Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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待ち合わせ

 

 試験結果は恙無く返却され、点数の方も特に問題は無かった。追試、補習等々は無事回避され、そうして憂いもなく始まった夏休みのある日のこと。

 

 

 

 

 

 ――ここは、関東地方南端にある離島への連絡船の発着場。

 

 この日はやけに高価そうな車が入ってきて駐車場に並ぶ圧巻の光景の中……肩出しのロングワンピースに日差しよけのサマーカーディガンを羽織り、日傘を差した紅は潮風に吹かれて佇んでいたのだった。

 

「Hey, Fantastic girl.You look cute!」

「え、あ、さ、サンキュー?」

 

 突然肩を軽く叩かれて、そう告げて去っていく外国人と思しきサングラスの人物に、紅は慌ててそう返し……はあ、と溜息をついた。

 

 

 

 

 ――何故、こうなっているかと言うと……今回の参加者の大半が、お互い顔を知らないというオフ会特有の問題にぶち当たった時だった。

 

「いや、お前が立ってれば皆一発で分かるだろ」

 

 そんな昴の至極真っ当な一言により、紅は木陰で日傘を差して、生きる待ち合わせ場所となっていたのだった。

 

 

 

 その効果は覿面で……

 

「紅ちゃーん、久しぶりぃ!」

「わっ!? ひ、久しぶりです翡翠さん」

 

 抱きついてきたのは、Tシャツにホットパンツ、その上から薄手のパーカー、頭にはサングラスという、満喫する気満々の格好をした、翡翠だった。

 

 そして、他にも。

 

「よ、嬢ちゃん」

 

 そう、声を掛けてきた、一人の男性。

 やせぎすで、無精髭を生やしたその姿は、初対面でありながらもよく見知った顔だった。

 

「あ……もしかして、リュウノスケ?」

「おう。嬢ちゃんも、一発でわかったわ。リアルモジュールだったのな」

「あはは、そう言うリュウノスケこそ」

 

 彼の外見は、ゲームそのまんまだった。紅と同じく、現実の姿をそのまま取り込んだリアルモジュールだったらしい。

 

「改めて……工藤龍之介(くどう りゅうのすけ)だ」

 

 そう名乗り、手を差し出してくる彼、龍之介。

 その名前に、紅は聞き覚えがあった。

 

「あ……もしかして、イラストレーターの? 何人かのバーチャル配信者のアバターも手掛けている……」

「おっ……と。知ってたか」

「いや、まあ、そりゃね……」

 

 なるほど、と納得する。

 

 そういえばグラフィック系の仕事をしていると言っていたが、なるほどルアシェイアのP(プロデューサー)稼業が板についていたわけだ。

 

 ――ちなみに、以前暫定ギルドランク決定戦の表彰配信で一緒だった『霧須サクラ』も、彼が手掛けている一人だったりする。

 

「……ちなみにな、何を隠そう、昔俺が手掛けていた『曼珠(まんじゅ)サラ』ってのがな」

 

 そう、悪戯っぽい表情で紅に顔を寄せて、何やら内緒話をしようとする彼だったが。

 

「……あなた?」

「ハッ! 俺は何も言ってないっス!!」

 

 背後から掛けられた驚くほど冷たい声に、龍之介がビシッと背筋を伸ばして返事を返す。

 だが……その態度がもはや、先程の内緒話の続きを物語っていたのだった。

 

 そんな、龍之介の背後から現れたのは……

 

「あ……」

「お久しぶり、満月紅さん。もっとも、こうしてお話しするのは初めてですけど……改めて、工藤龍之介の妻、工藤沙羅(さら)です」

「は、はい、満月紅です。その節はお世話になりました」

 

 差し出された手を握りながら、紅が礼を述べる。

 

 元々すれ違っていたという話は彼女の同僚である翡翠から聞いていたが、確かに彼女には見覚えがあった。

 入院中に何度かすれ違ったし、直接対面したわけではないが、お世話にもなっている。

 

 

 ――ちなみに、龍之介の話に出てきた『曼珠サラ』というのは、だいぶ昔、紅がまだ小学生に入ったばかりのころに活動していた仮想配信者、いわゆる『Vの者』である。

 

 彼岸花をイメージした赤を基調とした鬼っ娘で、可愛らしい仕草と言動で人気を博していたのだが……ある日、結婚を表明し惜しまれながら引退したはずだと、紅が記憶から参照する。

 

 人は見かけによらないなぁと思いつつ……紅は賢明にも、その記憶はそっと心の内に仕舞い込むのだった。

 

 

「何か?」

「いえ、何も」

 

 まるで内心を見透かすような目で見つめてくる彼女の視線から逃げるように、明後日の方を向いて誤魔化す紅なのだった。

 

 

 そして……もう一人、紅の方を窺っている小柄な影。

 そちらに向け、紅は笑いかけ、声を掛ける。

 

「えっと、こんにちは?」

「あ、はい、はじめまして!!」

 

 龍之介の背にぴったりくっついて、ガチガチに緊張した様子で返事を返してきたのは……やや引っ込み思案そうな、黒髪を後ろで結ったいわゆる『お嬢様結い』の可愛らしい女の子だ。涼しげなセーラーワンピースが実によく似合っていると、紅はこっそり思っていた。

 

「ええと……リコリス、だよね?」

「は、はい。リコリスの中の、工藤深雪(くどう みゆき)でひゅ」

 

 ……噛んだ。

 

 赤くなって俯く彼女に、とりあえず聞かなかったことにして紅も自己紹介をする。

 

 ちなみに深雪……たしかリコリス、つまり彼岸花の品種の一つだったかなと、なんとなしに思う紅なのだった。

 

「びっくりしました。クリムさん、本当にゲームそのままの姿なんですね……」

「あはは、まあ、色々と事情があってね」

「あ、す、すみません」

 

 紅のリアルでも真っ白な髪に興味津々らしく、まじまじと見つめてくる少女に、紅が苦笑しながら返事をする。

 その「色々」に、日常の不利に思い至ったのだろう、彼女が申し訳なさそうにする。

 

 ――別に、気にしなくて大丈夫だけどなあ。

 

 それでも気になってしまうのだろう良い子な彼女に、安心させるように微笑みながら頭をポンポンと撫でる。

 

 

 とりあえず落ち着いたようだが、今度はしばらくボーっとしていた彼女が……不意に、周囲をキョロキョロと見回し始めた。

 

「それで、他の方は……」

「ん? ああ、あっちに昴……フレイが居るかな。聖、えっと、フレイヤも一緒のはずだから、双子だし多分すぐわかると思うよ」

「わ、わかりました、ありがとうございます……!」

 

 さりげなくフレイの存在を強調して案内すると、彼女は真っ赤になって駆け出していった。

 青春だなぁ……と微笑ましい気持ちで見送っていると。

 

「おのれ、敵はこんな場所に居たか……痛っ!?」

「あなた、馬鹿言っていないで、お誘いくださった満月さんのご両親に挨拶が先でしょう?」

 

 何やら怨念じみた気配を漂わせ始めた龍之介が、奥さんにしばき倒されて引き擦られていくのを苦笑しながら眺めていると。

 

 

 

「――お師匠!」

 

 そんな嬉しそうな女の子の声に、紅が振り返る。

 そこには……ブラウスと青いスカートという育ちの良さそうな格好、綺麗に切り揃えられたおかっぱ頭の可愛らしい女の子が、興奮気味に息を切らせて紅の方を見つめていた。

 

「えっと、雛菊?」

「はいです、刀袮雛菊(とね ひなぎく)と申しますです! 遠目からでも一目でわかりましたです、お師匠!」

「そ、そんなに目立つかなぁ」

 

 キラキラと羨望の眼差しに見つめられて、紅は思わず頬を赤らめながら、自分の格好を見下ろす。

 

 そんな時だった。

 

「あなたが、雛菊の言うお師匠様ですかぁ?」

「はいです、お母様!」

 

 嬉しそうな雛菊の声に、紅がはっと視線を正面に戻す。

 そこにはいつのまにか、雛菊の肩に手を置いて、その背後に佇んでいる女性が居た。

 

 ――うわ、綺麗な人。

 

 思わず、紅がポーっと頬を赤らめる。

 

「なるほど……ふふ、雛菊が嬉しそうに語る通り、とても可愛らしい子ですね」

 

 そう、妖艶さと清楚さが混ぜ合わされたような笑みを紅に向ける彼女。

 

 

 腰まである烏の濡れ羽色の髪に、嫋やかな所作。微塵も隙のない清楚ないでたち。

 雛菊の母ということは、もうすぐ中学生になる娘が居るというのに……その大和撫子を体現したような外見は微塵も衰えを感じさせず、大学生と言われても信じてしまうだろう。

 

「あぁ……その純真無垢な深い紅の瞳で見つめられていると、なんだか全て赤裸々に覗き込まれているようでぇ、私……っ!」

 

 

 ――前言撤回(てのひらクルー)

 

 何やら顔を赤らめ頬に手を当てて腰をくねらせている彼女に、紅はなんだかヤバいものを感じ、ジリっと摺り足で距離を取ろうとした……そんな時だった。

 

「……お主、桔梗、この歩くR指定女が! 我が愛娘におかしなことを吹き込むでないわ!」

 

 突如駆けつけた、珍しく焦った様子の天理に、紅が背後から抱きしめられた。正直言って、母の登場に安堵している紅なのだったが……

 

「あらぁ、残念」

 

 そう呑気に語る彼女……桔梗だったが、紅はどこか、背中にピリッと悪寒が走った気がした。

 

 

 ――ヤバい、この人。

 

 

 本能が、警鐘を鳴らしている気がする。

 

 例えるならば、宙からもらった師匠(クソAI)と相対しているときに感じるものと同種のプレッシャー。

 

 まさかそんなものをリアルで感じることになるなどと愕然としている中……何やら母、天理が、険悪な様子で言葉をぶつけ合っていた。

 

「……よもや、このような縁で再会するとは思わなんだな、なぁ『斬り巫女』?」

「あらぁ、よく見たら、いつぞやの蝙蝠お婆さんじゃぁなぁい?」

「ふ……生憎我はお主ら人間と違い、未だにピチピチゆえ、むしろ身体的には歳を食ったお主の方が婆じゃなぁ?」

「あらあらぁ、死語が多くて何をおっしゃっているのか聞き取れませんでしてよぉ、お婆ちゃん?」

 

 そのまま二人で青空の下、額に青筋を浮かべてバチバチと火花を散らす母たち二人に……紅と雛菊はお互いに見合い、やれやれと呆れたように肩をすくめるのだった――……

 

 

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