Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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慰労パーティーの席で

 

 北の氷河団長の、突然のオフラインミーティング乱入。

 そんなトラブルがあったものの、その後はこれといったトラブルもあまりなく、結局、陽が傾き始めるまで海で遊び倒した後。

 

 場所は、アイランドシティ内にあるセレモニーホール。余裕をもって設置されたテーブルに、所狭しと料理が並ぶパーティー会場に、紅たちは来ていた。

 

 

 

 ◇

 

「何が気楽なパーティーだよ……騙された……」

 

 そう、驚くほど手触りがいい生地でできたスカートを掴みながら、涙を浮かべた目で隣に佇む天理を睨む紅。

 

 そんな紅は今、いつのまにか天理が用意していたパーティードレスに身を包み、こちらもドレス姿の天理の隣で貼り付けたような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ……紅たちが今居るのは、今回の事業に携わった『NTEC』の社員たちを慰労するための立食パーティー。

 

 確かに慰労のためのパーティーなため、基本的には身内での気楽な集まりなのだが……それなりの格がある会場なこともあって皆、貸衣装などを着ているものがほとんどだ。

 その中でも特に、天理をはじめとしたホスト側はきちんと正装していた。他から出向していた関係者や、事業に携わった来賓客などもいるためだ。

 

 当然……そこには、NTEC代表である天理の娘である紅も含まれる。むしろ、初めて社交の場に現れたその可憐で幼気な少女の方が、より注目されているほどであった。

 

 

 ――要するに、一応は社長令嬢ということになる紅の顔見せも兼ねているのだ。

 

 

 だが、今更気付いたとしても時すでに遅し。

 特に何か話せという訳ではなく、気楽ではあるのだが……それでも、誰かが隣に立つ天理に話しかけてくるならば紅も微笑んで挨拶くらいはしないといけない訳で、騙されたというのもやむなしだろう。

 

 

 

 ……夕方、海で遊び終え、シャワーで海水を洗い流し終えた直後。有無を言わさず天理に手を引かれて、館内にある美容院に連れ込まれた時点で、嫌な予感がしたのだ。

 

 丹念に手入れされ、丁寧に櫛を入れられた白髪は耳の後ろで細い二本の三つ編みに編まれ、後ろで緩く結んでハーフアップ……いわゆる『お嬢様結い』に纏められている。

 服はというと……薄手の白いレースの入った生地と、青から紺にグラデーションする生地、二層仕立てという、明らかに手間とお金がかかった、ふんわり可愛らしいパーティードレスだった。

 

 

 ……ちなみに、もじもじしながら宙にもそのドレス姿を披露したところ。

 

 彼の目の前で、紅が彼の希望通りくるっとターンしたところで感極まったらしく、「我が生涯にいっぺんの悔い無し」とばかりに今は壁際で真っ白になっていた。

 

 

 それはさておき。

 

 しかもこのドレス、サイズは誂えたように紅の体にぴったりとフィットする。そんな手間のかかりそうなドレスが一朝一夕に用意できるわけもなく……

 

「母さん……また私に隠して仕立ててたでしょ?」

「うむ、お前に言ったら絶対シンプルなやつにしてと言ってくるだろうからな!」

「母さんのダメなところはそういうところだよ!?」

 

 相変わらず秘密主義な母に、たまらず身を乗り出してツッコミを入れる紅。

 だがそんなふうに娘に詰め寄られようと、天理のデレッとしながら愛娘を見つめる表情を引き締める事はできず、諦めて、はぁ、とため息を吐く。

 

「ほんともう、いっつも私には色々秘密にしたまま話を進めるんだから……」

「あはは……まあまあ、大丈夫、紅ちゃんすごく似合ってる、可愛いよ?」

 

 そう背後から声が掛かると同時に、ポンポンと頭を撫でて慰めてくる手の感触。

 紅が振り返ると、そこに佇んでいた聖が、二つ手にしていたソフトドリンクのグラスを一つ紅へ手渡してくる。

 

「挨拶お疲れ様、はい、飲み物取ってきたよ。ジンジャーエールでいい?」

「うん、ありがと。なんだかごめんね、聖まで巻き込んで」

「全然。むしろ私は、こんな綺麗なドレス着れて嬉しいかなー」

 

 そう言って、自分の姿を見下ろしてにへら、と笑う聖。

 なんでも要に対する報酬の一環だとかで、天理の手により聖にも一着オーダーメイドで仕立てられていた。こちらは黒を基調としたロングドレスで、腕には白いレースのショールを掛けている大人っぽいドレス。聖の色素の薄い髪と白い肌とのコントラストがとても良い感じに仕上がっていた。

 

 そんな娘の姿を見た要はというと……こちらも宙同様興奮しすぎて壁際で真っ白に萌え尽きている。

 

 すっかり駄目になっている父親たちの様子に……

 

「ま、親孝行と思えば諦めもつくかな?」

「そうそう、それでいいと思うよー?」

 

 そんな事を二人で言い合って、お互いクスッと吹き出すのだった。

 

 

 

 

 

 


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