Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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邪神狩り①

 ちょっとした運動グラウンド並の広さがある、この場に集った数百人単位のプレイヤーであっても戦闘できそうな水没都市ルルイエ中央広場。

 

 クリムたち触手処理に当たっていたプレイヤーたちは、その広場外縁の建物陰に身を潜め、主力部隊が邪神をこの広場に引っ張ってくるのを今か今かと待ち構えていた。

 

 

「おい……」

「ああ……来たぞ」

 

 周囲のプレイヤーのざわめき。

 建物の向こうから、こちらに向かう邪神クトゥルフの頭が見えた。

 

「うぇえ……うじゅうじゅしてるです」

「ち、ちょっと苦手な見た目なの」

 

 そんな言葉とともに、蒼ざめた表情でその姿を眺めているのは、クリムのすぐ後ろから覗きこんでいる雛菊とリコリス。それでも見ようとしているのは……まぁ、怖い物見たさなのだろう。

 

「ほれ勇者、邪神とかお主の管轄じゃろうが」

「あほ吐かせ無茶言うな魔王様よ、コズミックホラーの邪神なんぞ人間の勇者には専門外だ専門外」

「あはは、もうどちらかというと、光の巨人さんの管轄だよねぇ」

 

 クリムの無茶振りにとても嫌そうな顔をするスザク。そんな様子にフレイヤが苦笑しながら、迫り来る存在を眺めていた。

 

 

 エイリアンじみた、異形の頭部。

 よく見ると体表も触手がのたうちまわっているらしく、目にしただけで生理的嫌悪を催させる、異形の王。

 

 だが……ここまでに嫌になるほど眷属の触手を始末してきたため、その体力は大幅に削れており、邪神クトゥルフの残ライフ……残り三割。

 

「では……皆の者、覚悟は良いな、ここから先は、短期決戦になるぞ?」

 

 周囲に潜むプレイヤーたちを睥睨しながら尋ねるクリムに、皆ははっきりと頷く。

 

「うむ、良かろう、今から邪神が広場へと入ってくる。攻撃は、ありったけの爆薬を設置した広場中央の噴水まで誘導した後とする……起爆前に飛び出すなよ、タコと一緒に丸焼きになるのは嫌じゃろ?」

 

 クリムの冗談めかした言葉に、周囲から「いや、それは嫌っすねぇ」という誰かの軽口と、ささやかな笑いが起こる。

 

 そんなクリムの横で、起爆係であるフレイが詠唱を始めた。

 眼前ではちょうど、マラソン担当だったと思しきやや軽装の剣士が、広場を駆け抜けて建物の影に飛び込む。

 

 それを追いかけて……身の丈30メートルはあろうかというおぞましい巨体が、地響きを上げて広場に踏み込んできた。

 

 邪神クトゥルフ……あいも変わらずその場にいるだけで能力低下等のデバフがプレイヤー側に付与されていくが、その威力はほとんどの眷属を狩り尽くされていることもあり、すっかり弱くなっていた。

 

 ――大丈夫、これならば戦える。

 

 戦闘に支障ないことを確認し、クリムはもう一度、周囲のプレイヤーへ頷く。

 

「よし……では、総員武器を構え、体勢を低くして爆風に備えよ。攻撃魔法がある者は、詠唱待機状態のまま罠の起爆を待て」

 

 

 ……あと、三歩。

 

 ……あと、二歩。

 

 

 ジリジリと引き伸ばされた中……ついにクトゥルフのその巨大な足が、広場中心の噴水へと掛かった。

 

「――フレイ!」

「ああ、『イラプション』!!」

 

 クリムの掛け声に、打てば響くタイミングで即座に放たれたフレイの火炎魔法が噴水を基点に炸裂し……そこにあったトラップが全て一斉に起爆した。

 

 ――閃光、轟音。

 

 広場外縁の家屋は崩落するほどの爆発。ありったけの火薬による閃光によって、敵の姿が全く見えない中……

 

「姿が見えずとも構わぬ、見えなかろうが向こうはあの巨体だ、撃てば当たる! 遠隔攻撃持ちはありったけの火力を叩き込めぇ……ッ!!」

 

 クリムの号令に、待ってましたとばかりに総勢数百人による大魔法と矢弾による一斉射が炸裂する。

 もはや広場の建物が次々と連鎖して崩壊するほどの火力が集中し、聞き取れない言語による邪神の悲鳴らしきものが響き渡る。

 

 全ての攻撃物資を注ぎ込んだ猛攻により、邪神の残り体力が、全体の二割ほどにまで目に見えて減少した。

 あわよくばこのまま……そんな期待にプレイヤーたちが勢い付いた――その時、全身の触手を振り回し、怒りに燃える様子で邪神クトゥルフが焔の中から姿を現した。

 

「総員、防……」

 

 ……御体勢を、と言おうとしたクリムの声が、途中で途絶えた。

 

 クトゥルフの顔の六つの眼、そして全身を覆う触手の隙間から現れた眼が、怪しく輝く蒼い光を放ったのだ。

 

 それを浴びたクリム達含む周囲のプレイヤー……のみならず、その範囲は広がっていく。

 そして、今まさに随伴した生産職の手により損耗した装備品の補修を終えて、攻撃に移らんと屋根を踏み越え飛び出して来たソールレオンたちの主力部隊までも――全てが、一斉にがくりと力を失い膝を着く。

 

 

 ――全方位広範囲、耐性貫通の催眠波。

 

 

 怪しく輝きを放つ眼を全身に浮かべた邪神クトゥルフの、その光を浴びた生物全ては眠りへと落とされる。

 だがそれだけではない。自らの意思で身動きできないはずのプレイヤーがゆらりと起き上がり、その武器を構え始める……味方である、他のプレイヤーに向けて。

 

 この場全てのプレイヤーが操られ、もはや残された道は全滅のみ――そう思われた瞬間だった。

 

 カランカラン、と意識のないプレイヤーたちの中に投げ込まれた、デフォルメされた鶏の生首みたいな物体が転がってきたのは。そして――

 

 

 ――コケコッコー!!

 

 

 生首が閃光を発したと同時に、文字に起こせば気が抜けるが、実際に耳にする者にとってはそれどころではなく大音響があちこちから多重に響き渡り、眠りに落ちかけていたプレイヤーたちが慌てて耳を塞ぎながら覚醒した。

 

 ……一見ふざけた見た目をしたこのアイテム、名を『バードソングボム』という。

 

 やたらけたたましい音で味方に微細なダメージを与えて睡眠状態から叩き起こす、制作アイテムだ。こんなこともあろうかと、ジェードをはじめとした数人の生産職に頼み、用意してもらっていた。

 

「か……感謝する、錬金術師どの!」

 

 どうやら目覚めたはいいが未だ耳がキーンとなっているらしいソールレオンが、サムズアップして退去していく生産職の錬金術師たちに礼を告げる。

 

 

 ――では、なぜ彼女たちは眠らなかったのか……その秘密は、彼女たちの具合悪そうな蒼白の顔色に理由があった。

 

 つまり……

 

「毒薬用意! 以後、状態異常回復魔法の使用を禁ずる!!」

 

 ……あらかじめ服用していた毒のスリップダメージにより、睡眠状態から即座に目覚めたのだ。

 

 ソールレオンのそんな物騒な指示に、プレイヤーたちが皆、鞄から紫色の液体が入った小指ほどしかない大きさの小瓶を取り出す。

 中身は……ジェードたちが使っていた服毒薬。それも、ダメージは少ないが効果時間は長いタイプの物だ。

 

 

 この島の至る所に生えていた毒草を使い、作られたこの毒。大半は打ち捨てられていた毒草だが、あまりに多かったため「もしかして何かに必要になるのでは?」と、ルアシェイアのジェード含む先見の明ある錬金術師たちが、密かに精製して大量に作り溜めしていたものだ。

 

 必要無いゴミならば、それでよし。

 必要な時があるならば、備えておかねばならぬ。

 

 そんな、ほとんど経験からくるゲーマーの直感(メタ読み)が、邪神の切り札を打ち破った瞬間だった。

 

「第二波、来るぞ!」

 

 クトゥルフの瞳が再び怪しく輝き、その余波だけでも意識を失いそうになる。だがそれをグッと堪え、小瓶の口を折り、キンッという硬質の音を何百と一斉に響かせて毒薬を開封する。

 

「総員……服毒!!」

 

 クトゥルフのその第二波が放たれるよりも早く、ソールレオンの号令により小瓶の中身を皆が一斉に呷る。

 途端に全身を倦怠感が襲い、体内から微かなチクチク刺す痛みを感じるが、耐えられないほどではない。

 

 直後、再び邪神クトゥルフから放たれた催眠波が全軍を襲う。皆一瞬だけグラッと意識を失いかけるが……直後、毒によりHPがわずかに減少したことで強制的に意識が覚醒し、その場に踏みとどまる。

 

 ――耐えられる!

 

 やはり毒草も、不用なゴミなどではなかった。全て、このためにあったのだと皆が確信した。

 その後も、まるで焦りを示すかのように邪神クトゥルフから断続的に催眠波が放たれるが、プレイヤーたちはその命を代償に即座に目覚めるため、意味をなさない。

 

 

「この瞬間に全てを賭ける……全軍、突撃――ッ!!!」

 

 

 そうしてソールレオンが大声で放った号令の元、邪神を討たんと最後の攻防が今ここに開幕したのだった――……

 

 

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