Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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大攻勢

 

 ――開戦から、すでに四時間。時間は昼を跨いで午後の十三時頃。

 

 

 

 邪神の眷属である触手も見える範囲内からはすっかり減って、あと少し……そんな希望が見えた瞬間だった。

 

『げぇまぁのみなさん、気をつけてください……邪神クトゥルフの眷属が最後の大攻勢を掛けてきます!』

 

 そんなルゥルゥの発した警告。直後、街を震わす振動と共に、眼前を埋め尽くすほどの無数の触手が地面から這い出てきた。

 

 それは、開いたマップのレーダーを真っ赤に染めるほどの、触手、触手、見渡す限り一面の触手の森だ。

 

「おい……うそだろ……」

「そんな、せっかく減らしたのに……」

 

 周囲のプレイヤーからちらほらと上がる、悲壮な声。

 

 赤という色がマップを埋め尽くす、視覚的な暴力。

 希望が見えた直後、その希望を取り上げられた衝撃。

 

 そうしたものが、負の感情となってプレイヤーたちの周りに渦巻き始めた……そんな時だった。

 

 

「何を落ち込む事がある! あの触手を狩れば本体にもダメージがいくのだぞ、そんなもの、ただのボーナスゲームではないか!」

 

 そう叫び、視界を埋め尽くす触手の群れに対し立ち塞がったのは、銀の鎧姿のいかにも騎士然とした青年……クリムが、見知った姿。

 

「お主……エルミルか!?」

「ああ、僭越ながら我らルアシェイアが盟友『銀の翼』、ここに馳せ参じた!」

 

 思わず叫んだクリムの方に、彼はニッと笑顔を向けながら……彼ら『銀の翼』一同、すらっと抜剣する。

 

「我々のやることは変わらない! 斬って斬って斬りまくる、それしかないだろう……健気な女の子を救うために、それしかないのだぞ!?」

 

 そう叫び、エルミルは見栄を切ってポーズを取り……

 

「俺はやるぞぉおおお! 封印の御子様ぁああ好きだぁあああっ!!」

 

 どさくさに愛を叫びながら、敵に突っ込んでいくエルミルと、そんな彼を「しかたないなぁ」と苦笑しながら後を追う、彼のギルド『銀の翼』の仲間たち。

 

「はは、全くあのバカめ、今度はルゥルゥに懸想しておったか、見境ない奴じゃなぁ」

 

 苦笑し、呆れながら呟いたクリム。

 

 だが……バカというのは時として、停滞した状況を打開することもある。

 

「あ……あのやろ、抜け駆けしやがった!?」

「僕も! 一目惚れでした!」

「俺だって!」

 

 次々とルゥルゥに告白しながら、次々と触手の群れへ果敢に飛び込んでいく男たち、あと小数ながら女性も。

 

 ……それはもしかしたら、空元気かもしれない。だが構わない。それでも元気は元気だ。

 

 

 

 

 そして……元気を皆に与えるには、うってつけの人物が存在していた。

 

 つまり……アイドル。

 

『あらあらー、酷いことになってるねー!? でも気にせずみんなこんにちわー! ヴァーチャルアイドル、霧須サクラです!!』

 

 眼前の高台に、場違いな集団がいつのまにか存在していた。

 その中心にマイクを携え佇むのは、淡い桜色の髪を翻し、振袖をベースに洋服のドレスの意匠も取り込んだ和洋折衷のドレスに身を包んだ、清楚可憐な狐耳の少女……以前一度だけ公式配信で一緒に出演した『Destiny Unchain Online』公式提携ヴァーチャルキャスター、霧須サクラだった。

 

『えっと、まずは……『サウンドブースター』、召喚です……!』

 

 そう告げた少女の周囲に、その身の丈以上のスピーカーが4つ、現れる。たしか歌唱と機術の複合魔法だったはずだが……そんな巨大スピーカー『サウンドブースター』に、彼女は声を乗せて戦場へと拡散していく。

 

『さて、頑張っているみんなには偉い偉いしてあげますが、この環境にはめっ、ですよ! ルルイエだかなんだか知らないけど、ずっとこんな辛気臭いBGMで戦ってたら気が滅入って、気分も下向きになるってものですよね! ね、みんな!?』

 

 そう叫び、プレイヤー側にマイクを向ける彼女。

 そのマイクに向けて、「そうだそうだ!」「え、お歌? お歌くれるの!?」と期待に満ちた、ファンらしき者たちの声が上がる。

 

『おっけー、それじゃこんなこともあろうかと、こっそり準備してた新曲大放出しちゃうよ! ……え、マネージャーが慌ててる? ごめんなさい、でも女の子には退けない時もあるから、目瞑ってて!』

 

 そう悪戯っぽく舌を出しながら、強硬姿勢でギターをかき鳴らし始める霧須サクラに、周囲からおいおいというツッコミの声と、笑いが巻き起こる。

 そして、やれやれと苦笑しながらも、彼女に付き合って演奏を始めたバンドメンバーたち。

 

 戦場を、サウンドブースターに増幅された三味線や琴などの和楽器混じりな、激しくもどこか和風なロックミュージックが響き渡る。

 

 

「あやつ、やっぱりプロなんじゃなあ……てか、あれ生歌の出して良いクオリティじゃないじゃろ……」

 

 お歌ガチ勢として名高い少女の、『カタギの人間の歌声ではない』とよく評される、繊細な感情を表現しながらも力強く伸びやかな歌声が、陰気な廃墟を虹色へ染め上げていく。

 

 思わぬところがライブの特等席となったことで、すっかり熱狂しているファンたちの勢いは……まるで、触手たちも怯えたかのように動きを鈍らせるほどだった。

 

 

 

 

 そして……戦場のそこかしこに、また新たな動きがある。

 

 

「よし、まだ終わってないな!」

「退勤なう。今公園のベンチからログインして駆けつけたぜ!」

「拙者は職場近くのネカフェから参上仕った!」

「って、なんでござるか? 何故霧須ちゃんがお歌を!?」

「なんだって良い、クソ上司の顔を思い浮かべながら思う存分サンドバッグを殴るチャンスだ!」

 

 

 十三時を回った頃から、続々と現れる新たなプレイヤーたちが増え始めたのだ。

 

「ああ……そっか今日は土曜日だから……!?」

「まだまだ、今から僕たちの側の戦力は増えるぞ!」

 

 今起きている事について、リコリスのはっとした声に、フレイが歓声を上げる。

 

 もちろん、そんな多少プレイヤー側が増えたところで、エネミー側の方が増加した数はずっと多い。しかし……

 

 

「夏休みよこせクソ会社ぁ!!」

「有給使わせろーッ!!」

 

 

 何やら私怨混じり、目に怨念が篭った社()人兼業廃人プレイヤーたちが、まるで狂戦士のように触手たちに斬りかかる。

 仕事の鬱憤を晴らすのにちょうど良い舞台に嬉々として飛び込んできた彼らには、まだまだ全然余力があり……理由はともかく……気力も十二分な彼らの殲滅力は凄まじく、飲み込まれる寸前だった戦線はジリジリと押し返しつつあった。

 

「なんつーか、我ら、締まらんのぅ」

「ま、このゲームのプレイヤーらしいのです」

 

 あきれたように雛菊と一緒に肩を竦めながら……クリムたちもまた、皆の先陣は譲らないとばかりに敵の群れへと突撃開始するのだった――……

 

 

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