Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「……む?」
「……このあたり、周囲と雰囲気が違うな?」
何度か触手の襲撃を振り払い。
襲ってきた、やはり手足の生えたリアルディテールの、秋刀魚や鯵などのむやみやたらバリエーションがある魚の姿をしたモンスターを打ち払いながら。
そうして、水没洞窟を順調に踏破していたルアシェイア一行。
そんな彼らが踏み込んだ部屋にあったのは……洞窟の中に突然現れた、金色の石畳がまばらに覆う壁だった。
「あからさまに何かありますね……」
「にゃはは、とりあえず調べてみようかー」
サラとジェードが、早速周囲の検証を始める。
それに合わせて皆が周囲に散らばり、しばらく探索していると。
「おいクリム。こっち、こっちだ」
「む、フレイ、何かあったのか?」
「ああ、多分だけどな」
少し離れた場所を調べていたフレイに呼ばれ、そちらへ行くとそこには……
「鍵穴じゃな?」
「鍵穴です」
「鍵穴なの」
そのおかしな物を見たクリムが、同じく示された場所を覗き込んでいた雛菊とリコリスと共に唱和する。
そこには、扉もない壁に、ポツンと鍵穴が顔を覗かせていた。
「鍵……アレかな?」
「うむ、試してみようか」
フレイヤの言葉に、全く同じことを考えていたクリムも同意する。いそいそと、以前カトゥオヌス(マグロ)から入手した鍵を取り出していると。
北の魔王:おっ……と、奇遇だな
「む? どうかしたか、北の」
不意に、コメントに見知った視聴者の言葉が流れてきて、そちらに注目する。
北の魔王:その鍵穴、私たちも先程探索中に見つけたな
東の蒼龍:おや、あなた方北の氷河もですか?
北の魔王:ああ、肝心な鍵がないから今探索中だがな
コメント:魔王様が一斉に見つけた鍵穴
コメント:なんだろう嫌な予感しかしない
「ま……まあ、とりあえず鍵を使ってみるからの!?」
周囲に集まってきた皆に目で確認し、うなずくのを見たクリムが、鍵を鍵穴へと差し込む。
「……うわっ」
鍵穴から奔る緑色の光。予想外の動きに、思わず驚きの声を上げる。
それは一帯の壁を放射上に駆け抜けていったかと思うと……壁を構成していたブロックの配置が組みかわり、みるみるその姿を変えていく。
そうして、およそ1分くらい。そこに開いていたものは……
「……つ、通路じゃな?」
二列くらいならば、余裕で進めそうな広さの通路。
薄暗くて先を見通せないその通路の奥からは、ヒュオォ……と不気味な音を立てて風が吹き込んでくるのを見るに、この先はおそらく相当広大な空間になっているはずだ。
「す、進むぞ、進むからな!?」
まるで化け物の口の中へと踏み入るような暗い通路を、おっかなびっくり歩み出すクリムだったが――
「……えい、バーン!」
「にょわぁぁああああああああああ!?」
そのへっぴり腰全開の様子で進むクリムの姿を見ていて……つい悪戯心が抑えきれなかったらしい雛菊に突然背中を押されて、あられもない悲鳴を上げるクリムなのだった。
◇
「案外長いな、この坂」
「はいです、少し歩き疲れたです」
明かりが薄かったため、手にしたスローイングナイフに光を灯す魔法を纏わせたものを捧げ持つクリムと、そのすぐ後ろを追従する雛菊が、若干うんざりした声を上げる。
そしてそれは背後の皆も同じであり……この螺旋型のスロープとなっていた道に入ってひたすら降り始めてから、すでに五分が経過していた。
「ところで……ねぇお師匠、これまだ外してはダメですか?」
不意にそんなことを尋ねてきた雛菊は今、『私は無意味にお師匠を驚かせました』というプレートを首から下げて歩いていた。
「もうしばらくつけてなさい」
「はぁい」
にべもなくあしらう、さすがに怒った様子のクリムの言葉に、若干不満げながら素直に従う雛菊だった。
それはさておき。
「っと、広い所に出るぞ」
「ようやく終わりですか……」
そう、背後に伝え、先に踏み込む二人。そこには……
「おおぅ、広いのぅ……」
クリムが、思わず呑気な声を上げる。
徐々に石畳の比率が増えていく螺旋型のスロープを降った先にあったのは――島の中にあるとは思えない、広大な空間に収められた巨大な地底神殿だった。
「というかこれ、どうやって島の中に収まっていたんだろー?」
呆れ混じりにほへーっと上を見上げるのは、何かエネミーが居たら即座にターゲットを取れるよう、先頭に出てきていたフレイヤ。
「……なぁフレイ、もしやこれ、第三層か?」
「……みたいだな。マップも第三層って表示されてる。名前がバグっていて読めないが、な」
マッパーであるフレイの言葉に、なるほど、とうなずくクリム。
「しかしまあ……綺麗な所ねー」
「あ、あれ金かしら……いったいいくらするのかしら……」
眩い金色の光を放つ建物に、感嘆の声を上げるフレイヤと、小市民ゆえに恐縮しているカスミ。
そんな建物自体が放つかのような光に吸い込まれるように、皆が歩き出す中……
「じゃが、なーんか気になるんじゃよな……」
「どうした、クリム?」
一人、最後尾で首をひねるクリムに気付いたフレイが、声を掛けてくる。
そんなフレイに……クリムはこの層に入ってからずっと覚えていた違和感を口にする。
「いや……どうにも、誰かに見られているような気がしての」
「……やめろよ、お前のそういう悪い勘ってだいたい当たるんだから」
長い付き合いから来る、ある種のクリムに対する信頼により……何やら薄ら寒いものを感じたように、ブルッと身を震わせるフレイなのだった――……