Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
邪竜ファーヴニル、第二形態。
全身の鱗の守りを犠牲にして、内部に溜め込んだ魔力を暴走させたその形態。
プレイヤーたちは不吉なものを感じ、皆一斉に攻撃を仕掛けるも、刻一刻と不穏な輝きを増していく邪竜の光。
そして……ついに、その時が来る。
広大な、あまりにも広大なAoE(Area of Effect)。
後衛プレイヤーさえも全てそっくり範囲に収めたその禍々しい赤いエフェクトに、皆が一目散に退避する。
だが……ついには、最接近していたために退避が間に合わなかった者、足が遅い者、そして、最後までAoEの中心である邪竜をその場に縫いとめる道を選んだ者……それら相当な人数を巻き込んで、それは放たれた。
――その技名を、『極大消滅波』と言う。
全周囲に放射されたその灼熱のエネルギー波は、逃げ遅れた者たちを飲み込んで――開拓予定地だった森林と、開墾したはずだった土地、およそ直径200メートルほどの範囲を灼熱渦巻く更地へと変貌させていた。
無数に居た逃げ遅れたプレイヤー、そのほとんどが、咄嗟に防御技を放ったタンク職を除き、塵となって消えた。
皆が呆然と見つめる地獄のような光景。タンクがタンクとして機能できないという、再び訪れた絶望。
だが……その中で、まるで映像を逆再生するように塵から人の姿へと戻っていく者が居た。
それは……再びその髪を真っ赤に変じたスザクだった。
「『竜血の英雄』……正直、使いたくなかったけどな、コレぇ!!」
――だって、予想通り気分いいものじゃねーもん、これ!
自分の体が塵に分解され、それがより集まって再び自分の体を取り戻すなど、あまりにも気持ち悪い、トラウマになりそうな感覚だった。
だが……生きている。全損したはずのHPは、今は1だけ復活している。
そして、眼下には倒すべきボスが居る。
――だったら……やることは、一つ!
「おぉおおお゛お゛お゛お゛お゛ォッ!!?」
手にした魔剣を握り締め、落下の勢いのまま、受け身すら考えぬままに、思い切り邪竜の左肩目掛け振り下ろす。
ブチブチブチッという手答えをスザクの掌に残して、手にした魔剣がその邪竜の肩を、現実ならば骨が見えるであろうほど深く、肘の辺りまで斬り裂いた。
だが……捨身で一撃を放ったスザクに落下の勢いを殺す手段はなく、凄まじい勢いで叩きつけられた衝撃と共に、HPが再び全損する。
そして、すぐさま1だけ再生する。
砕けたはずの四肢が即座に再生し、傷だらけでそこかしこからダメージエフェクトの光を迸らせながらもスザクは立ち上がった。
その凄惨な姿に、プレイヤーたちにざわめきが走る、が。
「残りだいたい四十秒だ、それだけどうにか持たせる! お前ら全部叩き込め!!」
再度一人で邪竜の前に立ち塞がったスザクの叫び声に、周囲の生き残っている者たちは戸惑いつつも、今がチャンスだと慌ただしく動き始める。
錬金術師や回復魔法持ちは、咄嗟に防御系戦技を使用し、かろうじて生き残っていた盾役へと回復薬を投与したり、回復魔法を施す。
前衛職は必死に邪竜のもとへと殺到し、遠隔攻撃持ちは矢もMPも尽きよとばかりに最大火力を叩き込む。
そんな中にはもちろん、銃を構えた機械の少女……リコリスの姿もあった。
「――EXドライヴ!!」
リコリスが、高らかに宣言した。
その背に、光が爆発する。
「熾天展開、無限光填……此処を照らすの、『ゼラフ・フリューゲル』!!」
そう高らかに少女が叫んだ瞬間、彼女の背に三対の光翼が生まれ、その小さな体を宙へと浮かび上がらせる。
彼女はそのまま、幾重もの魔法陣に包まれている手にした魔機銃、その横に展開したグリップを掴んで両手で保持する。
そうして三機の補助攻撃ユニット『サポートデバイス』をも接続して、銃に全魔力を注ぎ込み始める。
「座標固定、バレル展開、チャージ開始……ッ!」
リコリスの背に生えた三対の翼のうち上二つの背後に、幾何学的な紋章が、ひとまわり大きな翼のような形状となって生まれる。
だが……彼女は、まだ撃たない。真っ直ぐに銃口を邪竜へと定め、そのまま宙に滞空しながらなおも魔力を砲身へと蓄え続けていた。
さらに、もう一対の光翼に紋章が生まれる。
残り二枚、六枚の翼全てが魔法陣を生み出した瞬間が、少女の攻撃が放たれるタイミングなのだと察した皆が、固唾を呑んでその時を待つ。
だが――当然ながら、そんなあからさまな大技の隙を、邪竜が待ってくれるはずもなく……一時的にスザクからターゲットを外した邪竜が、その首をもたげ、リコリスへと照準を合わせる。
「逃げろ、リコリスちゃん!!」
「……っ!?」
突然のヘイト無視ターゲットにスザクが警告を発するも、すでにチャージに入り身動きが取れないリコリスの表情が強張る。
だが、それを阻む影があった。
崖を駆け上り、高く高く宙へと舞い上がり、邪竜の射線を遮るように跳んだその影は……雛菊。
「EXドライヴ!!」
そう宣言し、空中で身を捻りながら、何故か太刀を鞘に収めた雛菊が、パンッ、と両手を合わせる。
「調魔覆滅、蒼刃顕現……此処に形為すです、『蒼神炎舞刃』……ッ!!」
雛菊の小さな手の間から、蒼い焔が噴き出す。
次の瞬間、まるで刀を引き抜くような動作を取った彼女の手には……魔を滅する蒼炎を凝縮した、蒼く輝く太刀が握られていた。
そんな彼女もろともに、銃を構えて滞空するリコリスを撃たんと、邪竜のブレスがまるでビームのような閃光と化して放たれた。
だが、雛菊はそんな死の閃光にも臆さずに、蒼く輝く炎の剣を振りかぶり――
「――はぁぁあああああッッ!!」
――全霊を込めて振り下ろした。
瞬間的に何十メートルも伸長したその炎の刃は、一瞬だけ邪竜のブレスと拮抗し……その退魔の焔の結晶はブレスを引き裂いて、さらにその先、邪竜の左翼を引き裂いた。
――ガア゛ア゛ア゛ッッ!!?
苦痛と、それを塗り潰す憎悪の咆哮を上げるファーヴニル。その視線が、今自分を酷く傷付けた矮小な存在を睨む、が。
「ありがとう雛菊ちゃん!」
表情を明るくしたリコリスが、仕事は果たしたとばかりに落ちていく雛菊に、そう叫ぶ。
力を使い果たして、リコリスへと親指を立てて落ちていく雛菊は、下で慌てて助けに来たプレイヤーへと無事受け止められていた。
「それじゃ……行きます!! これが、私の全力全開……くらえ、『アイン・ソフ・アウル=バレット』……ッ!!!」
――瞬間、リコリスの手にしたライフルから放たれた極光が、戦場を染め上げる。
巨大で繊細な六枚羽の形をした魔法陣を背後に従えた少女の手にした銃口から放たれたその光は、巨大な槍となって邪竜ファーヴニルの右半身を奔り――次の瞬間、大地を融解し天を衝く巨大な光の柱と共に、その右前足、右翼、右後脚が宙を舞った。
次の瞬間に放たれた邪竜ファーヴニルの絶叫は……今度こそ、自身の死を予見した悲痛な悲鳴だった。
そんな、華々しい焔と光が乱舞している中……半身を斬り裂かれ、ひとたまりもなく崩れ落ちた邪竜の足元で。
「ぐ、くっ………」
時間経過により『竜血の英雄・偽』の効果時間が切れたことで、回復不能のスタンに蝕まれたスザクの体が、魔剣を杖としてがくりと膝をつく。
――まあ、頑張ったよな。
遠くから、回復を終えたタンク職の者たちが駆け寄ってきているのが見える。今度こそ、自分はお役御免だろう。
雛菊、リコリス両名の攻撃を受けたことで脚と両翼を失い、大きくダウンしているファーヴニルは、それでもいっそ哀れな悲鳴を上げながら、今はどうにか体勢を立て直そうと暴れている。
ターゲットも何もなくただ振り回されているその四肢の残り半分に当たる奴なんて、よほどノロマか、運が悪い者ぐらいだろう。
――あるいは、間抜けにも敵正面で身動きできないデバフを受けてるとかな。
頭上から降ってくるファーヴニルの尻尾。それを自嘲気味に笑って眺めながら、呟く。
スザクの、もはや1しか残っていないライフでその重圧に耐えられる訳もなく、ここで死んだら一時間はまともに動けない『重傷』者だ。
あ、これは死んだかなと、いっそ穏やかな表情で受け入れた時だった。
「おっと、勇者様がここで死ぬのは台無しってもんだー!」
そんな、場違いに明るい声と共に何者かに体を引かれ、間一髪で邪竜の尻尾の下敷きという運命は遠のいていった。
そのまま、宙に浮いたスザクの体は邪竜から遠ざかっていく。どうやら、数人に担がれて運ばれているらしい。
「今度は、間に合いました」
「あ、あの、以前は助けてくれてありがとうございました、ようやく少しだけ借りを返せます!」
何故か、赤髪のクールな美人さんと、いつか見た気がする緑のおさげ髪の女の子に担がれて運ばれている……そんな状況を認識したスザクは。
「……なんつうか、締まらねぇなあ」
「ははは、ネトゲで勇者様ロールプレイなんてそんなもんだね!」
そんなスザクの泣き言は、見覚えのある青髪の錬金術師に笑い飛ばされた。
女の子に担がれて、スタコラサッサと避難させられているスザク。むしろ華々しく散っていたほうが格好ついたのではないかと、苦笑するのだった。
――そして、その数分後。
およそ三時間にわたり死闘を繰り広げた大規模レイドバトルイベントの討伐対象、邪竜ファーヴニルは、ついに断末魔の咆哮と共に、地に倒れ伏すのだった――……