらこの放送を見た、例の『ダアト=クリファード』かもしれない少女と行動を共にしている『勇者様』が会いにくるかもしれない、という打算もあった。
それに……
「遠慮するな。我はお主も家族の一員と思っておる。ほれ、何か言ってやれ」
「えっと、それじゃあ……失礼しますね」
こほんと一つ咳払いし、フードを取りながら……
「えぇと、初めまして。私、ダアト=セイファートと申します、しがない樹精霊です。それで、何を言えばいいかしら……そうだ、来月には、今日子供たちと植えたお花も見頃になりますので……皆様、もし良かったら見に来てくださいね?」
そう慣れぬカメラ相手に初々しい様子で語りかける花の精霊が、ふわりとした柔らかな微笑みを浮かべて視聴者へと呼び掛ける。
――そんな彼女の姿を不意打ちで叩きつけられた視聴者たちは、どうやらひとたまりもなく陥落したようで……次の瞬間、クリムの動体視力でも追えぬほどの速度で流れ出したコメント群。
そうしてクリムはこの日、久々の配信の大成功に喜ぶ暇もなく……続々届く、視聴者からの大量の入団希望メールと格闘する羽目になるのだった――……