Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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銀の国の貴公子②

 

「――こちらの名を『玖珂(くが) 玲央(れお)』と申します。以後お見知りおきを」

 

 そう、深々と頭を下げて礼を述べながら曰う、眼前の銀髪の青年。

 

 だが……今の紅は生憎と、それどころではなかった。

 

「な、な、な……っ!?」

 

 まるで淑女に対するような挨拶に面食らい、硬直状態から復帰した紅が今度は真っ赤になって後退り、先程取られた手を胸に抱える。

 

「…何を! あ、あんな事を突然……っ!?」

 

 すっかり羞恥に白い肌を赤く染め、混乱した様子の紅が、彼を睨みつけながら抗議する。

 更には聖と昴も、紅を守るように前に立って抗議の視線を送っていた。

 

「あー……すまんな玲央、日本にはそういうスキンシップの文化は無いから、ちぃと紅には刺激が強かろう」

「おっと……これは失礼しました。両親にも日本へ行くならくれぐれも気をつけるようにと言われたのですが、お嬢さんの可憐さに浮かれて、ついやってしまいました」

 

 そう肩をすくめて戯けるように言って、だがすぐに真面目な顔で素直に謝罪する彼、玲央。

 

 全く仕方ない奴じゃな、と苦笑する天理。一方で宙は表情こそにこやかだが、明らかに目は笑っていなく、青筋が浮いているのが見える。

 

 だが……紅は玲央と目が合った瞬間、彼が何を思っているのかを、ぞわっと逆立つ鳥肌と共に理解した。

 

 

『なるほど、ちょっと面白くなりそうだな』

 

 

 そんな感じの、如実に好奇心に満ちた視線。いわゆる『おもしれー女』認定されたのをひしひしと感じ、紅が頬を引きつらせる。

 

 それすなわち、すっかり興味を持たれてしまったことを察し、その余裕綽々といった様子の貴公子然とした顔を一発引っ叩いてやろうかなどと、少々物騒なことを考える、が。

 

 

 ――いや、無理か。こいつ、強い。けど何だ?

 

 

 別に紅も、本当に実行するつもりだったわけではない。ただ脳内で考えて溜飲を下げようとしただけだ。

 

 だがしかし、もし仮に実行しようと思っても、今の紅ではまだ届く気がしないと心の冷静な部分が告げている。そんな、目の前にした際に感じる、猛烈な違和感。

 

 何かの武道やスポーツをやっていたとか、そういうのとは次元の違う覚悟の決まりようとでも言えばいいか。まるで……

 

 

 ――実際に命の危険がある戦闘の中に、常に身を置いていたかのような。

 

 

 あるいは、軍の特殊部隊とかならば同じような雰囲気を纏うだろうか。

 ただ一つ言えることは、ゲームならばともかくリアルで喧嘩になろうものなら、全く敵うビジョンが見えないということだ。

 

 

 ――というかそもそも、リアルで争う意味なんてないよね。

 

 

 ようやく、彼の雰囲気に飲まれて思考がおかしな事になっていたことに気付いた紅は、深々と息を吐いて思考をリセットする。

 

「……クリム=ルアシェイア。こちらの名前は満月紅です、よろしく」

「うん、よろしく」

 

 見るからに警戒心バリバリな様子で昴の背中に隠れるようにしながら、それでも挨拶を返し握手を求める紅に、苦笑しながらその手を握る玲央。

 

 その手は……全体的に線の細い彼の容姿とは裏腹に、ごつごつと一部皮が厚くなった感触のする、大きな手のひらだった。

 

「改めて、彼は玖珂玲央くん。君たちの通う学校の理事長のお孫さんで、ちょうど君らと同学年だよ……僕たちも、彼の両親とは親交があったんだ」

「そ……そうなの!?」

 

 宙から理事長の孫と聞き、その理事長を尊敬する紅が驚きの声を上げる。

 

「ちなみに、こやつは二学期から紅と同じ学校に転入予定じゃそうだからな。仲良くしてやってくれ」

「……マジか」

 

 さすがに同じクラスにはならないだろう……そう自分に言い聞かせる紅だったが、なんだか嫌な予感しかしないのだった。

 

 

 

「……っと、どうやら時間のようじゃな」

 

 そう名残惜しそうに呟く天理。すると、周囲の風景は幻想的な雪山から、今度は南の島のビーチらしき風景へと変化した。

 

「おっと……お邪魔してしまいましたね。それでは、私は色々と挨拶もあるため祖父の元へと戻りますので、これで」

 

 そう言って一礼し、踵を返す玲央。

 

「それじゃ……また後で。今夜、楽しみにしてるよ」

「……うん?」

 

 去り際に紅をチラッと見ると、なんだか意味深な言葉を残して、今度こそ歩き去っていく玲央。

 その視線に紅はなんだろうと首を傾げるも、彼は颯爽とした足取りで、すでに遠くに行ってしまっていた。

 

 一方、そんな立ち去る姿ですら彼は不思議と決まっており、周囲の主に女性客から黄色い声が飛ぶのを、にこやかに手を上げて答えながら立ち去っていく。

 

「はー……すごいなぁ。理事長のお孫さんなんだよね、リアル王子様だ」

「あの人が、以前一緒に戦った『北の氷河』団長さんですか」

「なんだか、すごい人だったの……」

 

 佳澄と雛菊、そして深雪が、彼の立ち去った方をポーっと見つめながら呟く。

 

 そんな女性陣の様子に……どうにも面白くないのは紅と昴だ。

 

「何というか、あれだね。ゲーム内最強プレイヤーがリアルも完璧イケメン王子様とか、殺意湧くよね」

「お前が言うなと言いたいところだけど、僕も全面的に同意するぞ、紅」

「えーと、紅ちゃん? 昴?」

 

 嵐のように現れては立ち去った玲央に、みなが感嘆の声を上げる中……それが面白くなかった紅と昴は、そう憎々しげに吐き捨てる。

 

 そんな普段とは違う二人の様子に、聖は一人、呆れたように苦笑するのだった。

 

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