Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――ォォオオオォォォォ…………ッ!
見上げる程にあった巨体が、悍しい断末魔を上げながら海中へと没していく。
僅かに残った足場へと身を寄せ合ってその光景を固唾を飲んで見守っていたプレイヤーたちが……その何かを掴もうと伸ばした水掻きを備える手が完全に水面の下に消えたのを確認し、ほっと安堵の息を吐く。
こうして……最後の層へと続くゲートを守護していた、巨大な魚の顔をした怪物は消滅していった。
「……討伐参加者の半数は、水中に沈んだか」
「そうじゃな……我らが勝利できたのも、彼らの献身あってこそだというのを忘れてはならぬな」
周囲、すっかりと減ったこの対ボス大規模レイドバトルに参加していたプレイヤーたちを眺め、沈痛な面持ちで呟くソールレオンと、傍で頷くクリム。
――戦闘中、敵ボスの攻撃によって崩壊していった足場。
最初こそ余裕のあった足場も、最後の方ではもはや逃げ場もほとんどなく……一部勇敢な者達がクリムやソールレオンら主戦力に後を託し、敵の攻撃を誘導する囮として海中に藻屑となって消えていった。
その事を皆が思い出し……生存者一同は、各々帽子や兜を取り、目を閉じて静かに黙祷を捧げる。
――いわゆる、「ムチャシヤガッテ……」というやつである。
あと、戦闘不能で退場したプレイヤーたちも戦利品は手に入るので問題は無いのだ。
「しかしまあ……上層では争い合うような構造をしているくせに、下層に行くほどプレイヤー同士の結束が必須になってくるとは」
「むう……なかなか、性格が悪いダンジョンだねー」
「まあ、モチーフを考えると仕方ないかもしれないけどな」
皆がこぞって先の層へと続く螺旋階段を降りていく中、最後尾をゆっくり歩く、
難しい顔をして階段を下るクリムの言葉に、両サイドにいるフレイとフレイヤが、うんうんと頷く。
「でも……あれだけの人数が統率されて動く光景は、なかなか凄かったの」
「あー、あれなー。本当、戦闘ギルドのギルマスとして、我は奴には遠く及ばんよなー」
「いや……あれと同じことができる日本人って何人居るだろうな」
リコリスの疑問に、難しい顔をする、クリムとフレイ。
彼女が話しているのは……先の戦闘で総指揮を執っていたソールレオンのことだ。
この『Destiny Unchain Online』では、五人一組がフルパーティ。通常のパーティは、これが基本単位となる。
それを三つ、計十五人のメンバー集めて行うのが、
それを二組、合計三十人によるフル
そして……今回は、そのフルアライアンスを三組合わせた、合計九十人によるいわば
当然ながら……その統率には綿密な部隊編成が必要となり、指揮する者には非常に高度な指揮能力を求められ、攻略は困難を極める。
また……一人でも欠けると総崩れになりかねない
はっきり言って、『日本人には完璧に指揮をとるのは不可能』と言われたのが、このレギオンレイドだ。シャオですら、まともにこなせる自信は無いと言い切った。
だが、ソールレオンはその指揮をやり切った。冷徹に戦況を見定め、果断に非情に、まるで機械のように指揮をこなして。
――あやつ、本気で何者じゃ?
実際に、戦場で指揮を執った経験があると言われても、今ならば驚くよりも納得するだろう。それくらいに、ソールレオンの指揮能力とカリスマは高い。
「むー……お師匠様、そこで弱気になったらダメです!」
「おっと……すまんすまん」
先頭を歩く雛菊に怒られて、少し、自分には不可能なことができるソールレオンの姿に卑屈になっていたことを反省し、咳払いを一つして気分を変える。
「そういえば雛菊は、約束通り明後日に遊びに来るんじゃったかの?」
「はいです、母様との約束の宿題も、おかげで問題なく終わって合格点を貰えたです」
「うんうん、偉いぞ。同級生でもこんな早く終わった子は居ないんじゃないか?」
「えへへー」
家庭教師役をしていたフレイに頭を撫でられて、嬉しそうに笑う雛菊。かわいい。
ちなみにクリムは、「勉強を教えるのが下手」と雛菊とフレイに揃って一蹴され、少し拗ねたりしたのは秘密だ。
「ま、一週間後の花火大会のある盆前には、ダンジョン攻略もだいたい終わるじゃろ……さて、着いたみたいじゃな」
長い長い螺旋階段がついに終わり、先行したプレイヤーが開けた狭い門を潜る。
そこには……
「うわぁ……」
「図書館、です?」
広い空間の左右に並ぶ、見上げるほど高い本棚。
天井の見えない空間には、あちこち蔵書の満載された同じく本棚が浮遊し漂っているが……そこは確かに、図書館としか言いようがない空間が広がっていた。
――第五層、ルルイエ魔導大図書館。
無数の悍しい邪法を示した蔵書や写本、危険極まりない異本や魔本飛び交う……イベントダンジョン最終層が今、不躾な侵入者を歓迎せんと、その門戸を開いたのだった――……