Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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満月紅のある朝の一幕

 

 邪竜ファーヴニル討滅戦から、すでに半月。梅雨もだいぶ前に明け、(こよみ)も文月へと変わった頃。

 

 クリムと、フレイヤにフレイ、そしてカスミの杜乃宮(もりのみや)生たちは、セイファート城の一角にある小部屋で頭を突き合わせ、勉学に勤しんでいた。

 

 

 

 ――ところで、忘れられがちではあるが。

 

 魔王様として、プレイヤーの頂点に立つクリム。そしてその配下としてトッププレイヤーに名を連ねるギルド『ルアシェイア』の面々であるが……その大半は、まだ学生である。

 

 そして、その本分は学業であり……この時期、特に高校生であるクリムたちは、今まさに一週間後に控えた期末考査という、修羅場真っ只中なのだった。

 

 

 

 そんなわけで、ゲーム内に集まって試験勉強に勤しむ四人だったが……

 

 

 

「うわーん、なんでこの高度ネットワーク時代にこんな旧態依然としたテストなんて受けないといけないのー!?」

 

 そう言ってペンを投げて机に伏せったのは、緑髪の少女……委員長ことカスミだった。

 

「はは……学校での委員長は勉強が得意そうに見えたから、正直意外だったね」

 

 そう苦笑しながらカスミを宥めているのは、すでにそつなく復習を終えており、教える側に回っていたフレイ。

 

「だってぇ、私はちょっと頑張って背伸びした学校に入った凡人なんだもの……」

「いえ、それは凡人とは言わないのではないでしょうか……」

 

 現実世界よりもややオーバーに感情が出力される『Destiny Unchain Online』内で、えぐえぐと泣きながら弱音を吐くカスミに、フレイヤが困ったように苦笑する。

 

「というか、私よりずっとログイン時間が長いクリムちゃんが余裕なのが納得いかない……」

「……と、言われてものぅ」

 

 ジトッとした目で矛先を向けられたクリムは、黙々と暗記のために目を通していた世界史の教科書から顔を上げ、首を傾げる。

 

「学校の定期試験なぞ、それまでの授業内容が身についているかを測るための効果測定でしかないじゃろ……日々習った内容をその都度確認しておれば、別に試験直前に慌てんでも問題無いのではないか?」

「それは、ほんの一握りのとんでもない優等生の言う正論なのよー!?」

 

 サラッと語るクリムに、ガーっとカスミが反論する。

 が、しかし、その勢いはすぐに削がれ、意気消沈して席に座り直した。

 

「うう、でもクリムちゃんはご両親の分の家事までやってるのよね……ぐうの音も出ないわ……」

 

 ゲームだけでなく家事もこなしたうえに、成績もこの中では一番上というクリムに、諦観の表情で渇いた笑いを上げるカスミ。

 

「まぁまぁ、クリムちゃんはちょっと非常識だから……」

「持たざる者の気持ちが分からんタイプだからな、比較しても無駄だぞ」

「お主ら酷くね!?」

 

 さりげなくディスられたことに抗議しようと立ち上がったクリムだったが。

 

「……う」

「……クリムちゃん?」

 

 まるで立ちくらみのようにふらっと傾いだクリムに、フレイヤが心配して駆け寄る。

 

「いや……すまん、我はもう寝る。なんだか妙に眠くてな」

「そ、そう……? 何かあったら、すぐ連絡してね?」

 

 そう心配そうにするフレイヤに見送られ、クリムは皆より一足早く試験勉強を切り上げて、ログアウトしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――その翌日。

 

 相変わらず眠気はあるものの、昨夜は早寝したために問題なくいつもの時間に目が覚めた紅は……しばらくボーっとしてはいたものの、朝食と両親のお弁当を準備しなければと思い出して気合いを入れ、のそのそとベッドから這い出す。

 

 暑かったため、どうせ部屋の中だけだし誰かに見られることもないからと着用していた、透けるほど薄いネグリジェを脱いでベッドに放り投げる。

 

 部屋の片隅に新調された、今までより大きな衣装箪笥を開けると……そこに綺麗に並べて収められていた下着の中から、今履いているショーツと同じデザインのブラジャーを探して取り出す。

 

 その繊細な装飾が施された下着の、ストラップに肩を通すと、やや前屈みになって胸の位置を合わせ、背中にあるホックを留める。紅のこの新しい身体は非常に柔軟で、そんな作業も今やすっかり慣れて楽々だ。

 

 そのまま、下着屋さんで教えてもらったように胸の位置を調節してブラジャーの中に納め、パッドの位置を合わせ、ストラップの長さも調節して……身を起こして鏡を見れば、胸は少しだけ谷間の浮かんだ綺麗な形に収まっていて、紅はよし、と内心でガッツポーズを取る。

 

 

 ……が、そこでふと違和感があった。

 

 

 なんだか、胸が張っているような違和感。僅かな痛みもある気がする。

 とはいえ確かめ直しても下着がズレている様子も無く、首を傾げながらも着替えを続ける。

 

 

 その上から着用するのは、薄手のシュミーズ。服との擦過により肌や下着が損傷するのを防ぐためのものだというそのサラッとした手触りの衣服を頭から被り、その上からブラウス、制服のスカートの順番に着用する。

 そこまで支度をしたところでドアノブに掛けてあったエプロンを手にし、身に付けながら一階へと降りていく。

 

 

 リビングに踏み込むと……途端につけっぱなしになっていたエアコンの利いた、ヒヤリとした空気に包まれる。

 見ればテーブルの上には食べ終わった食器と、電源が入ったままのタブレットが放置してあった。

 

「はぁ……父さん、また?」

 

 入口からは死角になっているソファを覗き込むと……案の定、そこには持ち帰った仕事の途中で寝てしまったと思しき父、(そら)が、すっかりはだけたタオルケット一枚で寝入っていた。

 

「全く……父さんってば。家に帰っただけで休んだとは言わないんだよ、分かってる?」

 

 呆れながら、起こさないよう宙にタオルケットをかけ直してやり、空いた食器はシンクに放り込んで水を張る。

 その後は、昨夜のうちに下処理を済ませていた唐揚げを冷蔵庫から取り出して、キッチンの片隅にあるノンフライヤーへ投入してスイッチオン。

 

 元々朝には弱く、吸血鬼となってさらに早起きが辛くなった紅は、基本的にお弁当の中身は時短メニューもしくは前日夜に用意してしまう。

 

 ノンフライヤーで調理されている唐揚げができあがるまでの間、大中小、三つの弁当箱を取り出すと、昨夜のうちにタイマーを合わせて炊いておいたご飯を詰める。

 さらに作り置きの惣菜や、茹でて冷蔵庫で冷やしておいたブロッコリーと、ヘタを取ったプチトマトも弁当箱の中に並べる。

 肉が食べられない紅は、自分の分には唐揚げの代わりに、これもまた作っておいた卵焼きを詰めておく。余った分は斜めに二等分でカットし、隙間を埋めるように両親のお弁当に入れるのも忘れない。

 

 そうしているうちに、ノンフライヤーから調理完了のアラームが鳴ったので、完成した唐揚げも弁当箱に詰めてから……ついでにトースターで焼いておいたパンに、紅が好きで買い溜めている、市販されている某喫茶店の餡子とバターを乗せ、お弁当の残りのプチトマトも摘みながら簡単に自分の朝食を済ませる。

 

 六枚切りの食パン一枚でお腹いっぱい……とまではいかないが、十分に満たされたお腹をさすり、うん、OKと満足げに頷く。

 

 そうして朝の仕事を済ませたあと、歯を磨き、戻ってきた頃にはいい感じにご飯の湯気が飛んだお弁当。それらに蓋をして、夏場という季節を考慮し専用保冷バッグに保冷剤と共に包む。

 両親の分には『今日のお弁当。ちゃんと休みなよ』と殴り書きした書き置きを残して、これもOKと指差し確認。

 

 残る一番小さな自分のお弁当は、リビングに置いてある自分の鞄へと詰め込んで、肌が露出する場所には忘れないように母謹製UVカットクリームを塗り込んでから同じくリビングに吊るしてあった制服のブレザーに袖を通して玄関へ向かう。

 

 そこに置いてあった鏡で、クルッと自分の格好を確認すると……制服のスカートがふわりと舞い上がり、透き通るような白髪がきらきらと宙を舞う。

 

 スカート丈よし。

 着衣に乱れ無し、よし。

 今日も俺かわ、よし。

 

 そう確認して、グッとガッツポーズを取り――

 

 

「……って、何やってんの俺ぇ!?」

 

 

 ――ガン、と玄関の壁に頭を打ちつける紅なのだった。

 

 

 

 起きてから今までのムーブを思い出して、その家を出るまでの一連の行動が傍から見たらどう見えるかを客観視し、顔を真っ赤に染めてがっくりと項垂れる。

 

「いや、染まりすぎでしょ、なんで女の子ムーブ自然にやってるのさ……」

 

 しかも、全て無意識のまま素でやっていた。

 すっかり『女の子』……それも相当に出来たお嬢さんだ……に染まっている自分に愕然としながら、いつもの白い日傘を手に取ってふらふらと玄関を出る。

 

 途端に全身を刺すのは、日傘越しでなおキツい真夏の日差し。

 

「……あっつ」

 

 七月、もうすぐ夏も後半戦。

 

 梅雨も明けた日差しはキツく、ジリジリと地面から照り返す熱は耐えがたい。

 特に日光には当れない紅は長袖であり、真夏の暑さはひどく耐え難く……ゆえに、ズルをすることにした。

 

(サス)第一位階(ヴァスト)付与(フルド)冷気(グラート)(ヒッツ)遮断(クロズ)……制温(ユーネルスタ)。『サーマル・レジスト』」

 

 簡単な呪文を唱えると、フッと体を包んでいたうだるような暑さが消えて、エアコン下のような涼しい風が服の下の素肌を撫でる。

 

 ――母が教えてくれた、イメージにより設定した温度の空気を身に纏う()()

 

 それを制服の下に発動した今、紅は外に居ながら、冷房の利いた自室に居るような快適な空間の中に居た。

 

「……大っぴらには使えないから、ズルしてるようで申し訳ないけどね」

 

 なんとなしに独り言ちながら、登校する際の聖と昴との待ち合わせ場所である、近所の公園へと歩き出す。

 

 

 

 まさかこの現代に、学校の教室内全部に魔法を掛けるわけにもいかない。そのため恩恵に与ることができるのは自分だけ。

 

 使用できる者も、母の話では明確に限られているそうで、母曰く……

 

 

「脳神経細胞のマイクロチューブル内に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取り込んでる者だけが使えるのじゃ」

「何それ怖いんだけど」

 

 

 ……とのことだった。

 

 それを母、天理から聞いた日の夜は、寝ている間に脳内を書き換えられているのではないだろうかと気が気でなく、紅は一睡もできなかった。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 ただでさえ日光に弱い紅にはこの暑さは命取りなため……使えるものは使う主義である紅は、便利に活用していたのだった。

 

 

 

 

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