Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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満月家へようこそ

 

 第五層、ルルイエ魔導大図書館は今までと違い厳かな雰囲気があり……プレイヤー内でもトップクラスの攻略チームが徘徊するここでPKしようと言う輩も居ないため、探索自体は着実に進められていた。

 

 とはいえ、書架から不意に飛び出してくる魔本のエネミーは事前の感知が難しく、複数体がリンクしてしまうと強力な魔法を周囲から浴びせられて壊滅しかねない。

 そんな、さらに強敵が配置された第五層の探索は非常にゆっくりと慎重に行われており、遅々として進んでいないというのが現状だった。

 

 …… そうして、最終層が解放されて、二日が経過した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――現実世界の昼下がり、S市最大規模の駅。

 

 

「あ、来た来た! おーい、こっちだよー!」

 

 キョロキョロと改札の中を眺め、誰かを探していた聖が、母親である桔梗と共に改札を抜けてきた雛菊と、龍之介の手を繋いで歩いてくる深雪を見つけ、ぶんぶんと手を振って呼ぶ。どうやら向こうは、列車で合流したらしい。

 だが雛菊たちの方はそれよりも早く紅たちの方を……主に真っ白な頭のため目立つ紅を……見つけ、大きなリュックサックやスポーツバッグを揺らしながら駆け出して来ていた。

 

 ――今日は、雛菊と深雪を交え、満月家でお泊まり会の日。

 

 今日は仕事が休みだと言う宙が車を出してくれて、紅たちは待ち合わせ場所であるS市の駅二階改札へと来ていたのだった。天理も同じく今日は休みなのだが、家で今夜の夕食の支度をしてくれている。

 

「ではぁ……皆さん、五日間と長い期間ですが、雛菊のことをお願いします。花火大会の当日には私も参りますので」

「はい、桔梗さん。確かに娘さんはお預かりしました」

 

 深々と頭を下げる桔梗と挨拶をしているのは、親同士同じように、深く頭を下げている宙だ。

 

「深雪も、くれぐれも迷惑は掛けないようにな」

「うん、送ってくれてありがとう、パパ」

 

 こちらも、自分も駅前の家電量販店に用があると深雪に付き添って来た龍之介が、名残惜しそうに立ち去っていく。

 そんな父親の姿を苦笑しながら見送った深雪だったが、その背中が見えなくなって、ようやく紅たちへと振り返る。

 

「お待たせしました」

「今日から数日、お世話になりますです」

 

 二人揃って行儀のいいお辞儀をする雛菊と深雪に、迎えに来た紅たち一同は、皆揃って歓迎するのだった。

 

 

 

「ほへー……」

「立派なお家なの……」

「え、そ、そうかな……」

 

 満月家の中に入ってすぐの玄関ホール。

 そこでは……初めて来訪した雛菊と深雪が、ボーっと立ち尽くしていた。

 

「確かに山の中にある私のお家の方が広いですけど、こんな高機能じゃないです……」

 

 玄関で、家の中をコントロールするサポートAI『ルームマスター』に興味津々な様子で色々話し掛けている雛菊が、目をキラキラ輝かせて周囲を眺め呟く。その真っ直ぐな褒め言葉に、紅は照れて頬を掻いた。

 

「はは、天理さんが新しいもの好きだからねぇ。紅は生まれた時からずっとこんな環境が当たり前だから実感薄いだろうけど」

「そうは言っても、他って聖たちの家しか知らないし……」

 

 宙の言葉に、紅が頬を膨らませ反論する。古谷家も、広さや構造は満月家と似たり寄ったりなのだ。

 

「あのね、お風呂も実際二人くらいなら余裕で足伸ばせるくらい広いんだー。たぶん交代で洗いながら入ったら四人一緒でも入れるから、後で一緒に背中の流しっこしようねー?」

「うっ……」

 

 にこやかにそんな提案をする聖だったが、中身は問題発言だ。

 

 ――あんたらいつも一緒に入ってんのかい。

 

 そんな周囲のバカップルを見るような視線に、紅は目を逸らしながら呻く。弁明するならば一人で髪や体を洗うようになった今はいつもではないし、一緒に入るようになったのも今の体になってからなのだが。

 

 

 

「寝床は、ここの部屋を使って貰おうかな」

 

 そう言って宙が案内したのは、いつもは部屋の中心に鎮座している堀り炬燵を畳の下に収納し、広々とした空間になった畳の和室。

 

「今日は聖と昴も泊まってくんだよね?」

「うん。昴は頑なに客間の方に行くってゴネてるけど」

「そりゃそうだろ……僕だってもう高校生なんだから」

 

 拗ねた様子の聖の言葉に、呆れ声で答える昴。その様子に、紅が苦笑する。

 

 そんなわけで、押入れに収納されていた来客用の布団三つと……あとせっかくの機会なのでと紅自身は部屋から持ってきた自分の布団を並べ、夜寝るための準備を整える。

 

「なんだか修学旅行みたいですね」

「あ、私も思いましたです!」

 

 洗濯したばかりのシーツを、雛菊は手慣れた様子で、深雪はそれを見ながら真似をしながら、そんなことを楽しそうに話している。

 

 そうして荷解きも済み、皆の今夜の寝床の支度も終わり、しばらくリビングで休憩したり対戦ゲームに興じたりした後……ちょっと早いが本日の夕飯の支度ができたと、庭でバーベキューの準備をしていた天理と宙から声が掛かった。

 

 

 満月家の庭の片隅には、あまり使用されてこなかったバーベキューハウスがある。

 と言っても、宙が日曜大工で作った東屋に据え付けの椅子とテーブルがある簡素なものだが。

 

 その中心に鎮座する、未使用のU字溝を仕込んだテーブルには赤々と焼けた炭が入れられ、焼き網や鉄板がセットされていた。

 そしてそんな中で、皆が各々焼きたい食材を並べていく。

 

 

「ほら、雛菊ちゃんも遠慮せずにいっぱい食べてねー」

「は、はい、ありがとうございますです、聖お姉さん」

「なあ聖、ちょっと親戚のおばちゃんっぽくなってるぞ……」

 

 何かと周囲の世話を焼きたがる聖に押され、黙々と肉や野菜の焼けたところを給仕される雛菊。

 そんな姉の姿を見つけ頭を抱える昴は、今は自分の手元で、タレに漬け込んだ牛ハラミの厚切り肉を火の弱めな場所でじっくり育てている最中だ。

 

「でも紅さんは良かったんですか? お肉、ダメでしたよね?」

 

 口のサイズに合わせて小さめにカットしてもらったS市の名物である牛タンを、なかなか噛みきれずモゴモゴと口の中で格闘していた深雪が、ふと紅に気遣わしげな声を掛ける。

 

「あはは、大丈夫、気にしないで。これはそもそも、私が頼んだんだから」

「そう、なんですか?」

 

 心配そうに紅を見上げ首を傾げる深雪に、ふっと笑いながらその頭を撫でる。

 

「うん。ちょっとずつでも、克服していかないとだからね」

 

 そう言って、まるで今から切腹でもするかのように悲壮な表情で皿から摘んだのは……先程焼き網から取ってきた鶏肉。

 

 それを……紅は一息に口に放り込むと、咀嚼し、飲み込んだ。

 

「……こ、この通り……ングっ、……タレとゴマで漬け込んでしっかり焼いたら、ちょっとは我慢できるようだし……ちゃんと食べられるように焼きそばも焼いてるし」

「う、うん……あまり無理しすぎはダメなのよ?」

「あはは……うん、分かってるよ……」

 

 顔を真っ青にして引きつらせながら、大丈夫、大丈夫と安心させようとする紅に、いまひとつ釈然としないながらも納得してくれたらしい深雪。

 

 とはいえ、紅がずっとこんな感じで食事していても周囲が楽しめないだろう。

 ゆえに紅は、「今日のノルマ終了」と満足した様子で、今度は焼き野菜や焼きそば中心に好きなものを食べ始めたのだった。

 

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