Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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約束された負けフラグ

 

 ――どうしてこうなった。

 

 今の時間は夜。食事を終えた後に、紅たち一行が再び出てきた夜の島。

 

 整備された歩道は歩きやすいとはいえ、今はすぐ前がもう見えないほどに暗い闇の中を歩きながら……紅は内心でそんな疑問を呟く。

 

 

 

 

 ――事は、夕食の時間へと遡る。

 

「肝試し? いいんじゃなぁい、良い思い出になるといいわねぇ」

「ありがとうございます、お母様!」

 

 ニコニコと、愛娘の頭を撫でながら上機嫌に返答する桔梗と、そんな彼女に嬉しそうに抱きついている雛菊。

 

 そんな親子の尊い光景を眺めながら……紅は、ダラダラと冷たい汗を流していた。

 

 夜の海水浴を楽しむ客のためにライトアップされた海。そこを見渡すことができるラウンジにて、ビュッフェ形式の夕食から各々食べたいものを取ってきて、舌鼓を打っていた時。

 

 昼間からのお風呂に加えて、部屋での女子会 (アルコールあり)を経て、すっかりと打ち解けたらしい桔梗、沙羅、翡翠の三人。

 

 彼女たちも交えた夕食の席で……「肝試しがしたいです」と母親に打ち明けた雛菊への返答が、先程の桔梗の言葉であった。

 

 

「いいわねぇ。私も行っていいのかしら?」

 

 そう、完全に乗り気な雛菊の母、桔梗。どうやら彼女はその物静かな外見とは異なり、かなりアグレッシブな性格らしい。

 雛菊の提案があった時点で、紅の敗北は約束されていたことにようやく気が付いた。

 

「……ま、親御さんが許可するなら、断る理由も無いな……大丈夫か、紅の嬢ちゃん?」

「アハハ、ダイジョウブダヨー、ヨカッタネヒナギクー?」

「……駄目っぽくないか?」

 

 そんな疑問を口にする龍之介だが、かといって紅も、雛菊の楽しみは奪いたくなく、ぐっと「やだ」という言葉を飲み込んだ。

 

 

「では、夕飯を食べ終わったら……」

「そうねぇ。みんなで、行きましょうか」

 

 そんな言葉と共に、チラッと紅へ向けて投げられた意味深長な流し目。

 

 間違いない……彼女は、紅の反応を――可愛らしい女の子が怯えている様を楽しんでいた。

 

 蛇に睨まれるカエルになった心境で、紅はがっくりと項垂れるのであった。

 

 

 

 ――そんなわけで現在、夜の島を散策しているわけなのだが。

 

 通常の街灯ではなく、灯篭を模した形のライトが並ぶ無闇矢鱈に風情がある夜の島を、紅は聖の袖に縋り付きながら、もはや完全に涙目で歩いているのだった。

 

 ちなみに昴は、同じく怯えている深雪をあやしているが、それはそれ。

 

 

「お母様! 早く早く!」

「あらあら、そんなに急いだら足元が危ないわよぉ?」

 

 実に楽しげに先頭を駆け回る雛菊に、()()()追従する桔梗。

 

 ――えっと、何かの歩法? 見ていると認識がバグるんだけど何これ?

 

 なぜ、駆け回る小学生に、コンパスの長さが違うとはいえ歩きでついていけるのか。むしろ彼女がホラーに見えてきた紅なのだった。

 

 

「それで……桔梗さん。いったいどこへ向かって……」

「ふふ、案内の人に聞いてきたのですが、この先を登った神社の境内がとても綺麗な夜景スポットだとのことですわぁ」

「あ……肝試しは口実で、それが目的だったのですね」

 

 桔梗のそんな言葉に、ほっと安堵する。見れば龍之介も、彼女の言葉を肯定するように頷いていた。

 

 さすが、大人。気の回し方が違う。

 そう憧憬を抱くと共に、いくぶん軽くなった足取りでついていく。

 

 そうして、島中心にある高台への階段を上り切った先にある、神社の境内。そこには……

 

「うわぁ……」

 

 夜闇の中、アイランドシティ本館の照明によって浮かび上がった巨大な建造物と、その奥にキラキラと多数の色彩が反射し輝く黒い闇のような海。

 

 夜の島を歩くのは怖かったけと、来て良かった。

 

 そう――紅は、この瞬間油断したのだった。

 

 

 

 せっかくの機会だし、夜景をバックにみんな写真を撮ろう……そう提案した紅が、まず最初の撮影役を買って出た。

 

「それじゃ、撮るね!」

 

 そんな紅の指示のもと、皆、夜景を背景に思い思いのポーズを取る一行。

 

 それに合わせて、紅がNLDの撮影モードを起動した――その瞬間だった。

 

 

 

 ――ピ、ピ、ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!

 

 

 

「――きゃああああああ!?」

 

 一斉に、画像撮影の画面に無数に広がる『誰もいない場所』に浮かぶ顔認識の黄色いフレームと、無数に重なりけたたましく響くアラーム。

 

 気を抜いたところを、狙いすましたように襲い掛かる怪異。それを目にした紅は……ついに我慢の限界を突破して、全力の悲鳴を上げるのだった――……

 

 

 

 

 

「……む、お主たちか」

「あれ、天理おばさま?」

 

 向かい側から来た白い人影と声。

 それにいち早く気付いた聖が、仕事中である彼女……天理がなぜここに、と首を傾げる。

 

「いや……何やらすごい悲鳴が聞こえてきたというから、頼まれて急いで様子を見に来たのじゃが……」

「あはは……天理おばさまのお察しの通りで」

 

 そんな天理が苦笑いしながら見つめているのは……先程の一件でついに恐怖の許容量を振り切ったせいで、聖と昴に手を引かれるままについてくる、目から光が消えた紅の姿だった。

 

 

 

 

 ……と、そんな状態だった紅も、アイランドシティへと場所を移動し、人が増えてくるにつれて徐々に精神を持ち直し。

 

「あっはっは、そ、そうか、相変わらずお化けの類はダメか!」

「むぅ……母さん、そんな笑わなくてもいいじゃないか!」

 

 すっかりツボに嵌って大爆笑している天理に、元気になった紅が食ってかかっていた。

 

「すまん、すまん。昔怖い映画を見た後は、必ず我か宙の布団に潜り込んできとった頃を思い出して、懐かしくてのう」

「そ……何年前の話だよ!?」

 

 皆の前でそんな過去話を暴露され、紅が真っ赤になって俯く。

 そんな様子も、周囲からは微笑ましく見られているのだったが。

 

 ――そんな紅たちは今、ビーチへと戻り、天理が用意してきた花火を楽しんでいた。

 

 といっても、アイランドシティ内ではない。外壁に沿うように設けられた、花火やバーベキューなどの、火を使った催しを楽しむための一角だ。

 

 周囲の空気に漂うのは、硝煙の匂い。

 それは、近年では安全性を考慮した化学薬品によるケミカルライトではなく、正真正銘の火薬を使用した、今では珍しくなりつつある本物の花火の証。

 

 そんな……桐箱に入れられて出てきた花火というのは、なんと線香花火。それも一本一本職人手作りの品なのだという。

 

 そんな珍しいものを前に、我先と群がる一行。

 

 手元でゆらゆら揺れる、ぷっくりとした火の玉から、ささやかなパチパチという音を立てて、繊細なオレンジ色の花が咲く。

 

 そんな儚くも美しい、ノスタルジックな光景を皆ジッと無言で見つめる中……不意に天理が口を開いた。

 

「……ま、悪戯好きな奴らだが、あまり邪険にしてやるな。お前が見える者で反応もいいから、連中も一緒に居て楽しかったのじゃろ」

「……やっぱりあれ、俺に寄ってきてたの?」

 

 幽霊、とは意地でも言葉にしない紅。だって怖いし。

 

「うむ、大人気じゃな、お主は」

「うぇ……」

 

 どうやら、今の紅はすっかり子供の霊に懐かれているのだとか。背後に無数に見えると、天理が苦笑しながら答える。

 

 これが他の人の言葉ならば笑い飛ばすかもしれないが、残念ながら母はそういうのは分かる存在なためガチなのだろう。

 

 幸い……アイランドシティ内はそうしたものを防ぐようにできているという保証を貰えたことだけは、救いなのだった。

 

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