Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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魔王の鉄槌

 

「ひぃ、子供が、子供がなんで!?」

「くそ、また一人やられた! いったい何人いるんだあのガキ!?」

 

 恐慌状態となり、蜂の巣を突いたような騒ぎとなっている、チーム『デルタ』と名乗っていた男たち。

 

 そんな彼らの只中には……ケタケタと可愛らしい笑い声を上げながら、蒼い幽鬼のような炎を纏う狐の少女……雛菊が、まるで本当に幽霊のような動きで猛威を振るっていた。

 

 時折雛菊の周囲を大量の蝶が舞い、その瞬間狐の少女の姿はその場から掻き消える。

 その次の瞬間には、プレイヤーキラーの男たちの誰か一人が首を、心臓を、穿たれて沈んでいくのだ。もはや怪異にしか見えない。

 

 

 

 ――そんな雛菊の戦闘の種は、「幻惑」というスキルにあった。

 

 低ランクのうちは、単体ではただ綺麗な蝶や桜を舞わせる、それだけのスキル。だがこのスキルには、他のプレイヤーを惑わせる以外に一つだけ、利点があった。

 

 それは……敵に認識されていても一瞬だけ、高レベルの隠密スキルで使用できるようになる『ハイディング』を、無理やり使用可能な瞬間があることだ。

 

 

 

 蝶に気を取られ、一瞬相手の注意が分散したその瞬間に意識の空隙へと滑り込んで姿をくらまし、致命打を放つ。

 

 そんな戦法で縦横に戦場を駆ける雛菊に、プレイヤーキラーたちはすっかり恐慌状態に陥っていた。

 

 更には、遠方からの狙撃支援が始まっている。

他の班では、一般プレイヤー側からの反撃が始まったせいでそのほとんどが撤退中であり、彼ら『デルタ』班はすっかり取り残される形になってしまっていた。

 

 そんな彼らプレイヤーキラー側の『アルファ』班からの狙撃支援はなぜかすっかり止まっているため、彼らはその狙撃にほぼ一方的に足止めされており、思うように逃げられないことが更に彼らを追い詰める。

 

 

「こちらデルタ、アルファ、生きているなら救援を!?」

 

 一人、そうどこかに叫ぶプレイヤーキラーの一人。それがかえって、雛菊の目を引き寄せてしまった。

 眼前で蝶になって消えた少女に、その男が顔を痙攣らせ、半狂乱で、通信に捲し立てている。

 

「蝶が、蝶が……ゴばッ!?」

 

 小柄な体を活かし懐に飛び込んだ雛菊、その太刀が、通信していた男の喉と頭を貫く。その口からおかしな断末魔の悲鳴を上げて、クリティカル判定を受けた男のライフが全損した。

 

「おや、通信中でしたか?」

 

 その喉から頭にかけて斜めに貫いた刀を抜き、血……はついていないので気分で刃を払って構え直し、残るプレイヤーキラーたちに笑いかける。

 

 その笑顔は非常に愛らしいものの、目だけがギラギラと剣呑な光を帯びているのもあいまって、もはや物の怪の類にしか見えない。

 

「では、今の方がリーダーでしたか……まぁいいです」

 

 そう言って、刃を撫でるように触れた後、刺突の構えを取る雛菊。皆が、否が応でもその刃に視線を釘付けにされる。

 

「あなたたち、PKさんですので……ねえ、その首、置いていってくださいです、ねえ?」

 

 にっこりと満面の笑みを浮かべた雛菊から、膨大な破邪の蒼炎が舞い上がる。

 そんな炎を背景とした逆光の中、殺意に満ちた金眼だけが爛々と輝いてプレイヤーキラーたちを射抜く。

 

 その姿を目の当たりにしたプレイヤーキラーたちに、もはや冷静に対処する精神的余裕は無く……彼らデルタ班が全滅するまで、さしたる時間は掛からなかった――……

 

 

 

 

 ◇

 

 ――一方で、逃亡した狙撃手、そして彼を援護しながら後退している部隊を追うクリムは、というと。

 

 

 素手は、最も取り回しの利くサブウェポンだ。

 その派生である爪スキルを盾のように活用し、自身に当たる弾丸は爪で切り飛ばしながら、遮蔽物を縫うように駆け回るクリム。

 

「エイムが、追いつかな――」

「遅い!」

「が、はっ……!?」

 

 胸に飛び込むようにして、接近を許したプレイヤーキラーの一人の懐へ入り込むクリム。

 その手にした漆黒の短剣により心臓を穿たれ、残光へと還っていく男は一顧だにせず、その光を突き破るようにして次の対象へと駆け出した先には……いまだ反応できず、慌ててクリムに照準を合わせようとしている者が居た。

 

 すわ、またも同じような犠牲者が……そう彼らが息を飲んだ瞬間。

 

「接近されたら銃なんか役に立たねぇ、捨てて近接戦闘で対処しろ!」

 

 そう言ってクリムの前に割り込みその短剣を止めたのは……マチェットを構えた、最初にクリムが追っていた狙撃手の男。

 

「ほぅ……仲間を守るか、なかなか漢気のあるプレイヤーキラーじゃな!」

「抜かせ……!」

 

 ギン、と激しく金属音を打ち鳴らし、クリムの短剣を弾く狙撃手の男。

 反動で宙返りを決め、着地狙いに殺到する銃弾を途中で建造物の壁を蹴って三次元機動で回避しては遮蔽物に逃げ込むそのクリムの身のこなしに、プレイヤーキラーたちから忌々しげな舌打ちがいくつも響く。

 

「くそ、なんだあの動き、化け物か!?」

「落ち着け、一瞬でも気を遣るな、喰われるぞ!」

 

 ざわつく男たちに、さてどうしたものかとクリムが思索していると。

 

「奴の攻撃力自体は大したことはない、クリティカルに気をつけろ、奴の狙いは正確だぞ!」

 

 そんなリーダーの言葉に、クリムは心外だと眉を顰める。

 

「……やれやれ。我としてはお主らに合わせていただけなのじゃがな。では、全力全()でお相手しよう」

 

 大したことはない、という言葉に、負けず嫌いな部分が反応した。微妙にカチンと来たクリムは……この瞬間、大人気ないことをしでかすことに決めた。

 

「シャドウ・ヘヴィウェポン……変幻全開!!」

 

 いつもの漆黒の大鎌が、クリムの手に出現する。だが、その様子がいつもと違う。

 みるみる巨大化していく大鎌はその質量を元の五倍くらい、冗談のような大きさへと膨れ上がらせた。

 そんな巨大な鎌を、小柄な少女が引きずって歩く。その異常な光景に、愕然とするプレイヤーキラーたち。

 

 しかし流石というか、すぐに我に返り、ゆっくり歩くクリムへと集中砲火を仕掛けるが……それは全て、冗談のように振るわれた鎌に叩き落とされる。

 

「我はじゃな、プレイヤーキラーというものに悪い感情は抱いておらんのよ。とくにお主らみたいな……自分たちが撃たれる覚悟のある連中は、むしろ大好きじゃぞ?」

 

 そのクリムの言葉に嘘はない。

 

 彼らは自分たちが劣勢になった際のことも考えて、退路の確保まで視野に入れた戦力配置をしていた。

 それはすなわち、自分たちが負ける可能性を考えた上で、剥き出しの敵意渦巻く中での闘争の道を目指す覚悟があるということに他ならない。

 

 故に、クリムのその顔には嬉しそうな、だがしかし好戦的なバトルマニアじみた笑顔が浮かんでいる。

 

 こんな時でもなければ、彼らはその笑顔に見惚れていただろう。

 しかしこんな状況では、彼らにとって死地に誘う悪魔の笑みでしかなかった。

 

「故に、我、『赤の魔王』クリム=ルアシェイアが、お主らに敬意を表すと共に、この言葉を贈ろう――あまり、我ら『DUO』プレイヤーを舐めるなよ!!」

 

 そうして、巨大な鎌の影で準備中だった、クリムの魔法が完成する。

 

「――『グリムサイズ』!!」

 

 クリムがそう呟いた瞬間、それまで彼女の身を守る盾となっていた、手にしていた馬鹿げたほど巨大な質量の大鎌が形を失い、濃密で巨大な闇の大鎌へと変貌した。

 

 ――手にした武器の耐久力を全損する代わりに、その武器の威力、質量、残耐久力などなどを参照した一度だけ振るえる魔法の武器を作り出し、比類なき強大な威力を振るうこの魔法。

 

 闇魔法100――()()()()『グリムサイズ』

 

 質量は言わずもがな、作り出したばかりで新品の魔法武器、各種スキルによって非常に高性能化されたクリムの大鎌という、様々な要素が混ぜ合わされた最高の触媒を用いたこの魔法。

 それはビリビリと空気を振動させるほどの威力を秘めた巨大な死神の鎌となって、プレイヤーキラーたちの膝と心を折らせた。

 

「これが魔王……こんなん……ありえねぇだろ……」

「くはは、郷に入っては郷に従え、と言うじゃろう。ここは銃もあるが、根本的には剣と魔法のファンタジーぞ」

 

 呆然と呟く狙撃手だった男に、そう満面の笑みを向けて……

 

「じゃが、 FPSの経験を活かした銃主軸の軍団というのは悪くない。お節介かもしれぬが、もうちぃと広く視野を向け、自分たちのバトルスタイルを突き詰め出直してくるがよい!!」

 

 

 ……そのまま、その手にした鎌で無造作に薙ぎ払った。

 

 

 

 

 ――結果は、まさに災厄。

 

 街の建物などまるで豆腐のように切り裂いて、横薙ぎに振られた刃。

 

 それによってクリムの前方半径数十メートルに渡り瓦礫の山と化す中、その攻撃範囲内にいたプレイヤーキラーたちは全て、為す術無く残光(リメインライト)へと還っていくのだった――……

 

 

 

 




うわようじょこわい
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