Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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S○N値ピンチ!

 

 ――クリムが普段通り平静であれば、それに気付くことは可能だっただろう。

 

 ――あるいはこの都市に踏み入れてからずっと、その強さを陰で支えていた危機感知能力が()()()()()()()()()()ため、他の()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気付いてさえいれば。

 

 

 だが現在、恐怖に駆られてリュウノスケの誘導に従い必死の全力疾走で逃げるクリムには、そのような周囲の状況に注意を払う余裕は無く……ゆえに、天井で虎視眈々と獲物を狙い定めていたそれに、気付くことは不可能であった。

 

 

 

 

 

 ――クリムが全力疾走し、壁走りなど複雑な三次元機動を駆使しても、徐々に迫る巨大なマグロ人間。

 

「く、くそ、こうなったら……」

 

 このままでは、もうじき捕まる。

 

 ならばあと少し、射程圏内に来たら反撃してやると、武器を取り出すために詠唱を始めた――そんな瞬間だった。

 

 ドン、と全力疾走中だったクリムの背中に当たる衝撃。

 

「――きゃん!?」

 

 衝撃に思わず口の端から漏れた可愛らしい悲鳴が、地下空洞に響く。

 

 上から降ってきた物体が背中へと直撃したらしく……ひとたまりもなく転倒したクリムが、為すすべなく前方に広がっていた水たまりに、盛大な水しぶきをあげながら転がる。

 

 そして……

 

「ひぅ!? な、なんっ……!?」

 

 背中から覆い被さるように張り付く物体、ざわざわと肌をくすぐる繊毛の感触に、慌てて背後を見る。

 

「……っ! ――ひっ!?」

 

 そこには……毒々しい色彩の、グロテスクな巨大なヒトデが絡みつき、這いずりまわっていた。

 

 全年齢ゆえに服が脱げたり内部に侵入したりは当然ながら無いのだが――無数の繊毛が肌を撫で回しながら這いずる感触に、ぞわりとクリムの全身に鳥肌が立つ。

 

 だが……それだけで済むはずもなく。

 

「こ、こやつ、MPを……!?」

 

 絡み付かれた部分から、力が抜けていく感覚。

 見れば、画面端のMPゲージが怪しく振動と赤点滅を繰り返し、徐々に低下していた。

 

 

 ――違う、それだけじゃない、こいつ、麻痺……っ!?

 

 

 気付いた時にはすでに手遅れで、棘か浸透性の粘液かは知らないが、いつのまにか絡まれた場所が痺れて感覚が無くなっている。

 慌てて逃げようとしたが、立ち上がれずに水中に崩れ落ちる。そこには別のヒトデがいつのまにか纏わりついており、もはや自由の利かなくなった手足。

 

「こんな……雑魚に……っ!?」

 

 エネミーとしては、今まで戦った強敵には比べるべくもない雑魚。

 

 だが、そんなヒトデ(仮)複数に全身を雁字搦めにされ、毒を流し込まれ、完全に押さえつけられて……クリムがもはや身動きができなくなったところにクロマグロ(仮)が『ギョッ、ギョッ』と嬉しそうな声を上げながら近寄ってくる。

 

 そんな様を、クリムは悔しそうに睨め付けながら、グッと唇を噛んだ……その時だった。

 

「させま……せんっ!!」

 

 裂帛の気合いと共に上空から降ってきたのは……カスミの声。

 見上げた頭上で、彼女が手に携えた薙刀を大きく振りかぶると――

 

「はぁぁああっ! 『ゲイルスラッシャー』!!」

 

 その渾身の力を込めて振るわれた薙刀から烈風が巻き上がり、クリムに覆い被さるヒトデが次々に吹き飛んでいく。

 

「あ、雛菊ちゃん、魚さんが逃げる!」

「この、待つです……って速い!?」

 

 さらに続く、バタバタとした幼少組の喧騒に合わせ、生臭い臭いが遠ざかっていく。

 

「……クリムちゃん!」

 

 続いて駆け寄ってきたフレイヤに、麻痺した体が抱き起こされる。

 安堵したことでクリムの中で張り詰めていたものがプツンと切れ、ここまでの恐怖から、その胸でちょっと泣いてしまったのは……リュウノスケが気を利かせて配信を切ってくれたため、秘密であった。

 

 

 

 

 ◇

 

 コメント:いやぁ……なんというか……

 コメント:期待を裏切らないというか、誰がここまでやれと言ったというか…… 

 コメント:完全にくっ殺系ウス異本な案件でしたね……

 コメント:ほら……まおーさま全判定悉くファンブルしたようなもんだし……

 

 

 しみじみと、先程までの光景を評する視聴者たち。

 

 

 

 ――苦手なホラー展開。

 

 ――いつもと違う、最低限の装備。

 

 ――敏捷で勝る敵への焦り。

 

 ――冷静さを欠いたところへの不意打ち。

 

 

 理由を挙げればキリがなく、どれをとっても最悪な巡りにより、自分のペースを一切取れないまま事が進んでいたことに……もはや視聴者一同さえもさすがに囃し立てることを控え、苦笑いを隠せないでいた。

 

 一方で、被害者であるクリムはというと。

 

「うぅ……フレイヤぁ……」

「はいはい、怖かったねー、ごめんねー私のせいで」

 

 フレイヤに抱き締められ、その胸に抱かれてポンポンと頭を撫でられて、ようやく徐々に落ち着いてきていた。

 

 

 コメント:あら^〜

 コメント:見せつけていくスタイル

 コメント:こいつらいつも塔建ててんな

 コメント:いいなぁ間に入りたい

 コメント:百合の間に入る男が居るぞ、○せ!

 

 

 そんな、女の子同士の仲良さげな様子に盛り上がっていたりもする中……

 

「それにしても、案外このイベント、水着推奨のくせにガチで殺しにきてませんです?」

「うん、一度、本気装備に着替えたほうがいいと思うの」

「そうだよね……拠点に帰って、装備を整え直す?」

 

 雛菊とリコリスの言葉に、カスミが提案する。

 しかし……それに対して、予想外の場所から反論があった。

 

 

 東の蒼龍:あ、それはやめといた方がいいですよ

 北の魔王:水着以外の防具着てると(サビ)付与攻撃してくるぞ

 東の蒼龍:あと、防具解除持ちやトラップが大量に湧きます

 コメント:ねぇここで何やってんの魔王様たちw

 

 

「マジかよ」

「運営さんは人の心がないの……」

 

 コメントに流れるどこかで見たコテハンの試聴者の発言に、フレイが顔を痙攣らせ、リコリスが遠い目をする。

 

「ということは、やはり相当に慎重にいかんとならんな」

「お、クリム、復活したか?」

「うむ……正直ログアウトしたくてたまらんが、視聴者の手前でそうもいくまい……」

 

 真っ青な顔はそのままだが、それでロールプレイを再開したクリムの様子に、フレイが「まぁ及第点だな」と評し立ち上がる。

 

 丁度、そのタイミングで偵察に出ていたリュウノスケのマギウスオーブが帰ってきた。

 

『ざっと偵察してきたが、どうやらここは、さっきのトラップで落とされてから地上に戻るためのエリアで、あまり広くはなさそうだな』

「そんじゃま、この辺の探索を済ませるか。外れエリアと思わせて、何かあるかもしれないしな」

「それに、あの逃げたマグロにもちゃんとケジメ付けさせるです!」

「う、うむ」

 

 リュウノスケとフレイの言葉に、なんだかほんのり物騒なことを言いながら頷く雛菊。その様子に、クリムも若干腰が引けながらも同意する。

 

 そうして方針も決まり、皆歩き出したところで。

 

 コメント:まおーさまめっちゃ膝震えてるw

 コメント:そんな悲壮な顔しなくてもw

 コメント:だいたい観たいものは観れたから、無理はせんようにねー

 コメント:バトル関連以外のメンタルクソザコなんだから無理すんなよ!

 

 

「誰がメンタルクソザコじゃ!?」

 

 視聴者の温かな(?)声に、そう怒鳴り返すクリムなのだった――……

 

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