Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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拓かれた未来へ

 

 ――クリムの全てを賭した一撃は、邪神クトゥルフの左肩から右脇腹へと斬断し、その巨体のおよそ八割を消滅させた。

 

『馬鹿な……余が……滅ぶ……?』

 

 もはや下半身は完全に炭化して、体表の触手もほぼ全て焼け落ちた。放っておいても、やがて絶命するだろう。

 

『戻りたくない……嫌だ……せっかくの……!』

 

 崩れゆく体でそれでもなお必死になって、何かから逃げようとするその邪神の成れの果ての無残な姿に、しかしクリム達は武器を構えなおし――その頭上から光が差したのは、そんな瞬間だった。

 

「あれは……ルゥルゥ!?」

 

 まだ残る、建物の瓦礫の上。

 そこには、背に三対の光る翼を持つ少女……ルゥルゥが、何かの術の詠唱を開始していた。

 

「馬鹿な、邪神は確かに倒したはず!」

「やめるのじゃ、もう眠りに着く必要は無いじゃろう!?」

 

 慌てて彼女を引き止めるソールレオンとクリムをはじめとしたプレイヤーたち。そんな皆へ一つ笑い掛けたルゥルゥが、口を開く。

 

 ――だいじょうぶよ、と。

 

 次の瞬間、瀕死のクトゥルフの体を、眩い光が包み込んだのだった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「……で、これはどんな状況じゃ?」

「わ、私にも分からん」

「あー……なんだ、このタコ?」

 

 クリム、ソールレオン、そしてスザクが、困惑したように眼前の光景を見て呟く。

 

 そこには……なんだか狼狽した様子で自分の姿を見下ろしている、デフォルメされた緑色のタコみたいな奴がいた。

 

 

「ふふ、これでこの子も、悪さはできないでしょう?」

 

 そう笑いながら、ふわっと羽を広げて降りてきたルゥルゥ。

 彼女は、いまだ状況を理解できていないタコ……たぶんクトゥルフ……を抱え上げると、そのまま抱きかかえてしまう。

 

「ありがとうございます、あなた方があそこまで邪神を弱らせてくれたおかげで、ほとんど消耗無しに封印ができました」

 

 そう、穏やかに微笑み、礼の言葉を口にする少女。そこにもはや憂いはなく、満面に浮かべたその笑顔に見惚れるプレイヤーがほとんどだった、が、

 

 ――あの、そのタコ嫌がって暴れとるんじゃが。

 

 どうやらたいした力もないらしく、少女の胸でじたばたと触腕を振り回しもがいている目つきの悪いタコもどきの姿に……そう思いはしたものの、口には出さずにそっと胸の内に仕舞い込むクリムなのだった。

 

 

 

 ◇

 

 ――中央広場は、度重なる戦闘の余波によって完全に崩壊していた。

 

 そのためクリムたちボス討伐組、そして戦闘が終了したことが伝わり街中から戻ってきた触手処理班は、今朝クリムが演説した広場に戻ってきていた。

 

 そんな広場中央では、噴水に腰掛けたクリムとソールレオン、そしてルゥルゥが対面し、他のプレイヤーたちはその周囲をぐるっと囲むように集まって話を聞いていたのだが……

 

「ところで……クリムさんは、どうしてそのような事に?」

「あー、いつものことだから気にせんでくれ」

「ああーちっちゃなクリムちゃん可愛いよー」

 

 一度は戦闘不能になったものの、今はもうラインハルトの掛けてくれた蘇生魔法により『残光』から復活したフレイヤが、いつもどおり小さくなったクリムを捕縛し膝上に座らせて抱きしめていた。

 そんな状況も、今までですっかり慣れたクリムはフレイヤをスルーし、されるがままになりながら会話を続けるよう促す。

 

「そ、そうですか……」

 

 いまひとつ釈然としないような苦笑を浮かべながらも、ルゥルゥは一つ咳払いをして気を取り直す。

 

「じゃが……本当に滅さなくてよかったのか?」

「はい、これでいいんです。この子だって、きっと一人で長い眠りに着くのが怖かったんだと思いますから」

 

 腕の中のタコもどきを抱え直しながら、彼女は優しい表情で腕の中を見下ろす。もっともそのタコもどき当人は、まるで「おい、娘、離せ、おい聞けよ」とでも言うように、ペシペシと触腕でルゥルゥの腕を叩いているのだが。

 

 

「ですが、皆さんのおかげで周囲に発散している呪いは全部封じることができましたし、いまはただの可愛いタコさんです。もう危険はないと思いますよ」

「……まぁ、危険には見えないよな」

「可愛いよねー」

「いや……可愛いは可愛いでも、キモ可愛いの部類じゃと思うが……」

 

 呆れた様子で嘆息するソールレオンはさておき、のほほんとそんな感想を漏らすフレイヤにはしっかりツッコミを入れておく。

 

「それで、その、あー、邪神? は今後どうするつもりでしょうか?」

「そうだな、まさか無罪放免にして捨ておくわけにはいくまい」

「はい、ですから、今後は私が監視のため、ずっと一緒にいる事にします」

「……そうか。まあ、好きにせよ」

 

 どうやら少女の決意は固いらしく、またクリムとしても、今のマスコットキャラみたいなクトゥルフを始末したくはない。

 

「お主は、今後はどうするつもりじゃ?」

「そうですね……今はとりあえず、しばらくはどこかに腰を落ちつけて、この世界について学びたいと思っています」

 

 そう、眩しそうに夜空の星を見上げて語る少女。その目には、これからの生活に想いを馳せる色が隠しきれず滲んでいた。

 

「ですが、そのうち旅に出たいと思います。せっかく自由になったんですから、色々と世界を見て回りたいと思うので……もちろん、この子も一緒に」

 

 そう微笑んで、膝の上で驚いたように触腕で自分を指差し目を見開いているタコもどきを撫でながら、そう告げるルゥルゥ。

 

「というわけで、よろしくね、クルゥちゃん?」

「く、クルゥちゃん?」

「はい、クルウルウのうち私がルゥルゥですから、この子は前半から取ってクルゥちゃんです」

 

 何やらいよいよペットじみた扱いに、タコっぽい生き物がその触腕でペチペチとルゥルゥの腕を叩いて抗議しているように見えるが、力を失ったその攻撃は全く効いていない。

 

「私は皆さまにつけていただいたルゥルゥという名前を今後は名乗るつもりですので、お揃いで可愛くないでしょうか?」

「あー、まあ、いいんじゃないか?」

 

 あどけなく首を傾げて聞いてくる少女に、クリムは考えるのをやめて、その言葉を肯定する。

 

 

「……なぁ、やっぱりこの子、『あの方』だよな?」

「この無駄に博愛に満ちてるのは、間違いなく『あの方』ですね……」

「意外に頑固で言い出したら聞かないのもな……」

 

 

 ソールレオンが、背後に居るラインハルトとシュヴァル両名と頭を突き合わせ、何やらヒソヒソと話をしていたが……まあクリムにはよくわからない話だったためスルーする。

 

 

 

 やがてガックリと諦めたように項垂れた……ように見える……邪神クトゥルフあらためタコもどきあらためクルゥちゃんを抱えたルゥルゥが、あらためて、深くこの場に居るプレイヤー皆に頭を下げる。

 

「本当に……本当に、ありがとうございます。このように自由な未来を選ぶことができたのは……全て、皆様のおかげです」

 

 そう、目に涙をうかべながらも本当に嬉しそうな笑顔を見せたルゥルゥに、周囲を囲むプレイヤーが皆、照れた様子で頬を掻きながら、ふっと笑う。

 

 ――ただ少女の笑顔を守るために。

 

 そう掲げた目標は、どうやら無事達成できたらしい。

 

 だがしかし、戦闘の途中からもう一つ、ソールレオンにより新たな目標を付与されていた。つまり……皆で笑って騒ぎ倒すために。

 

「なぁルゥルゥ。この後、このルルイエはどうなるのじゃ?」

「そうですね……すぐに落ちることはないでしょう。登ってきた時間と同じ速度で、ゆっくりと沈降していくのだと思います」

「ほう……ではあと半日は沈むことは無いのじゃな?」

 

 そのクリムの呑気な言葉に……周囲から、待ってましたとばかりにガタッと席を立つ音がした。

 

「よし、コンロを設営しろ!」

「出店用の天幕は持ってきたな!?」

「鉄板用意バッチリっすよ!」

 

 待ってましたとばかりに広場に調理スペースを設営し始めたのは、調理スキル持ちの者たち。その卓上には、小麦粉と……あと触手ドロップの食材である、タコ足が積み上げられていた。

 

 ――そういえばあれ、見た目の割にレア食材でめちゃくちゃ美味いって評判じゃったっけな、そういえば。

 

 そのうち特徴的な窪みがたくさんある鉄板を持ち出し始めたのを見れば、彼らがたこ焼きパーティーの準備をしているのは明白であった。

 

「……あやつら、さてはこのボス討伐がお祭り騒ぎになった時点でここでタコパ始める気満々じゃったな?」

「まぁ、僕らプレイヤーらしいと言えばらしいかな」

 

 呆れるクリムに、いつのまにか近くに来ていたフレイがそんなことを曰う。

 

 

 死闘の疲れなど、なんのその。

 そんな勢いで瞬く間に祭り会場へと変貌していく広場と、それを目を丸くして眺めているルゥルゥ。

 そんな様子にクリムたちは、しょうがない奴らだなあ我らゲーマーというのは、と肩を竦め苦笑するのだった――……

 

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