Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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魔王と勇者の茶会

 

 ――セイファート城の、修繕された庭園の一角。

 

「クリム様、お客様をお連れいたしました」

 

 そう一礼して、クリムのいる庭園に入ってきたのは、執事として雑務を取り仕切ってくれているエルヒム・ツァオバト。

 そんな彼の後ろから、所在なさげに周囲をキョロキョロと見回しているのは……今や紅の騎士服と紅のスケイルアーマーがトレードマークとなっている、話題の人物『竜血の勇者』スザクその人だった。

 

 話がしたい……そんなメッセージと共に添えて送られた、一回かぎりの使い捨てで、ギルド未所属のプレイヤーをゲストとしてギルドホームへと招く、魔法のチケット。

 

 それをメッセージで送り、彼を迎え入れたホスト……クリムは、庭に設えられた茶会の席、菓子類が並べられたテーブルへと、彼を手招きする。

 

「ああ、楽にしてくれて構わぬぞ。今日は少し聞きたいことがあっただけじゃからな」

「はあ……俺に?」

「うむ、だが、まずは……先日のレイドバトル、うちのメンバーが世話になったな。その礼を」

「いや……それは、むしろ俺のほうこそ世話になった側だし」

 

 立ち上がり、スカートの裾を摘んで頭を下げるクリムに、慌てた様子で謙遜するスザク。

 そんな様子を苦笑しながら、改めて席へと着くよう促すクリムなのだった。

 

 

 

 ――そうして始まった、魔王と勇者の不思議な茶会。

 

「というか、まず聞きたいんだが……君はなんでそんな格好なんだ?」

「ほっとけ。仲間が先日のドレス以来、すっかり我を着飾ることに味をしめたらしくてこのザマじゃ」

 

 そう憮然と頬杖をつくクリムの現在の格好は……今はなんと、本格的なロリータファッションだ。

 黒色の、フリルに埋もれるような甘いドレスに、頭は同色のボンネットから足元はブーツまで、全身黒ロリータファッションにトータルコーディネートされた様は普通であれば痛々しいところだが……

 

「すげぇな、日本人でそれが完璧に似合ってる奴、初めて見た」

「むぅ……そ、そうか?」

 

 元が人形のように整った容姿のクリムには、不思議とそのような格好でも違和感なく溶け込んでいた。むしろカジュアルな格好よりよほど似合うくらいである。

 

 何やら複雑そうな表情でボンネットの位置を調節しているクリムを他所に、エルヒムがスザクを席に案内し、その前に素早くお茶の支度がされていく。

 

 

 

「それで、用事って結局なんなんだ? もしかして……勧誘か?」

「うむ、それも悪くない。お主は有望株であることだし、それに……」

 

 悪戯っぽい表情で、スザクが紅茶を口にしたタイミングを窺うクリム。不幸にも、明らかに高級品な香りがする紅茶に興味を引かれていたスザクはそんな少女の様子に気付いていなかった。

 

 

「……以前の反応からずっと気になっておったが、お主、我と以前リアルで会っておるじゃろ?」

 

 

 そんなクリムの言葉に、今まさに紅茶のカップを傾けたところだったスザクが、「ブポッ」と盛大な音を立てて吹き出した。

 

「ふふん、やはりの。ついでに言うならば、以前に対戦格闘ゲームをプレイしたお兄さんじゃろ?」

「……よく分かったな、姿は結構弄ったんだが」

 

 濡れた顔の周りを拭きながらジトっと睨んでくるスザクの視線を悠々と受け流しながら、クリムが指を立てて解説する。

 

「お主は以前、初対面の我の姿を見て驚いておったからの。考えられる理由などそれくらいしかあるまいて」

「あー、くそ、あの時か。そりゃ驚くだろ、あんたのその姿がリアルと同じなんだから」

 

 そう悪態を吐くスザクだったが、クリムは今度は真面目な顔になり、膝に手を揃え頭を下げる。

 

「……あの時は、お主はまともにこちらの礼など聞いてなかったからの。改めて、あの時は暴漢から我と幼なじみを助けてくれたこと、感謝する」

「あ、ああ……どういたしまして」

 

 深々と頭を下げて礼を述べるクリムに、しどろもどろになりながらも今回はきちんと返答するスザクだった。

 

 

 

 

 

「……で、勧誘ってんなら、悪いが」

「あー、それも考えているというだけで、主目的ではないのじゃ」

 

 断りの返事を返そうとするスザクに、クリムは特に気にした様子もなくその言葉の先を制する。

 では何を、と眉をひそめるスザクに、たっぷり三十秒くらい、紅茶で唇と喉を湿らせたクリムが、ポツリと言葉を発する。

 

 

「――お主、ダアト=クリファードという名前に聞き覚えがあるな?」

 

 

 不意打ちでその名前を聞いて、スザクの表情が真顔になる。

 

「やはりの……お主のツレか」

「お前、どうしてその名前を……」

「慌てるでない、すぐに説明してやろう……ダアト、ここに」

 

 そう言って、パチンと指を鳴らすクリム。すると、その背後のまだ蕾がついたばかりの花が絡むグリーンカーテンの奥から、ボロボロなローブ姿の人物が姿を現した。

 

「あんたは……」

「ダアト=セイファートと申します。あなたのお連れ、ダアト=クリファードの姉のようなものです」

 

 そう告げて、フードを外すダアト=セイファート。

 その顔を見て、スザクは今度こそ、その顔を驚愕の色に歪めた。

 

 そこにあったのは……彼にとっては、髪色以外は見知った少女と寸分違わぬ同じ顔。

 

「貴方にも、全てお話しします……聞いていただけますか?」

「……分かった、聞いてやろうじゃないか」

 

 そう言って、改めて聞く態勢をとるスザク。

 その準備が整うのを確認し……ダアト=セイファートは、以前にクリムたちにも話したこの大陸を包む暗雲の話を、ゆっくりと語り始めたのだった。

 

 

 

 ――そうして、エルヒムが気を利かせて入れ直した紅茶がすっかり冷めた頃。

 

「……あいつが、この大陸に暗躍する悪の精霊だって?」

 

 ダアト=セイファートが語る全てを聞いたスザクは、馬鹿馬鹿しいとそっぽを向く。だが……どうやら一概に切って捨てることはできないようで、席を立つ様子は見受けられなかった。

 

「いや、まだそうと決まったわけではない……が、お主の連れが同じ名前をしていること、決して無関係なはずがあるまい」

「……馬鹿馬鹿しい、あいつは我儘で、馬鹿で、自分勝手でガキっぽくて……」

 

 諭すようなクリムのセリフに、スザクはまるで自分へと言い聞かせているかのように、そのような愚痴を並べ始める。

 

「……随分と散々な言われようじゃのう」

「……姉としては、思い当たる節があるので否定できませんわ」

 

 ポツポツと愚痴を零しているスザクの様子に、困ったように冷めて飲みやすくなった紅茶に口をつけるクリムと、あらあら……と頬に手を当てて苦笑しているダアト。

 

 

 

「……で、お前はその話を俺に聞かせて、どうするつもりなんだ?」

「別に、どうもせぬ。お主が例の娘を信じているならば、変わらず守ってやるといい」

「……はぁ?」

 

 あっけらかんと告げたクリムの言葉に、すわ一戦交えるのかと身構えていたスザクが、机についていた頬杖からずり落ちる。

 

「……いつか、お前たちの敵になるかもしれなくてもか?」

「構わぬ。お主と行動を共にするダアト=クリファードについては、どうやらお主に紐付けられたシナリオじゃ。我は、何も分からぬ段階でしゃしゃり出てそれを引っ掻き回そうなどとは思わぬ」

「は、はぁ……」

「釈然といかんか? じゃが、我は他のゲーマーのプレイ中のシナリオを横取りなどしとうない。すでにこの『ハンドアウト』は、お主に託されたのじゃからな」

 

 ハンドアウト……元はT(テーブルトーク)RPGの用語であり、ゲームマスターからプレイヤーへと渡される事前資料、ひいてはそのプレイヤーに委ねられたシナリオへの導入や為すべき命題のことを指す。

 

 

 

 ……各プレイヤーの行動により、世界やそこに暮らす人々が常に変化していくこの『ワールドシミュレーター』とでも言うべき『Destiny Unchain Online』。

 その高度仮想世界において、既存のMMORPGのように誰にでも同じクエストを……というわけにはいかない。それは逆に、歪みを蓄積し破綻してしまう。

 

 故にこの『Destiny Unchain Online』にて採用されたのが、この『ハンドアウト形式』というシナリオ形式……ゲームマスターである基幹プログラムが自動生成し、気が遠くなるほどに数多抱えたシナリオから、世界の動き、各プレイヤーの行動や世界との関わりに合わせて、各プレイヤーへとシナリオを割り振るというものだった。

 

 

 

 だからクリムはダアト=クリファードの真相を追うという命題を背負い、スザクはそのダアト=クリファードと交流する命題を背負っている。

 

 そしてそれは……未来にて、ぶつかり合うことになりかねないほどに近しい道だ。

 

 故に、クリムは一度、彼……スザクと話をしなければならなかった。

 

「という訳で、お主の事情は尊重する――じゃが、事は我らの事情にも絡んでおる。故にこちらでも独自に情報を集めるが、構わぬな?」

「それは、まあ……」

「うむ。とりあえず、それだけは筋として、きちんとお主に話しておきたかったのじゃ。すまんな」

「いや……俺の方こそ、知らない場所で色々気を使ってもらっていたみたいで、悪かった」

 

 先程の非礼な態度についてだろう、スザクが素直にクリムへと謝罪する。

 

「だが……それがこの世界にとってのバッドエンドに向かうようならば、我はその時には、お主を排除してでも捨て置かん。それが嫌ならば、精々しっかり自分の命題を攻略するが良い、勇者よ」

「……その呼び方、勘弁してくれ」

「クハハ、まぁ、我の苦労も少しは味わうがいい」

 

 勇者と呼ばれ辟易しているスザクに、クリムはそう、愉快げに笑うのだった――……

 

 

 

 

 

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