Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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決意

 

すっかり夜も更けた頃……クリムは、コンコンと控えめなノック音と、ガチャリと小さくドアの開く音によって目覚めた。

 

「おーい、大丈夫か……?」

「まだ少しキモチワルイデス……」

 

 どうやらクリムの様子を見にきたらしいルドガーに、ベッドにぐったりと横たわりながら返事を返す。

 

 色々なフラッシュバックに苦しみながらも、どうにか血を飲み下したのだが……あの後、夜になっても未だに口の中が鉄錆臭い気がしてだめだった。

 

「先程は色々と、お見苦しいところをお見せしました……」

 

 彼には、泣き、喚き、意味も無くごめんなさいと呟きながら乱れに乱れたところを見せてしまった。

 それが、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、今も感情がぐちゃぐちゃだ。

 

 ――ルドガーさんが、機転を利かせてジョージを部屋から追い出してくれて良かった。

 

 年下の少年にまであの醜態を見せずに済んだことだけは救いだった。

 

 そんなクリムの頭に……わしっと、大きな手が乗せられた。

 

「……それでも、お前は助けてくれたんだろ。ありがとうな?」

「…………うん」

 

 幾分か優しげなルドガーの声に、じわりと涙の滲みそうになった目元を拭って、ベッドから起き上がる。

 

「でもまぁ、元に戻れて良かったじゃないか」

「ええ、本当に……」

 

 苦手を我慢して頑張った甲斐があり、今のクリムは14歳相当の元の姿を取り戻していた。

 

 HPやMPの下に表示されている血の保存量を示すゲージも、半分くらいまで回復しているためしばらくは大丈夫だろう。

 

「それで、ジュナちゃんのほうは……」

 

 のろのろと体を起こしながら、気になっていたことを尋ねる。必要な材料は揃ったとはいえ、間に合ったかどうかは別問題だ。

 

「ああ、安心しろ、順調に快方に向かっている。嬢ちゃんには俺だけじゃなく、息子と娘まで助けてもらって感謝の言葉しかない……本当に、ありがとう」

「そうですか……良かった」

 

 ルドガーの言葉に心底安堵の息を吐き……ゲームのNPCにここまで入れ込んでいた自分に気付き、苦笑する。

 

「……ってわけて、その礼というわけじゃないんだが……こいつを、貰ってくれないか?」

 

 そう言って渡された、やけに立派な箱。

 なんだろうと開けてみると……そこには、丁寧に折り畳まれた鮮やかな赤いマントが収まっていた。

 

 

 ◇

 

【幼き獅子赤帝の外套】

 帝国初代皇帝が幼少期に纏っていたとされる、真紅に染め上げられた外套。

 

 属性:ユニーク 売買不可

 STR+3 火耐性+10

 

 ◇

 

 

 

 獅子赤帝(ししせきてい)……確か、人と魔族の大戦時に大陸の南半分を人の手に取り戻した、帝国の初代皇帝の異名だ。

 

 ……防具としての性能も、かなり良い。先日買ったばかりの『ウェザードクローク』よりずっと防御力がある。

 

 それに、ユニーク属性……この世界でただ一着だけの、専用の外套。売買は不可だが……どうやら、PvPの賭け(ベット)には乗せられるようなので、気をつけなければならないだろう。

 

 一連のクエスト報酬なのだろうが、破格の報酬だった。

 

 何より……クリムの弱点であり、装備品以外では補うことができない炎属性に対し、耐性があるのもありがたい。

 

「ありがたく、使わせてもらいます」

「ああ、こちらこそ、本当にありがとうな。それじゃ用事は済んだから、今日はゆっくり休んでくれ」

 

 そう言って部屋から出て行こうとしたルドガーだが……出て行く直前、ああ忘れてたと振り返る。

 

「それと、湖畔にある廃屋が気になってたろ、嬢ちゃん」

「え、あ、はい」

「あれ、直して好きに使っていいってよ」

「本当ですか!?」

「ああ。ってわけで伝えることは伝えたからな。俺はジュナの容態を見てるから、何かあったら来てくれ」

 

 そう言って、今度こそ立ち去るルドガー。

 

『クエストを更新しました』

『ハウジング機能が解放されました』

 

 一人部屋に残されたクリムの脳内に流れる、システムメッセージ。

 そこには、家を修復するのに必要な材料がずらっと並んでいた。

 だがその大半は材木であり……しばらく『黒の森(シュヴァルツヴァルト)』に籠もって木こり生活になりそうだなと、苦笑するクリムなのだった。

 

 

 

 

 

 その翌日。

 

 クリムは一人湖畔の廃屋に足を運び、その周囲の荒地の片付けをしていた。

 

「よい……しょっと、これで大体の瓦礫の撤去は終わったかな」

 

 すっかり瓦礫や岩の姿が消え、さっぱりとした風景に満足げに頷く。

 半日ずっと重い瓦礫を運んでいたものだから、筋力の熟練度が十と少し上がってしまっていた。

 

 汗を拭い、夕陽に染まり始めた湖と、その中央に佇む城を眺めながら一息をつく。

 

 

 

 ……あの後、今朝方にジュナは目を覚まし、今はすっかり元気になっていた。

 

 今は仕事中のルドガーに代わって、ジョージが兄として面倒を見ていてあげているはずだ。

 

「数日暮らして、色々とあって……すっかり入れ込みすぎちゃったな、俺は」

 

 ふふっと苦笑する。

 だがそれは、すぐに真剣な表情に切り替わった。

 

 先程、運営側から連絡があった。それは……エリア領有権を決める、エリアマスター登録システム解放の日時。

 

 

 

 ――あの家族を、他のプレイヤーの采配に任せたくない。

 

 

 そんな欲求が、クリムの胸に芽生えていた。

 

 全てのプレイヤーが、自領のNPCに優しいとは限らない。

 もしかしたら、この町を自らの領土とするプレイヤーは、ロクでもない奴かもしれない、そういう可能性だってあるのだ。

 

 ならば、やるべきことは決まっていた。

 

 決意と共に、インベントリに収納していた『幼き獅子赤帝の外套』を……ケープとマントが一体となったような、意外にも女性用っぽい外観のその真紅の外套を身に纏い、夕陽に染まる町を眺める。

 

「そうだな……俺がギルドマスターになって、ここから自分の領土を広げていく」

 

 ゲーム開始一月後から始まるであろう、プレイヤーによる領土争奪戦。

 

 再び戦火が広がるであろうこの世界にて、彼らが安心して暮らせる平穏なこの町を守る。他ならぬ、自分の手で。

 

 

 

 そう、クリムは決意するのだった――……

 

 

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