Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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黄昏の猟兵

 

 ――彼らは、結構昔から展開されていたとあるフルダイブVRMMOFPSにおける、古参のプレイヤーの一団だった。

 

 そんな彼らが数年を過ごしたゲームも、とうとうサービス終了が運営から仄めかされ――ならば次の移住先をどうしようか……そんなことに皆が頭を悩まされていた頃、『Destiny Unchain Online』が新たなアカウントを販売開始したことが発表された。

 

 ――完全スキル制。

 ――PKありあり、PvP重視。

 

 そんな謳い文句を掲げていたため、以前から候補にあったそれに、皆がこぞって移住を決めたのだが……

 

「どうせなら、悪名を馳せてみるのもいいんじゃないか?」

 

 それはほんの思いつき。確かクランリーダーの発言だったか。

 

 皆も、今更人目を気にしてのお行儀の良いプレイというのも、飽き飽きしてきていたところだ。

 常に最前線で戦ってきた自分たちが、お優しい世界でのほほんとスポーツみたいな争いをしている者たちに後れを取るわけがない、そんな自惚れもあった。

 

 皆が乗り気になるまでに、さほど時間は掛からなかった。

 ならば、いっそ『魔王』と呼ばれ恐れられるギルドを目指すのも悪くないなと盛り上がり……そうして『Destiny Unchain Online』へと移住してきた彼らは虎視眈々と装備を集め、今までの経験を生かせるようレアな銃をかき集め、スキルを鍛えて、機を窺っていた。

 

 ――そうして訪れた、PKありの公式イベント。

 

 ――そこで……彼らは遭遇する。理不尽の権化である、本物の『魔王』に――……

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、あれ」

 

 一緒に行動していた相方が、突然街の一角に目を向けて、訝しげな声を上げていた。

 

 ――俺たちは、これからPKギルドとして名を上げようと画策している、『黄昏の猟兵“トワイライト・イェーガー”』の、狙撃支援チーム『アルファ』。そして俺は、そのリーダーだった。

 

 

 相方の彼が覗き込んでいた場所を、どれどれと覗き込む。

 

 そこには……黒い愛らしくも扇情的なビキニタイプの水着を纏った、驚くほど可愛らしい純白の少女が、多数のプレイヤーに話しかけられてにこやかに手を振っていた。

 

「へー、姫ってやつかね。初めて見たわ」

「まぁ、俺らのいたゲームには可愛い女の子なんて居なかったしな」

 

 居たのは男以上に男らしいメスゴリラだ。でなければすぐ辞めていったのだから。

 

「なあ、あの子もターゲットにしようぜ。人気者っぽいし名を売るにはちょうど良さそうだろ」

「……ま、いいだろう。ほら、だったらさっさと持ち場につけ」

「へいへい。あ、でも近くにいた胸でかいエルフの子、めっちゃタイプだったわ」

「ああ……俺は、その横にいた緑髪のロングヘアの子だな」

 

 そう軽口を叩きあい、それぞれあらかじめ決めていた最初の狙撃ポイントへと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 そうして始められた、自分たち『黄昏の猟兵』の、PKギルドとしての初仕事。

 

 誤算が、いくつかあった。

 まず、最初に狙撃予定だった白い少女を取り逃したこと。偶然であろうが、正直狙撃には自信があっただけに、自尊心はひどく傷付いた。

 

 もう一つが、向こうに腕のいい狙撃手がいる。おかげで思うように移動できていない。

 

 だがそれでも順調にキル数は伸びており、悲鳴があちこちから響く水没都市。

 その中でスコープを覗き込んだ先……そこに、建物の陰からフラフラと歩み出てきたのは白い影……先程、他のプレイヤーに囲まれてチヤホヤされていた少女だ。

 

 

 ――俺は、あのようなチヤホヤされる女プレイヤー……いわゆる『姫』というやつが大嫌いだ。

 

 

 たいして腕もなく、他者に媚びて便宜を図るよう要求する。向上心もなく、そのくせ物欲だけは人一倍の、浅ましいプレイヤー。

 

 そのお綺麗な顔、吹っ飛ばしてやると意気込み、照準を合わせ……そこで、違和感に気付いた。

 

 最初は、可憐なお姫様らしく極限状態に耐えきれなくなったのかと思った。だが、それはすぐに違うと悟る。彼女はあまりにも落ち着きすぎている。

 

「はっ、スコープの先に居るのがゴリラ女じゃないなんて、ファンタジー様々だぜ……!」

「待て、何か様子が……!」

 

 正直、彼の気持ちは分からないでもない。

 元いたゲームは何というか……いかにもな外国のゲームであり、基本的に男女問わず『強そう』なアバターばかりで気が滅入ると愚痴り合ったりしていたのだから。

 

 一方で、こちら(DUO)の少女は国産RPGらしく、見目麗しい少女も沢山居て……今スコープの先に居る少女など、その最たるものだ。

 

 ……まあもっとも、そんな可愛らしい少女を撃つことに喜びを見出している相方に、こっそり心の距離を取るのだが。

 

 それはさておき。

 

 そんな獲物にテンションが上がったのだろう、舌舐めずりしながら迷いなく引鉄を引こうとした同僚を、慌てて制止するも……一瞬間に合わず、放たれた弾丸。

 

 次に見たものは……あまりにも、信じがたい光景だった。

 

 

 

 放たれた銃弾による変化は、少女の手が宙に一閃された。ただ、それだけ。

 少女は血に沈むことも、死亡エフェクトに包まれることもなく、ただ元通り佇んでいた。

 

「……は? いや、待て、当たったよな?」

 

 平然と立っている少女に困惑し、移動も忘れ再度引鉄を引く相方。しかも、まるで焦りを映したかのように、三連射。

 

 だがしかし、少女の手が残像を残して閃くと――実に、実に信じがたいことだが、その爪に斬り裂かれて金属片がその場にポロポロと落ちる。

 

「なん……だと……!?」

「素手で、銃弾を……!?」

 

 愕然と呟いた俺たちの視線の先で、薄暗い水没都市の光景の中ほの光る、少女の真紅の目がこちらを向く。

 

 そしてゆっくりと、その愛らしい桜色の唇が開いた。

 

 

 

『そ こ か』

 

 

 

 多分、そう言ったのだろう形に、白い少女のその唇が動く。

 

 そして、少女は小さな牙を覗かせてこちらを真っ直ぐに見つめ、獰猛な笑顔を浮かべた。

 

 ――次の瞬間、二人揃って本能的にその場から飛び出し、全力で後方へと駆け出していた。

 

「ひっ、な、なんだあの子!?」

「アルファからデルタへ、こちらターゲットに捕捉された、一時撤退――」

 

 ――する。

 

 そう言おうとした瞬間。

 

 

「ぐは、ぁ!?」

 

 事態が理解できない、といった色が混じる悲鳴。

 そちらを見ると、相方の胸から漆黒の短剣が飛び出しており……そこに居たのは、先程の白い少女。

 

 いつのまに――愕然とするも、咄嗟の行動は早かった。

 

「……このっ!?」

 

 こうなっては邪魔にしかならない狙撃銃を少女に投げつけ、腰からマチェットを抜き放って路地に飛び込む。

 

「あー。今更なのじゃが、プレイヤーキラー諸君に言わねばならんことがあるんじゃが、いいか?」

 

 そんな逃げる自分を追いかけてくる、場違いに呑気な声。白い少女が妙に時代がかった口調でこちらへ語りかけてくる。

 いいわけがあるかと内心毒付きながら、それでも耳を傾けざるを得なかった。

 

「実はの……我らは今、動画を生配信中でな? 勿論なるべくはそちらを映らぬようにするつもりじゃが、撮影に映りたくなければ配信を切ってくれと言ってもらえるとありがたいのじゃが」

 

 

 その言葉に……ギリッと、唇を噛む。

 それは……これから無残に叩き潰してやるから、せめて温情が欲しければ言えと、そう言われた気がした。

 

「クソくらえだ、やれるもんならやってみやがれこの■■■■■が!?」

「お、おぅ? ……了解した。では、我も気にせずこのまま続けるとしよう」

 

 諦めたように、そう少女が返答を返す。

 

 だが、いまだピタリと追いかけてくる気配があるが……彼女が余計な配慮をしてくれたおかげで、目的のポイントへは誘導できた。

 駆け込んだ路地の先には、有事の際にとあらかじめ撤退支援として配された仲間たちが潜んでおり、彼らは銃を構え、背後から迫る少女に牽制射撃を行う。

 

 ……どうやら向こうも物陰に隠れたらしい。

 

 ひとまず撒いたことに安堵しながら、支援してくれた仲間たちと移動を開始する。

 

 ――なんてこった。可愛いだけで中身は化け物だ。これならまだ中身は人間な分、元のゲームのメスゴリラの方がずっとマシだ。

 

 そんな心境のまま、合流して撤退しようと別働隊に連絡を取る。

 

「こちらアルファからデルタへ。予定外の事態が発生した、一旦本隊のもとへ帰還を……おい、デルタ?」

 

 

 ――ひぃ、子供が、子供がなんで!?

 

 ――くそ、また一人やられた! いったい何人いるんだあのガキ!?

 

 

 戦闘音と、仲間たちの悲鳴だけが通信の向こうで繰り広げられていた。嫌な汗が、じっとりと背中を湿らせる。

 

 ――うわぁあああ、こちらデルタ、アルファ、生きているなら救援を!? 蝶が、蝶が……ゴばッ!?

 

『おや、通信中でしたか?』

「……ヒッ!?」

 

 デルタ班リーダーの変な断末魔の声と共に、可愛らしい少女の声が聞こえてくる。

 だがそれはこの場において、ただ異常事態の証明でしかなく……ギリギリと心臓を締め上げる恐怖に、思わず悲鳴を上げる。

 

 ――どうやら、自分たちはうっかり悪魔の尾を踏んだらしい。

 

 この世界をどこか甘く見ていた事を、自分たちは今から嫌と言うほど思い知らされるのだと……そんな予感に皆、表情を恐怖の形に固く強張らせたのだった――……

 

 

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