Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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勝ち取った平穏

 

 ――綺麗な満月が白く照らす、夜のセイファート城。その中庭庭園にあるガゼボ(洋風の東屋)内。

 

 

 

「そうですか……あの子が、名前を変えてそんな事を」

「すまんな、ルージュや他のドッペルゲンガー二人の無事を考えると、深追いはできなんだ」

「いえ、それは仕方ないことでしょう。皆さん無事で何よりでした」

 

 クリムから今回の顛末を聞き終えて、そう優しく労いの言葉をくれつつも、沈痛な面持ちで頭を抱えるダアト=セイファート。

 

 

 

 ――クリムたちは現在、一時的にイベントダンジョンから離脱して、ルージュたちを安全な場所……クリムたちの本拠地セイファート城へと招待していた。

 

 ダンジョン攻略の方も、今回のルージュ救出作戦で破竹の勢いで進んだ強行軍の反動か、今はまた進行が止まっている。

 どうも、どこのギルドもすっかり目減りした物資確保に奔走しているようで……攻略再開には数日の時間が掛かるだろうとの見込みだった。

 

 

「おそらく……例の『勇者様』に付き従っている少女のダアト=クリファードは、あの子の切り離した良心部分なんでしょうね」

「うむ……我もそう思う」

 

 ダアトの推測に、クリムが同意する。勇者スザクの連れていた樹精霊の少女はなかなか良い性格をしているようだったが、毒は感じられなかった。

 

「なあ、ダアト。あのダアト=クリファード……ベリアルが、今みたいに暗躍するようになった理由は何なんだ? 元々はお主と同じ、獅子赤帝を導く役割を担っていたのじゃろう?」

「それは……」

 

 質問された途端、何故か狼狽るダアト=セイファート。

 

「その……あの子は昔から、少女乙女すぎる嫌いがありまして、えぇとなんと言えばいいか……」

「はぁ……?」

 

 何やら似つかわしくない単語が出てきたことに、クリムが面食らってダアト=セイファートへ聞き返す。

 彼女はなぜか顔を赤らめて、しばらく何を言うか迷っていたが……残念ながら、この時は続きを聞きそびれることになった。

 

 

 

「あ、あの、お姉ちゃん……」

 

 蚊の鳴くような音量の、クリムを呼ぶ声。

 クリムがそれを耳聡く聞きつけ振り返ると、そこには……

 

「む……おおルージュ、ずいぶん可愛らしくなったではないか」

「そ、そうでしょうか、私、こういう服はよく分からなくて……」

 

 スカートの裾を握り締め、恥ずかしがって俯く少女……人間換算でだいたい8歳くらいの姿まで縮んだルージュの姿があった。

 

 そういえば、今まではずっと水着、もしくはやたらに扇情的なドレスじゃったからなぁ、とクリムは苦笑する。

 

 

 ちなみに……あのときのルージュのドレスと首輪に関しては、テイム時に付属してついてきた。

 

 性能も実は悪くなく、テイムモンスターの能力を向上させる効果もあって、意外にもガチ装備だった。

 

 だが……正直、あれをまた着せるのは気が咎めるというのが一点。

 着用者の行動を、テイム主が制限・強制する機能があり、それは可哀想という声が出たのが一点。

 そして何よりも、今の幼い見た目のルージュが纏っていると犯罪臭がものすごいというのが一点。

 

 以上の理由により、現在ではルアシェイアにおいて封印指定となり、厳重に保管されることとなった。

 

 

 ――それはさておき。

 

 今の彼女が身に纏っているのは、フリルやレースを増して若干可愛らしいアレンジが加えられた、ロング丈のメイド服。

 髪はクリムよりは短く肩甲骨より少し下あたりで整えられ、前髪は綺麗に切り揃えられている。頭の横では左右一房ずつ大きなリボンで括られた、いわゆる「ツーサイドアップ」という髪型にされていた。

 

 そんな女の子らしく可愛らしい格好と、引っ込み思案な性格の相乗効果によって、それだけでだいぶ元のクリムとは印象が違って見えた。

 

 また、彼女のやや後ろに佇む二人……ルージュ同様にオリジナルより少しだけ幼くなり、だいたい8歳くらいの見た目となった雛菊とリコリスのドッペルゲンガーも同様にメイド服を纏っており、こちらもまた愛らしい。

 

「ふふん、どうかな、可愛くなったでしょ?」

「うむ、さすがフレイヤだ、いい仕事じゃな!」

 

 プロデュースを担当していた、今はドヤァと胸を張るフレイヤに、クリムは親指を立てて掛け値なしの称賛を贈る。

 

 そうして……ダアト=セイファートがハーブティーを用意してくれて。

 可愛らしい部下ができたことで、良い先輩であろうと張り切っていたアドニスが焼いてくれたお菓子なども卓に並び。

 

 ならばと雛菊たちも呼んで皆でお茶会が始まってしまったため……すっかりダアトから話の続きを聴ける空気ではなくなってしまったのだった。

 

 

 ――あの戦闘の後、ドッペルゲンガーの雛菊とリコリスは、それぞれモデルとなった雛菊とリコリスにテイムされた。

 

 

 そうして同行者となったドッペルゲンガーの雛菊とリコリス、改め『ヒナ』と『リコ』は、今の人型を解くつもりが無いルージュとは違い、人型でいるのはあまり好きではないらしく……すぐに恥ずかしがって素体の影人形へと戻り、それぞれちょこんとルージュの両肩に座ってしまった。

 

「……ン゛ッ!?」

「お、お姉ちゃん!?」

 

 口元を押さえ、堪えきれなくなって蹲るクリムに、オロオロと慌て始めるルージュ。

 

 ――何これクッソ可愛いんだけど。

 

 クリムが内心でひとりごちる。

 はじめはちょっと不気味に見えていたドッペルゲンガー本体も……よく見ると、ぬいぐるみじみた短い手足をもだもだと必死に振り回して意思疎通を図る様は、見ていて非常に愛らしい。

 それが美少女なルージュの両肩で戯れているのだ、可愛くないなどという事があるだろうか、いや有り得ない。

 

 

 そんな三体のドッペルゲンガーの戯れに、皆ほっこりと生暖かい視線を向けるため……ルージュはすっかり恥ずかしがって植木の陰に隠れてしまい、皆で「怖くないよー出ておいでー」と、出てくるよう諭す羽目となってしまったりしつつ。

 

 そうして皆が和気藹々と、禁断の、月夜のティータイムを楽しむ中。

 

「……ところでお姉ちゃん、さっきから何をしているの?」

 

 先程から片手で茶を啜りながらも、もう片手ではずっと何かのウィンドウを開いて中身を検め、それらをメモに書き込んでいるクリムに対し……両手で持ったカップをふぅふぅと吹きながら、ルージュが首を傾げ質問してくる。

 

 ルージュの前のテーブルにぺたんと座るヒナとリコの二体も一緒に首を傾げるものだから、その様はひどく可愛らしかったが、クリムはどうにか平静を保ち返答する。

 

「今日、みんなに助けて貰ったじゃろ? そのお礼に配信で何をして欲しいかのリクエストをピックアップしていたのじゃが……数がすごいことに」

 

 出てくるわ出てくるわ、これまでで最多記録を更新するほど投函された匿名質問箱『ましゅまろ』内のメッセージの山に、クリムの顔は若干引き攣っていた。

 

「本当ね……まおーさまに要望を聞いてもらえるチャンスって、スレッドではお祭り騒ぎですよー?」

「ま、一応リクエスト期限は切っておいたが、ギリギリまでまだまだ増えるだろうな」

「うぅ、やはり言葉選びが間違いじゃったのう……」

 

 横でスレッドから情報を集めてくれていたカスミとフレイの言葉に、クリムはガックリと肩を落とす。が、すぐにガーッと怒鳴り声を上げた。

 

「というか、やけに我とフレイヤとの絡みの要望が多いのじゃがー!?」

 

 それ、お前らに何の得があるのと思うほど、フレイヤと二人でイチャイチャしている画を望む視聴者たち。

 中でもキスをしてみて欲しい、一緒にウェディングドレスを着て欲しい等々、やたらくっつけようとする書き込みが多いのも特徴的だった。

 

「私は全然ばっちこいだよ!」

「あ、うん……」

 

 むしろ嬉しそうに鼻息を荒くしている幼なじみに、照れてそっぽを向くクリムだったが。

 

 しかし文句を言っていても始まらない。ちょっとずつでも消化していかねば、いつまで経ってもお礼の配信を開けない。

 

「とりあえず、作業に時間のかかるASMR音声の録音から始めようかの。リコリス、リュウノスケに台本作ってもらうよう頼んでいいかのぅ?」

「はーい、パパに伝えておきますなの」

 

 リコリスの快諾に、クリムはよし、と『やるべきことリスト』にチェックを入れる。こうした草案は、プロデュース経験豊富なリュウノスケに押しつけるに限る。

 

 昔はそれ用のマイクや録音機材などで結構出費も大変だったらしいが……今はNLDで標準搭載されているため問題ない。始めようと思えばすぐに始められるのだから、良い時代になったと思う。

 

「ねぇお姉ちゃん、お礼、私にも何かできる?」

「そうじゃのう……ルージュは、とりあえずはヒナとリコと一緒に、配信の中でお礼を言おうか?」

「うん!」

 

 ぱぁっと表情を明るくし、嬉しそうに「一緒、一緒」と輪になって手を繋ぎ喜んでいるドッペルゲンガー三人に……この平和な光景が見れただけでも、助けてよかったと心底思うクリムたちなのだった――……

 

 

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