Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――アイランドシティ神那居、本館。
ロビーでチェックインを済ませた一行は、広大なその建物の最上階へと案内されて、それぞれの客室へと一旦散っていった。
部屋割りは、深雪が歳の近い雛菊と同室を希望ということで、代わりに工藤家の部屋には親交が深い翡翠が混ざることとなった。
そのため班分けとしては、紅、宙、佳澄のグループ、茜、聖、昴のグループ、龍之介、沙羅、翡翠のグループ、そして雛菊、桔梗、深雪のグループという部屋分けとなった。
……まぁ、大人組はどこかの部屋に集まってお酒を飲むのだろうから、聖と昴は紅達の部屋に逃げてくるだろうが。
それぞれ自分の部屋に荷物を運び込んで……
「うわ、凄い部屋」
最初に部屋に踏み込んだ紅が、思わずそう声を上げた。
ここは来賓用のスイートルームらしく、普段は質素気味に暮らしている紅は物珍しさに、あちこち歩き回ったり、スイッチ類を確かめたりしていた。
広いリビングには、ローテーブルを囲むようにソファがぐるっと配置されており、その向こうには大きな窓。外を覗き見ると、ビーチに面しているらしい部屋からは、外の海を見下ろせるようになっている。
そして……完成したばかりの、新品の部屋はどこもかしこもピカピカに綺麗であり、このような部屋に泊まる体験は一生に一回できただけでも凄いことに思える。
「わー……」
眼下の青い海、白い砂浜が美しいビーチ。
そこを、まだまばらにだが行き交う、早くも海水浴を楽しんでいる人々を窓から見下ろしながら、目を輝かせて外の風景に魅入っている紅。
「どうだ、楽しめそうかの?」
「うん、母さん。凄いよ、こんな部屋に泊まるのなんて初めて!」
「うむ、うむ。思えばお前にはあまり旅行もさせてやれなんだ、今回は思う存分楽しむが良い」
そう言って天理は、珍しくはしゃぐ紅の姿を微笑ましそうに眺めるのだった。
◇
天理と宙、そして茜は、仕事があるからと名残惜しそうに去っていった。
一方で他の大人組はというと……そもそも骨休めしたがっていた翡翠や沙羅、それと、ならば女同士裸の付き合いをとそちらについていった桔梗ら女性陣は、ひとまず今日は温泉に浸かってのんびりするらしい。
そうして、引率を引き受けた龍之介の下、まだまだ元気が有り余っている未成年たちが向かったのは――
◇
「「海だー!!」」
そう、元気にお決まりの叫び声を上げて真っ先に飛び出していったのは、花柄のタンキニ水着を纏った雛菊と、彼女に引っ張られて、空色のワンピース水着を翻し走る深雪。
どちらも子供らしく可愛らしい装いで波打ち際をきゃっきゃとはしゃいで回る姿はとても愛らしく、周囲の人々の頬を緩ませていた。
施設の目玉である仮想背景を投影するシステムは、現在、天理や出張先から別ルートで来た聖たち古谷家の父の監修のもとで最終チェックの最中だとのことで、お披露目は明後日となるらしい。
そのため現在では、ドームにはデフォルトである『アイランドシティ神那居』の外に広がる風景がそのまま映し出されている。
……このビーチはいわば、本物の海、本物の砂浜を利用して建造された室内プールなのだ。
擬似的に再現されているとはいえ、その光はやはり映像であり……ギラギラと差す真夏の太陽とはやはり違い、天然のビーチと比べると少し快適に過ぎる嫌いがある。
だが一方で、昔に比べ高くなった紫外線量が問題視される近年では、陽に焼けていない白い肌が尊重される傾向にあり……海外でちらほら増えつつあるこのような紫外線フリーな海水浴場も、割と人気だったりするのだった。
また、まるでSFアニメのスペースコロニーのような、フレームが区切っている以外は実際のものとほとんど大差ない精緻な映像が映し出された風景も、そういった作品が好きな者にはたまらない光景だろう。
そんな中――引率の保護者役として、花を愛でられる役得を噛みしめていた龍之介だったが。
「しかしまぁ……やっぱあいつら目立ってんな」
「うぅ、ちょっと自信なくなります……」
周囲にすでにちらほらと居る海水浴客から集まっている視線に、龍之介が少し顔を顰める。
そんな彼の声に反応したのは……良くも悪くも一般人である、所在無さげに龍之介の隣に居た佳澄。
「はは、ドンマイ。比較対象が悪いだけで、委員長は間違いなく可愛いから安心しろ、俺が保証してやるから。な?」
「うぅ、ありがとうございますリコリスちゃんのお父さん……」
そう、少し元気になった少女にホッと安堵しながら、白い砂浜に佇む同行者たちに目を向ける。
――紅の嬢ちゃんが目立つのは、もはや仕方ないことだろうな。
幸いなのは、今はまだ一般開放前ということ。
客層は普通であれば龍之介の及びもつかないようなセレブ中心であり、あまりタチの悪そうな客はいないところか……とザッと周囲を確認して、ホッと胸を撫で下ろす。
そんな中、当の紅はというと……
今は惜しげもなく曝け出されている、アルビノ特有の白く透き通る肌に、歩くと擬似的な陽光を浴びてキラキラと光の粒子を放つ純白の髪。
その、未成熟にも見える細身の肢体にミントグリーンの薄衣を纏った姿は、幻想世界から抜け出してきた妖精もかくやという存在感を放っていた。
そんな紅は……自分の薄着姿、そしてそんな自分が周囲から注目を浴びていることに慣れていないせいで真っ赤になっていた。
微かに涙を浮かべたその様子は何やら周囲の者たちの庇護欲やら加虐心やらを引き出してしまっているようで、その周囲は一種異様な雰囲気が漂っている。
――あるいは、傾国とか評されるのはこんな感じなのかねぇ。
良くも悪くも周囲の注目を集める少女に、龍之介はそんなことを胸中で呟くのだった。
そして、注目されているのは紅一人ではない。
こちらは、そんな周囲の視線をあっけらかんと弾き返し、怯む紅の手を引いて先導する亜麻色の髪の少女……聖。
今の彼女は白地に青のラインが眩しいパレオ付きホルタートップビキニを身にまとい、普段は慎ましく隠している肢体を、こちらも惜しげもなく晒していた。
元々スタイルの良い少女である彼女は、紅とはまた違う健康的な白い肌が眩しく、出る場所は出ている一方で、グッとくびれた腰やそこから続くヒップラインなどは確かに成熟に向かいつつある女性らしさを感じさせる……そんな清楚さと蠱惑的な相反する両方の要素を、危ういバランスで備えていた。
そんな二人が仲睦まじく、手を取り合ってビーチを歩いているのだ。注目を浴びない訳が無かった。
さりげなくナンパ除けの護衛として付いている昴も、聖と由来を一緒にする整った容姿と、意外に鍛えられた引き締まった体つきも相まってか、周囲のセレブなお姉様方にロックオンされているっぽいが……その数倍の敵意と嫉妬の視線を受けているであろう。
周囲に向けて当たり障りのないにこやかな顔で笑う裏で、額に冷や汗を流している様には、流石に同情せざるを得ない龍之介だった。
……まあ、それはさておき。
それに、まだ幼いとはいえ、雛菊や深雪ら年少組も間違いなく将来有望だろう。
――手塩に掛けた愛娘であるうちの深雪が可愛い、いやむしろ大天使なのは当然として、あの雛菊嬢ちゃんも明らかに良いとこのお嬢さんだしなぁ。
先の佳澄に掛けた言葉に嘘は無く、今隣で嘆いている女の子も、磨けば光るだろう。
だが確かに、それでもあの集団に並ぶのは結構な勇気がいるだろうなぁと、目立つ友人を持ってしまった彼女に同情気味に思う。
一方で……なんとなく入った『ルアシェイア』、思えば隣の少女も含めてずいぶんとプロデュースし甲斐のある逸材が揃ったもんだと、しみじみ思う龍之介なのだった――……