Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――私は今、目の前で、諦めていた未来への扉が開き掛けているのを感じていた。
封印の御子となった時から、この身は自分のものではなくなった。
いつか力尽きるその時まで、眠り続けるだけの人生となる、人柱となって死んでいるのと何も変わらない一生を過ごすのを覚悟したはずだった。
だけど……あの人たちは、『げぇまぁ』さん達は、そんな私に生きてもいいと言ってくれた。今も、必死に邪神と闘っている。
……もう、未来なんて遠い言葉にしか思えなくなっていたはずなのに。
今の私は、この邪神再封印が終わったら、そのあとは何をすればいいのかとふと気づくと考えていて、愕然とする。
どこかで好きな人を見つけ、恋をして愛を育み、ひっそりと幸せな一生を歩むのも悪くは無い。
あるいは、さまざまな景色を識るために、今の時代の世界を旅して回るのも悪くないかもなぁ……などとワクワクしている事に、誰よりも驚いているのでした。
……そして、そんなワクワクを感じるようになって、一つ思う事がありました。
それは……独りいつ目覚めるかも分からぬ眠りに就くのが恐ろしいと思っているのは、
だから、私がやるべき事は――……
◇
「EXドライヴ! 『ゼラフ・フリューゲル』!!」
プレイヤーの最後尾で、リコリスが必殺技の稼働準備に入る。
「サラ、お主は発射までリコリスを守ってやってくれ!」
「了解しました。リコリス、あなたは私が守るわね」
「はいなの、お願いママ!」
背中に幾何学模様の光翼を展開し、片膝をついて姿勢を低くして発射態勢に入ったために、もはや身動きの取れなくなったリコリスに、いつでもカバーできるようにサラがそばに控える。
そんな母子の姿にふっと口元を緩めながら、クリムは先……邪神を見据える。
眼前では、まだ前衛が接敵していないうちにありったけ叩き込まねばと、後衛、特に魔法職が己が力を練り上げていた。
「フレイ、それと後衛の皆は巻き込み誤射の心配が無い、前衛が接敵するまでの間に、ありったけの火力を集中!」
「ああ任せてもらおうか! 出し惜しみは無しだ、ありったけ持っていけ! EXドライヴ『ガトリングキャスト』!』
手を掲げたフレイの周囲に、幻影の魔導書が六冊浮かび上がり円陣を組む。
クリムが事前に聞いていたフレイのEXドライヴ『ガトリングキャスト』……その効果は、MP消費を1.5倍に増加させることを代償に、書に装填した魔法をMPが尽きるまで連射するという、非常に攻撃的、かつ刹那的な必殺技だった。
「装填、『サイクロンドライブ』! ぉおおおッ!!」
「「はっ、魔王の末席として、負けていられませんね!」」
フレイの『ガトリングキャスト』と、それに触発されたシャオの『ミラー・イデア』による超連射に加え、周囲のプレイヤーからも大量に放たれる風属性高位魔法。
密度が高すぎてスパークが発生する中……その時、この『Destiny Unchain Online』において初めて観測される事態が発生した。
「な、なんじゃあ!?」
「過剰に集中した魔力が……飽和して爆発したのか!?」
10や20では済まない上位魔法の一点に凝縮された結果、眩い火球のようなものが邪神を巻きこんでその身を灼く。
そうして弱点属性である風魔法『サイクロンドライブ』の過密攻撃に、さらには偶然発生した、名付けるならば『マナバースト』とでも言うべきプラズマ火球の直撃に、圧力に押されてさしもの邪神クトゥルフもたまらず膝をつき、その頭の位置が低い場所へと来る。
その時には後衛職のMPも底をつき、前衛が一斉にクトゥルフを打たんと殺到し始めている。
「クリム、それと狐の少女と、あとは腕に覚えのある者は私に続け!」
「な、なんじゃ!?」
「は、はいです!?」
突然、先頭を駆け出したソールレオンから名指しされたクリムと雛菊が、慌てて彼に追従する。
ほかに、スザクとカスミら、彼についていける者たちが数名、よくわからぬままにそれでもここまで皆を導いて来た自分たちの総大将を信じ、ついて来ていた。
「いまから、君たちを奴の頭部まで導く! ありったけ叩き込んでこい!」
「それは望むところじゃが、正面来るぞ!」
「ふ、ここは任せて貰おうか!」
先頭を走るソールレオンに殺到していた、クトゥルフが全身から繰り出した無数の触手たち。
到底捌き切れるとは思い難い、その怒涛の攻撃に、咄嗟にフォローに入ろうとしたクリムだったが、当のソールレオンがそんなクリムを制して触手の波に対峙する。
「――皆には通さん、『殺界刃』!!」
――クリムはその瞬間、ソールレオンから半径三メートル以内の音が、消失したと錯覚した。
彼が何をしたか、クリムにすら全ては理解できなかった。
だが、触手たちがソールレオンから一定の円形範囲内に入った瞬間、その全てが細切れにされたことだけは理解した。
「生憎と私のEXドライヴはこの手のボスには不向きだからな、新技にて君たちを援護する!」
「お主、それ……」
「ふっ、君の言葉を借りれば、『
「……にゃろう」
どうやら、以前チラ見せしたクリムの『
一つ出し抜いたかと思えば、ちゃっかり同じ場所に……あるいは一歩先かもしれない場所に居る。
そんな
――やはりいつか、こやつとはもう一度白黒付けなければならんな。
そんな物騒なことを考えつつ、クリムは天に手を掲げる。
「来い、『刹那幽冥剣』!!」
事前に広場へ突き刺しておいた魔法制作武器たちが、赤い剣に変じてまるで忠犬のようにクリムの周囲を舞う。
「ついでじゃ、出よ『ラグナロクウェポン』!!」
十二の紅剣を追従させながら、全ての魔力を絞り出して指に嵌めた『シェイプシフターTPH-R』へと集中させ、黄昏色に輝く刃を顕現させる。
「負けませんですよ、EXドライヴ! 『蒼神炎舞刃』ッ!!」
負けじと合わせた掌から蒼炎の太刀を抜き放つ雛菊。すると、次には何が出るかという期待の目が、先行する最前線の四人中残る一人……スザクに集中する。
「……君、ちょっと地味だな」
「無限ガッツ以外に何か隠し球とかないのかの?」
「やかましいわ、数日でそんな劇的にパワーアップしてたまるか、お前ら人外魔境と一緒にするな!!」
迫る無数の触手を切り払いながら、「おう新入りお前何か芸やってみせろよ」的な視線を送るクリムとソールレオンに、額に青筋を浮かべながらギリギリと睨むスザク。
「くそ……やればいいんだろやれば! ぉおおおおッ!『ドラゴン・ダイブ』ッ!!」
そうスザクがヤケクソ気味に咆哮を上げた次の瞬間――彼は真紅のオーラを纏い、真紅の頭髪をまるで炎の如く輝かせたその頭の横からは以前見たファーヴニルと同じ形状の角を、背中には同じくファーヴニルの翼を生やす姿へと変貌を遂げた。
――『ドラゴン・ダイブ』。一時的に、体内に巣食う邪竜の血を活性化させて、種族を竜へと変えるスザクの切り札だった。
「どうだ、これで満足かこの野郎!?」
「うっわ……」
「男子三日会わずばとは言うが、流石に人間止めてるとビビるわ……」
「スザクさんがドラゴンです、かっこいいです!」
「お、ま、え、ら、なぁ!?」
そんなふうに姦しく罵り合い(一人は目を輝かせて大喜び)しながら……まるで怯えているかのように、纏わり付く者を払わんと大振りで振り下ろされた、巨大なクトゥルフの腕をひらりと回避する。
そして四人は邪神へと決着をつけるべく、今や道でしかなくなったその腕の上を駆け上がるのだった――……