Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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プレイヤーの力

 

「クリム!」

「……あ、フレイか」

 

 どこか焦点の合っていない目で、フレイを見つめるクリム。その様相に、彼が息を呑む。

 

「悪い、私は今から三層に、その下にある四層に向かう。急がないと……」

「おい、待てクリム、様子がおかしいぞお前」

「そうだよクリムちゃん、ちょっと休まないと、すごく疲れた顔をしてるよ?」

 

 引き止めるフレイとフレイヤ。雛菊やリコリス、カスミもその後ろで心配そうに見つめていたが……焦るクリムには届かない。

 

「いや、待っている暇なんてない、今この瞬間に、あのベリアルとかいうやつにルージュは……!」

「クリム!」

 

 ――パチン、と頬に軽い衝撃。

 

 一瞬、何があったか理解できず……だがすぐに、厳しい顔をしたフレイに頬を張られたのだと気付いた。

 

 痛みはない、それほど強く叩かれた訳ではない。だがその衝撃は、浮き足立ったクリムを冷静にさせるには充分だった。

 

 一つ深呼吸をして……今度こそ、クリムははっきりとフレイを見つめ返す。

 

「……悪いフレイ、嫌な役回りをさせた。大丈夫、落ち着いたよ」

「ならばよし。その……ベリアルとかいう奴は、四層で待つって言ったんだよな?」

「ああ……そうだな、まずは四層に降りる手段を探さないとな」

 

 今、開拓されているのは三層まで。しかもその半分に届くかどうかだ。急ぐにしても、まだ肝心の四層への降り方がわからない。

 

 

 ひとまず、情報交換をする。クリムから今ここで起きた出来事の詳細を聞くにつれて、皆の表情が真剣なものになっていった。

 

「……まず、悪かったな。間に合わなくて」

「いや、それは良いよ、皆の都合もあるし、こうして連れてきてくれただけで、本当にありがたく思ってる」

 

 頭を下げるフレイに、どうにか笑顔で返す。皆旅行帰りで疲れているはずなのに、これだけ早く揃ってくれたことには感謝しかない。

 

「それで……探索するにも、人手が足りないな。知り合いのギルドに声も掛けて……」

 

 真っ先に思いつくのは、北の氷河と嵐蒼龍。

 

 北の氷河は、ダアト=クリファード……ベリアル絡みで因縁を共有している。ソールレオンに話を通せばほぼ協力してくれるだろう。

 

 嵐蒼龍は……シャオは利がなければ動かないだろうが、逆に言えば利益が見込めるならば動いてくれる可能性は高い。その辺りは誰よりも信頼できる人物だ。

 

 多少吹っかけられる可能性はあるが、背に腹は変えられない……そう、腹を括った時だった。

 

 

「あの、まおーさま」

 

 おずおずと、ドッペルゲンガーの核である影の人形の片割れを抱えたプレイヤーの一人が手を上げる。

 彼は……たしか雛菊のドッペルゲンガー本体を連れて退避してくれた者だ。

 

「推測っすけど、人手が要るんスよね?」

「あ、ああ、うむ。そうじゃが……」

 

 もちろんこの場に残っているプレイヤー数十名にも協力を願うつもりだったが、何か心当たりがあるだろうか、と首を傾げていると。

 

「なら、こんな時こそSNSっスよ。何もまおーさま一人で睡眠時間削らなくても、俺らには何百何千もの()()()()()()()って武器があるじゃないっスか」

 

 彼のその言葉に、クリムとフレイがしばらく黙り込み、見つめ合い……

 

「「……その手があったか!!」」

 

 表情を明るくして、同時にそう声を合わせ叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――そこからの行動は、早かった。

 

 集まったプレイヤー内に、先程の出来事を撮影していた者が居たので、それを動画サイトにアップロードしてもらう。クリム自身の知名度もあって、その再生数は瞬く間に増えていった。

 

 

 ――ベリアル許せねぇ。

 

 ――ルージュちゃんかわいそう。

 

 ――こんな健気な子、NPCとか関係ない。助けないと。

 

 

 悪辣な行いをした悪役への怒り。

 拐われた少女の健気な様子に涙する、同情の声。

 そしてルージュを救おうと必死なクリムの姿を見て、義憤に突き動かされた者。

 

 それでも多数の好意的なコメントが流れ、反応は上々。きっと大丈夫。

 

 クリムはそう自分へと言い聞かせ、深呼吸をして掲示板の『書き込む』ボタンをタッチする。

 

 

 

 ———————————

 

 ……

 

 …………

 

 

 0273:クリム=ルアシェイア

 

 どうやら皆、動画は見てもらえたみたいだな。我は、あの子を助けたい。だけどそのためには、本当に時間がないんだ。

 

 共に戦って欲しいとまでは言わないが、皆の眼を貸して欲しい。些細な手がかりでもいい、何でもいいから四層へ降りるための情報が必要なんだ、それも可能な限り早く。

 

 だからどうか……皆の力を貸して欲しい、この通りだ。

 

 

 0274:名無しの探索者

 

 え……?

 

 

 0275:名無しの探索者

 

 >>273

 え、嘘、まさか本人?

 

 

 0276:名無しの探索者

 

 >>273

 本人降臨来たー!?

 

 

 0277:名無しの探索者

 

 ガチか、あの動画の投コメにあった救援要請ガチなんだな!?

 

 

 0278:名無しの探索者

 

 おい、このページ他のスレにも流せ、ギルドスレや攻略スレにも拡散しろ、協力したい奴は絶対居る!

 

 

 0279:名無しの探索者

 

 ろりくりむちゃん助けるナイトやれる機会ってマジですか!?

 

 

 0280:名無しの探索者

 

 祭りだ祭りだ、おまえら、幼女助けるナイトになれるぞ!

 

 

 0281:名無しの探索者

 

 てぇてぇを侵害する奴は許しちゃおけねぇ!

 

 

 0282:名無しの探索者

 

 俺、動画ギルマスに見せて内緒だった情報教えていいか直談判してくる!

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 ———————————

 

 

 

 怒涛のように、事態が推移していく。

 

 瞬く間にクリムの救援依頼が拡散され、発端となったイベントダンジョン情報交換スレッドは更新する度に、大量に追加されている新規コメントの山がズラっと並ぶ。

 

 次々と協力表明する者が、ギルドが声を上げ、参戦していく。

 次々と公開されていくのは、これまで各ギルドが抱えていた次層に至るための手がかり。

 

 

「第三層、エリアの三分の二がもう情報公開されたですよ!」

「北の氷河、ボスらしき敵と今から交戦を始めるらしいの!」

「嵐蒼龍、シャオさんがまた一つリドルを突破して、見つけた装置を起動したそうです!」

 

 

 雛菊とリコリスが、入ってくる情報を報告してくれる。

 

 そんな彼女らは今、少しだけ幼い姿までどうにか復帰できた雛菊とリコリスのドッペルゲンガーそれぞれと手を繋いでいた。

 これは、核だけとなったドッペルゲンガー二体たっての希望により、元の姿を取るのに必要な魔力供給のため。

 意思を得た二人のドッペルゲンガーは、未だに仲間を救う事を諦めていなかったのだ。

 

 また、スザクも協力を申し出てくれた。その連れであるダアト=クリファードも、なんとなくベリアルの位置を察知できるということで同行してくれている。

 

 

 

 ――可愛いは正義、てぇてぇは奪わせない。

 

 そんな、ちょっとだけ不純な合言葉の下に、これまで皆バラバラに動いていたプレイヤーたちが瞬く間に一つの目的へと纏まって動き出し、濁流となって未踏破領域を駆逐していくその様に……クリムの胸が、興奮に震えていた。

 

「……良かったな、クリム」

「みんな、ルージュちゃんを助けたいって言ってくれてるよ」

「ああ……ああ、本当に……!」

 

 これならば、きっと届く。

 大丈夫、今助けに行く。

 

 だから――もう少しだけ、待っているんだぞ、ルージュ。

 

 そう、クリムは空を仰ぎ、今ここにいない少女へと呼びかける。

 

 

 

 ◇

 

 ――そうして、クリムが掲示板に書き込みをしてから……たったの四時間後。

 

 第三層の全てのボスが討伐され、全てのスイッチが操作されたことにより、ついに第四層へと続く道が拓かれたのだった――……

 

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