Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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招待、オフラインミーティング

 

 ――翌日、生理2日目。

 

「大丈夫? 具合悪くない?」

「お薬要る?」

「あ、ありがとうございます大丈夫です……お薬もあります」

 

 テスト直前ということもあって、紅がこの日はきちんと登校し、教室の扉をくぐった瞬間――あっという間に心配した様子のクラスメイトの女子たちに囲まれてしまった。

 おそらく元々の病弱という誤解もあって、テスト前という今の時期にもかかわらず昨日休んだことで、多大な心配をかけたらしい。

 

 ――やはり同級生から妹扱いされているような気がするが、それはそれ。

 

 心配してくれていることは間違いないため、女の子に囲まれている状況にしどろもどろになりながらも、紅はどうにか笑顔で返事を返す。

 

 そうして何故かやたらと優しいクラスメイトに戸惑いながらも……どうにか午前中の授業を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 ……本来であれば試験期間で午前授業だが、杜乃宮ではテスト期間、これまでの授業への理解に不安を感じている生徒のための任意参加の補講を行なっている。

 

 それを受けるために、紅たちは会場である学生会館の特別講堂へと移動して、昼食を摂っていた。

 

「紅ちゃん、大丈夫? 無理してない?」

「うん、母さんの薬がよっぽど効いていたみたいで、今日は結構調子が良いんだ」

 

 不安そうに聞いてくる聖だったが、紅のその言葉は嘘ではなく……お腹は昨日ほど痛まないし、気分も少しだけ悪い程度で済んでいる。

 

 量は昨日よりもさらに多いため、昨日よりも交換頻度は高く、ナプキン自体も多い日用で分厚いために違和感増し増しな感触がして辟易としてはいるが、それは流石に言わない。

 

 

 ――ちなみに、聖からはあまり多いならとタンポンも勧められていた。しかし紅はいざそのアプリケーターを手にしたまでは良いが……それを体内に挿れるとか怖すぎてやめた。

 

 

 それはさておき。

 

 半日授業とはいえ、休んだ分間違いなく勉強は遅れている。ならば、やはり昨日の分は取り戻しておきたい紅なのだった。

 

 そんな感じで相変わらず皆に労られながらも、今日は特別補講に残ることにした紅と友人たち。

 そのため久々に母が用意してくれたお弁当……なんと聖と昴、それに委員長も取って食べられるだけの量を用意してくれていた……に舌鼓を打ちながら、皆で昼食を摂っていると……

 

「そういえば、満月さんにメッセージを貰った例の件だけど……」

 

 紅と昴、そして聖が、昼休憩にもかかわらずほぼ勉強についての話ばかりしていた最中、不意に、委員長がそう話題を切り出してくる。

 

「例の? ああ、夏休みの旅行のことかな?」

「うん……本当に私なんかがお呼ばれしていいの? なんだか凄いところだったけど……」

「うん、委員長には色々お世話にもなってるし、そのお礼もかねて、ね?」

 

 そう、恐縮する委員長を安心させるようにニッコリと笑い掛ける紅。

 生身で初めて登校した日に助けてもらった(と紅は思っている)ことは両親にも語っているし、ならば是非誘いなさいとも言われているので、何も問題ないのである。

 

 それを(話の一部が省略されているが)聞いて安堵した様子の委員長だったが……すぐに、ハッと何かを思い出したように、紅と聖に詰め寄る。

 

「でも……ねぇ満月さん、聖さん、それなら大事なことがあるわよね?」

「「大事なこと?」」

「……まあ、あなたたち二人はそんなことだろうって思ったけど」

 

 紅と聖が二人揃って首を傾げると、委員長はやれやれと肩をすくめ、口を開いた。

 

「海に行くのよね……水着、買いに行かないと」

「……ほほぅ……それは確かに大事ですな、委員長」

「ですよね!」

 

 委員長の呟きに、過敏に反応したのは、聖。

 がしっと握手した二人が、キランと目を光らせて、紅の方へと向く。

 そんな二人の笑っていない目に、思わずヒッと小さな悲鳴を上げた紅だったが……その両肩が、二人にガッと掴まれた。

 

「「紅ちゃん、試験終わったら、水着、買いに行こう」」

「…………はい」

 

 二人のそんな有無を言わさぬ様子に、紅にはただ頷くことしかできなかったのだった。

 

「あー……まあ、がんばれ」

 

 そう、他人ごとのように食後の一杯、バナナ豆乳のパックを啜っている昴に、お前絶対荷物持ちに連れてくからなと内心で決意しながら。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 そうして、補講も無事に終わって帰宅した紅たち。

 

 紅はまだ体調に不安があるのと、ログイン中に溢れたらと思うと非常に怖いため少し悩んだが……今日は長居はしないと決めて、先日の返事をギルドの皆に聞きに『Destiny Unchain Online』へとログインする。

 

「皆、昨日はログインせずにすまなか――」

「クリムちゃああん!?」

「モガぁ!?」

 

 ログイン直後という回避不能のタイミングで抱きつかれ、クリムはひとたまりもなく、彼女のそれなりに実った双丘……ちなみに彼女の錬金術師風ローブは結構胸元が開いている……に顔を突っ込む。

 

「誘ってくれてありがとー! 絶対に、上司をシメてでも溜まってる有給吐き出させてでも行くからねぇー!!」

「……もがっ……分かった、分かったから……離しとくれ、ライフが削れる……ッ!?」

 

 感極まったジェードにぎゅうぎゅうに抱きしめられたクリムは、顔を赤くしたり青くしたりを繰り返しながら、どうにかそう言葉を吐き出すのだった。

 

 

 

 

「…………死ぬかと……思った……今度こそマジで」

「あはは、ゴメーン」

 

 ジトっと睨むクリムに、軽い調子で手を合わせ謝罪するジェード。

 

 戦闘不可エリアの保護の働かない、窒息の状態異常によるスリップダメージによって視界端でピコンピコンと赤く瞬くHPゲージに、クリムはぜぇはぁと荒い息を吐く。

 

「……我……このパターンで危機に陥ること……多くない……?」

 

 息も絶え絶えといった様子のクリムの呟きに、いつもは主な加害者であるフレイヤが、明後日の方向を向いて、「あはー」と誤魔化すように笑っていた。

 クリムがそんなフレイヤとジェードをジト目のまま睨んでいると。

 

「……まあお前の身長だとちょうどいい位置だしな」

 

 そっと目をそらしながらのフレイのツッコミに、ギロッという上目遣いに睨む。すると彼は慌てて目をそらしたので、溜飲を下げるクリムだった。

 

 

 

「よう、クリム。娘や妻共々、誘ってくれてありがとうな」

「ありがとうございます、なの」

 

 同じく部屋に居たリュウノスケとリコリスも、そう礼を言ってくる。

 

「うん、どういたしまして。ところでサラさんは?」

「夜勤だ」

「ママは、今日は夜のお仕事なの」

「サラ先輩は今日は夜勤だそうですー」

 

 リュウノスケ、リコリス、ジェードの三人が声を揃えてそう語る。

 当日に有給を貰うため、今色々同僚にシフトを代わってもらったりしてるみたいだよと、部署は違うが同僚であるジェードが解説してくれた。

 

「それじゃ……」

「おう、せっかくのお誘いだ、俺たち三人もありがたく参加させてもらうぜ。ありがとな、クリム嬢ちゃん」

 

 そう言って破顔したリュウノスケが、わしわしとクリムの頭を撫でる。

 

 これで、残るは小学生で外泊というハードルがある雛菊だが……と、丁度考えていた時だった。

 

 

 

「――お師匠!!」

「うわ!? ひ、雛菊?」

 

 部屋へとログイン次第、クリムへと飛びついてきた小柄な影……それはまさに今心配していた雛菊だった。

 

 

「海、海ですか!? 私も、楽しみです! あまり遠くに旅行したことはありませんので!!」

 

 そう、まるで小型犬のようにクリムの胸に顔を押しつけて、じゃれついてくる雛菊。その興奮した様子は、普段は礼儀正しい彼女にしては珍しいものだった。

 

「そ……その様子だと、雛菊もご両親からOKが出たの?」

「はいです、お母様が一緒ならばということで了承をくれましたです。お父様はお仕事から離れられないらしくて、泣く泣くお母様に写真撮ってくることをお願いしていたです」

 

 ――雛菊のお母様。たしかリアルで雛菊の剣を指導した人で、PKK過激派の相当アレっぽい人だったよね。

 

 

 ちょっとだけ、お留守番な雛菊のお父さんに同情しつつも、内心でこっそりと、クリムはそんなことを思い出す。

 その彼女が保護者として同伴してくる。会うのが楽しみなような、怖いような……

 

「お師匠。どうしましたです?」

「……な、なんでもないよ!」

 

 流石に娘本人にそのようなことは言えず、曖昧に笑って誤魔化すクリムなのだった。

 

 何はともあれ……

 

「皆、参加ってことでいいのかな?」

 

 そんなクリムの問いかけに、皆が一様に頷いた。

 

 

 

 こうして――ギルド『ルアシェイア』の第一回オフラインミーティングが、南の島にて開催されることが決定したのだった――……

 

 


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