Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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赤い流星

 

 旅行から帰宅し、数日ぶりの自宅の空気に感慨に浸るのもそこそこに。

 

 運転疲れにより自室で眠るという両親を見送った紅は、真っ先に『Destiny Unchain Online』へとログインしていた。

 

 

「フレイ、悪いが待っている時間が惜しい、我は先に行く。今日の昼に入ってからドッペルゲンガーの行動パターンが変化したというのが、どうにも気になるのじゃ」

 

 手早く所持品のチェックを済ませたクリムは、メッセージツールを開いてまだログインしていない昴……フレイに告げる。

 

 ざっと他のメンバーにも目を通したが……旅行から帰宅した当日に、さすがにログインしている者はいない。

 

 最悪の場合、今日は自分と、あらかじめ帰宅途中に示し合わせていたフレイの二人だけも覚悟しなければならないだろうと、算段をつける。

 

『……分かった、こっちも準備し次第すぐログインして、リコリスちゃんや雛菊ちゃんにも連絡してみる』

「ああ、頼む」

 

 帰路の途中にも、ドッペルゲンガーの動向については逐一、件の掲示板にて情報を収集していた。

 

 それによれば、なんでも今朝あたりからスリーマンセルが崩れて単独行動が増え、プレイヤーの姿を見るとすぐに姿を消すようになったらしい『ドッペルゲンガーのクリム』だが……昼あたりからそれが顕著になり、今ではもはや姿すら隠さずになりふり構わず逃亡しているらしい。

 

 これまでの目撃情報をまとめると、初期の淡々とプレイヤーの首を狩って回っていた恐怖の権化じみた様子はもはや見る影もない。それはまるで、怯えて逃げ回る少女の行動だ。

 

 時間が経つにつれ徐々に行動パターンがおかしくなっているようで、それは行動を管理しているAIに何か異常を来しているように思えるのだ。

 

 それに……この数時間は特に、()()()()()()()()()()に怯えている様子も見受けられるという。

 

「……嫌な予感がする、我は少し急ぐ」

『気を付けろよ、僕らも後から追いかける』

 

 フレイの心配そうな声に大丈夫だと頷いて、クリムは一人探索拠点から、不穏な空気漂う水没都市へと駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 急ぎなため敵に感知されるのは極力避けつつ、たまに引っかかってしまったエネミーを振り切り、トレインしていることにすれ違ったプレイヤーへ謝罪を述べながら……クリムはしばらく、都市の建造物の屋根伝いに『ドッペルゲンガーのクリム』の目撃情報のある南東の端、『B-12』区画へと向かっていた。

 

 そんな中で――

 

 

「……チッ、厄介な奴らに!」

 

 同区画の境界を跨いだ瞬間に、この時最も出会いたくなかった影が目の前へと舞い降り、クリムは思わず舌打ちする。

 

 それは……本物と違い白い肌に紫色のファイアパターンを描いてこそいるが、その見知った姿を見間違えることなどあり得ない。刀を構えこちらに切っ先を向ける狐耳の少女と、ライフルのスコープ越しにこちらを覗き込む機械の少女は――

 

「ドッペルゲンガーの、雛菊、それとリコリス……ッ!」

 

 ルアシェイア最大戦力である、あの天才児二人の似姿のペアなど、敵に回したら悪夢でしかない。

 

 特に雛菊は、クリムにとってかすっただけでも致命的である、三重特効の破邪の火焔『蒼炎』を有している。リコリスに足止めされている隙に雛菊に接近されれば、いくらクリムといっても狩られかねない。

 

「このようなところで、争っている場合ではないというのに……ッ!」

 

 ギリっと唇を噛み、武器を呼び出そうとしたその瞬間……しかし眼前の二体は、クリムにとって予想外の動きを取った。

 

 

「なんじゃ……先に行けと?」

 

 

 エネミーAI相手に特に返事を期待した訳でもなかったクリムの言葉に……だがしかし、二体のドッペルゲンガーがはっきりと頷いた。

 彼女たちはクリムへと向けて構えていた武器を下ろすと、まるで道を譲るように前を空けたのだ。

 

 罠の可能性も考えたが、そのような素振りはない。

 それどころか、彼女たちの顔には焦りと、縋るような必死の色が浮かんでいた。

 

「お主ら……まさか、自我に……?」

 

 元々が人と同じように赤子の時から『育成された』街の人々とは根本から違う……純粋にある目的をもって『作られた』存在である戦闘用エネミーのAIにあるまじき、その行動。

 考えられるのは、『機械に感情が芽生えた』という、古来から創作で見られるそんな夢のような話だが……

 

「……分かった、お主らに感謝する」

 

 クリムが頷き、彼女たちに譲られた道を駆ける。

 すると彼女たちも、まるでクリムを追いかけてくるように距離を取って並走してきたのだった。

 

 

 

 

 そうして雛菊とリコリスのドッペルゲンガーに誘導されるように、さらにしばらく走った時――遠くに見えたのは、血のように真紅にのたうつ光。

 

 その光景に、クリムは愕然とする。

 それは、クリムにはあまりにも見覚えがある、だがしかし見えてはいけないものだった。

 

「馬鹿な……『ブレイク・ブラッド』……じゃと!?」

 

 クリムの切り札にして……最大の諸刃の剣。

 

 効果時間が終われば幼児化し、あらゆる行動に支障が出るその魔法は……今あのドッペルゲンガーが置かれている、次々に追手のプレイヤーが現れる状況においては「詰み」でしかない。

 

 ――あれは、状況の終わりが見えた戦闘での、最後の手段なのだ。

 

 それをこのような状況下で使用するなど、たとえ現在どれだけ追い詰められていたのだとしても、戦闘用AIとしてはありえないレベルの最悪手でしかない。

 

 ――やはり、あの『ドッペルゲンガーのクリム』は何かおかしくなっている。

 

 確信すると共に……あの魔法が切れるまで、あと三十秒の猶予しかない。

 

 

 ――だから、もっと早く。

 

 

 そう念じながら、クリムはさらに足に力を込めて、全力を超えた全力で足場である建造物の屋根を砕きながら――前へ、ただ前へと進む。

 

 すると……なんらかのシステムに影響を与えたのか、その体が赤い光を放ち始めた。

 

 

 

 こうして、現時点でのプレイヤー中最速と噂される『赤の魔王』クリム=ルアシェイア……その全力疾走は、やがて赤い流星となって廃墟の街を切り裂き疾駆するのだった――……

 

 

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