Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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来襲、プレイヤーキラー

 

 戦利品を確かめていく中……ふと、食材(海産物)の山の中に一つ、不自然なものが転がっていた。

 

「……鍵か?」

 

 それは、取手のついた細長いプレート。その表面には、縦に曲がりくねった溝が彫ってある。

 そんなクリムが手にした謎の物体に、皆も興味津々にその手の中を覗き込んだ、

 

「ほんとだ。どこの鍵かなー?」

「イベントのどこかで使うのじゃろうが……ま、一応大事にしまっておくかの。ほれ、いい加減この穴蔵から撤退しようぞ」

 

 クリムはそう言ってパンパンと手を叩き、散々な目に遭った地下空洞から脱出するのだった。

 

 

 

 

 ――そうして地上に出て、しばらくの間とりあえずはこの怪しい街をぶらぶらと探索していると。

 

「あ、まおーさま!」

「え、クリムちゃん!? どこ、どこ!?」

 

 少し大きな通りに出た瞬間――先頭を歩くクリムの姿を通りがかりのプレイヤーに見つけられたらしい。すぐに、同じく周辺に居たプレイヤーが寄ってくる。

 

「わかっちゃいたが、人気だな、クリム?」

「うむ……すっかりおちおち出かけることもできなくなったからのう……」

 

 フレイのからかう声に、顔には笑顔を浮かべつつも内心ではゲンナリしつつ返す。

 

「まおーさまも、イベント参加していたんですね!」

「うむ、ちなみに生配信中ゆえ、時間ができたら見に来てくれると嬉しいぞ?」

 

 興奮気味に話しかけてくるプレイヤーたちに軽く手を上げたりして対応しながら、しばらく通りを並んで歩いていると……

 

 

 ……不意に、首筋がチリチリするような感触――殺気。

 

 

「――皆、伏せるのじゃ!」

 

 周囲に言うが早いか、クリムはもののついでにすぐ横を歩いていた一人のプレイヤーの腕を引いて、建物の陰へと飛び込む。

 

「……プレイヤーキラーだ、銃持ちじゃな! 皆、遮蔽物へと隠れるのじゃ!」

 

 咄嗟のクリムの指示に、周囲に居たプレイヤーたちも慌てて物陰へと引っ込む。

 

「皆、無事か!?」

「うん、大丈夫!」

「確認したけど、みんな隠れてるよ!」

 

 すぐ後ろにいたフレイヤと、ざっとメンバーの安否を確認してくれたカスミの返事に、ホッと安堵の息を吐くと……すぐに次の指示を出す。

 

「リコリス!」

「はいなの!」

 

 即座に銃を構えてスコープを覗き込もうとするリコリスだったが……すぐに何かに気付いたように、構えを解いてサッと物陰に頭を引っ込める。

 

 次の瞬間、彼女が頭を出していた場所を貫いて飛来した銃弾が、その後方の床に穴を穿った。

 

「……さっきとは、射角が違うか?」

「はいです、撃ったら移動してますですね」

 

 なるほど、とクリムがうなずく。

 一つ事に拘らず、堅実な動き。こうした市街地での狙撃戦に慣れている……そう、ざっと確かめる。

 

「PKですよクリムお姉さん!」

「うむうむ、雛菊ちゃんはなにゆえそんな嬉しそうなのじゃろうなー?」

 

 耳をピンと立て、尻尾をパタパタ振りながら銃撃が飛んできた方角を指差しつつ、「待て」された芝犬みたいな目でクリムを見上げてくる雛菊。

 

 うん、可愛い。

 

 非常に可愛らしいのだが……その目に宿る光がまるで妖刀の刃みたいな輝きなのはいただけない。

 

 

 そんな、ゴーを出せばすぐさま飛び出していきそうな雛菊を宥めながら、クリムは周囲の者たちの動向を探る。

 

 周囲では、他のプレイヤーの中に被害が出始めており、悲鳴があちこちで上がっている。

 襲撃しているプレイヤーキラーたちはどうやら遠隔攻撃に重点を置いた集団で、かなりの手練れだ。

 

「この統率……」

「動きに覚えがあるの、これは……」

 

 クリムと、そのジャンル経験のあるリコリスが、顔を見合わせて、頷く。

 

「「対戦系VRMMOFPS勢か (なの)……!」」

 

 周囲に展開しているPKが、どうやら銃を始めとした遠隔武器持ちなのも納得というものだ。

 対人対戦に特化したそれらのゲームのトップクラスのプレイヤーは、さながら軍の精鋭の如き動きをする、対人戦の雄である。

 

 だが……彼らの動きは、クリムにはむしろそちらのものに偏っている傾向が強いようにも見えた。

 このゲームは、『銃もある世界の剣と魔法のファンタジー』なのだ。

 

「手練れですが、まだ『DUO』にはそれほど慣れていない感じがします」

 

 飛ばしたマギウスオーブと視界を連動させた補助攻撃ユニット『サポートデバイス』からの三点バースト射撃で牽制しつつ、周囲の状況を探るリコリスが、そんなことを呟く。

 

「というと?」

「移動系魔法や、防御魔法の使い方が甘いところがあるの」

「てことは、いつぞやの勇者様と同じく追加ロットによる移民組じゃな」

 

 

 東の蒼龍:つまり別ゲーからの移住者ですか

 コメント:そんでPK仕掛けたのがよりによって……

 コメント:オイオイ

 コメント:死ぬわアイツ

 コメント:どうすんだよ、まおーさまウッキウキじゃん

 北の魔王:ふ、あまり舐められるような戦いはするなよ

 東の蒼龍:ま、対人戦ならばお手並拝見といきましょう

 

 

「ええぃソールレオンもシャオもまるで小姑のように普通に観戦しくさりおって、さてはお主ら暇じゃなー!?」

 

 

 コメント:ついにキレたw

 北の魔王:ははは、なるほどこれが愉悦

 東の蒼龍:ええ、みんなご飯食べに行ってて暇なんです

 コメント:ああ、もう昼か……

 

 

 視界の端、コメントで呑気に野次を飛ばしてくる見知った名前にぷんすか怒鳴り返しつつ……

 

「ええい、くそぅ。時間思い出したらお腹空いてきたじゃろうが!」

「これ終わったら、拠点戻ってご飯食べに行こうかー」

 

 呑気にそんなことを曰うフレイヤに、皆揃って頷く。流石に旅行に来て、一食抜かすなどと勿体ないことは皆が御免だった。

 

 ――もちろん、落ち込んだ気分で不味いご飯など、もっての外の極みである。

 

「では、サクサク蹴散らすぞ。リコリスはこの場で敵集団を牽制、何かあったら逐一連絡を頼む!」

「はいなの!」

 

 はっきりと、彼女がうなずく。古巣の気配に、彼女もどこか楽しげに見えた。

 

「フレイヤとカスミは、ここで敵のアタッカーが来たらリコリスちゃんを守って、抑えるだけでいいから」

「はーい、頑張ろうね、カスミちゃん!」

「うん、が、頑張る」

 

 おそらくPKと相対した経験が少ないのだろう、若干緊張がにじむカスミだったが、フレイヤならば適切なフォローをしてくれるだろう。

 

「フレイは二人が抑えた敵を速やかに排除。任せた」

「ああ、問題ない」

 

 そう、きっぱり頷くフレイに、クリムも全幅の信頼を乗せて頷き返す。

 

 あとは、今か今かと指示を待つ雛菊だが……

 

「それじゃ……雛菊、左翼は任せた!」

「ガッテンです!!」

 

 ただそれだけ、短く告げる。

 クリムの許可が下り、嬉しそうに、ヴォッ、という蒼炎が噴き出す音と共に駆け出した雛菊の姿が――その数歩先の交差点手前で、無数の蝶が舞ったかと思えば次の瞬間スッとその姿を消した。

 

 正直、今回のように相手がプレイヤーキラーな以上は、天性のPKキラーである雛菊に関してクリムはあまり心配していない。むしろ、相手側に若干同情しているくらいだ。

 

 そんな、最初から全開な雛菊の様子を苦笑して眺めながら………クリムは隠れていた遮蔽物から無造作に歩み出て、その姿をどこかで狙っているであろうプレイヤーキラーたちに晒す。

 

「まぁ……良かろう。しばらくロクな目に遭っていなかった鬱憤、この機会に晴らさせてもらうとしようかの――ッ!」

 

 途端に、全身に突き刺さる殺気。ようやく自分のフィールドへと戻ってきたような、全身に活力の漲る感覚。

 

 一歩遮蔽物から踏み出した瞬間に頭を狙い飛来した銃弾を、クリムは禍々しく変形した爪で見もせずに切り払い、叩き落とす。

 

 

 ――爪スキル70『スラッシュレイヴ』。

 

 

 威力はさておき発動、リキャストに優れ連続使用が可能なその爪が、瞬き一つの間に三度振られそのたびに飛来する金属片を切り裂いたあたりで、肌を刺す殺気が動揺に変わる……その瞬間の、甘美な感触。

 

 慌ててこちらの脅威度を計算し直しているであろうプレイヤーキラーたちは、これ以降己が技巧を尽くし挑んでくるであろう。さて、どれだけ楽しませてくれるであろうか。

 

 そんな闘争の予感に、クリムは牙を剥いて獰猛な笑顔を浮かべるのだった――……

 

 

 

 

 

 





 このゲーム内の銃は、現実のそれより「もしかしたら頑張れば切り払えるかもしれない」くらいの弾速に調整されています。(できるとは言ってない

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