Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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決戦の翌朝

 

 ――最終レイドボス討伐翌日……雛菊や深雪のお泊まり最終日。紅のこの日は……寝坊から始まった。

 

 

 寝ぼけ眼で布団から這い出た紅は、昨夜は眠りにつくのが遅かったのに、なんだか随分とよく眠れたなと時間を確認すると……現在時刻、朝の九時。

 

 ――さぁっと、血の気が引く音が聞こえた。

 

 当然ながら、数日前からの朝の日課である母、天理との力のコントロールの修練の時間など、すでに三時間以上前に終わっていた。

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい母さん、朝の訓練寝過ごした……って、あ!」

 

 慌てて寝巻きから着替えてリビングに駆け込んだ紅は……そこにいた母と、ほかにもう一人の存在がいることに気づいて慌ててリビングの壁に隠れる。

 

「あらあらぁ。おはようございます、紅さん」

 

 口元に手を当てて、のんびりと笑いながら語りかけてくるのは……雛菊の母、桔梗。

 

「あ……桔梗さん、いらっしゃっていたんですね」

「ええ、ちょっと予定よりも早い時間でしたがぁ」

 

 今日は、S市にて花火大会がある日。

 彼女が雛菊と一緒に花火大会に行く約束をしていたのを思い出して、ようやく得心がいった。

 

「す、すみません、こんな格好で」

「いいのよぉ。お母様から聞いたわぁ、どうやら昨夜はうちの子共々、大活躍だったみたいねぇ」

「あはは……お恥ずかしながら」

 

 お客様が居たことで、慌てて着替えてきたためにまだ乱れているスポーツウェアという自分の今の姿を思い出して、恥ずかしそうに俯く紅。

 しかし特に気にした様子もなく語りかけてくる桔梗に、ようやく平静を取り戻した紅は服の裾を整えてリビングに戻り、空いている席に腰掛ける。

 

 

 

 

 

「でも、二人が一緒って言うのは珍しいですね」

 

 いつもは犬猿の仲なのに、という言葉は飲み込んで、新しいカップに注いでもらった紅茶に口をつける紅。

 

 そう……二人はなんと、仲良くお茶会をしていたのだった。

 

「まあ、たしかにそうじゃが」

「今日は、利害の一致があったのよぉ」

 

 そう二人で頷き合いながら語る言葉に、紅は首を傾げる。正直に言うと嫌な予感しかしない。

 そんな紅の様子を愉しげに見つめていた天理だったが、ふと思い出したように懐から何かを取り出す。

 

「それで……紅、予約と支払いは済んでいるから、午後三時になったら女の子皆を連れて、美容院に行って髪をセットして貰ってくるがよい」

 

 そう言って、天理が予約の時間が入ったメモを紅に渡してくる。そこは……近所にあるちょっと大きな美容院の名前が記されていた。

 

「えっと……なんで?」

「ふ、それは今夜のお楽しみとしておこう」

 

 そう悪戯っぽい笑みを浮かべる天理に……美容院から戻ったら何が待っているのかは、さすがに紅も薄々と察した。

 故に「また母さんの悪い癖か……」と深々と溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 そんな母親二人との話も終わって――場所は変わり、紅の自室。

 

 

 

「……はっ……あむっ……」

 

 ちゅう、ちゅうと、何かを吸う湿った音が、カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中に響く。

 

 今日は日曜日……週に一度の、聖に血を分けてもらう日。紅は夢中で、ベッドの隣に腰掛けている聖の白い指先を、口に含んで吸い付いていた。

 

「……ん……ふっ…………」

 

 紅が夢中で吸っているのとは別の方の手の人差し指を咥え、漏れ出る吐息を堪えている聖のくぐもった声が、ちゅくちゅくと指を舐る湿った音に混じって静まり返った部屋に響く。

 

 やがて……名残惜しそうに聖の指から口を離した紅が、その小さな桃色の舌を、僅かに噛み破られた聖の指先の小さな小さな赤い傷跡に丹念に這わせる。

 

 これは別に酔狂でやっている訳ではなく、『ノーブルレッド』の紅の唾液には、僅かながら治癒効果があるからだ。天理は、吸血相手を労るために備えている能力であると説明していたが。

 

「ふ、ふふ……紅ちゃん、そんな舐めたらくすぐったいよぉ……」

 

 指に湿った柔らかな物が這う感触に肩を震わせながら、聖が紅の髪を空いた指で梳く。

 

 そんな時間も……やがて満足したように紅が口を離したことで、終わりを迎えた。

 

「……ふぅ。御馳走様、いつもありがとうね、聖」

「う、うん……お粗末様でした、はぅ……」

 

 何やら顔を赤らめてモジモジしている聖に首を傾げながら、紅は彼女のその白い指先に傷痕が残ったりしていないことをもう一度確かめる。

 

 一通り検分して問題ないことを確認し、よしと頷いた時には、聖もすっかり元の調子を取り戻していた。

 

 

 

「それで……雛菊ちゃんと深雪ちゃんは?」

 

 分厚い遮光カーテンを開けながら、紅はまだベッドに座って休んでいる聖に問い掛ける。

 家の中には姿が見当たらなかったため、どこかに出かけたのかと思っての問いだったのだが……

 

「二人はラジオ体操で朝も早かったからねぇ。今は宙さんが庭の木に張ったハンモックでお昼寝中だよー」

「あ、いいなぁ」

 

 今日はあまりジメジメしておらず、適度に涼しい風が吹いている。それはきっと気持ちいいだろう。

 そういえば紅も、小学生くらいの時にはよく宙にせがんで張って貰ったことを思い出し、ふっと表情を緩める。

 

「昴は、今はDUOに行ってるよ。今夜の『例の件』、ルージュちゃんに説明してくるって」

「そっか……ではこちらでも準備しておこうかな」

 

 そう言って紅もまたベッドに腰掛けると、つい最近入れたばかりのアプリをNLDから呼び出して、設定画面を開く。そのまま、必要な情報などを入力していると……

 

「ねえ、紅ちゃん。ボス戦の時、一つお願いを聞いてくれるっていったよね?」

「ん? うん、勿論構わないよ、何でも言って?」

 

 そう、視点は設定画面に集中しつつも聖の話にちゃんと耳を傾けていた紅が、ごく当然のように返事を返す。

 

 そんな次の瞬間……紅は、ふわりと聖の着ていたサマーカーディガンの柔らかな感触と、石鹸のフローラル混じりの良い香りに包まれた。

 

 

「ならそのうち、二人で一緒に遊びに……ううん、デートに行かない?」

 

 

 後ろから抱きついて、耳元で囁くように聖から言われた言葉をうまく処理できず、紅がガチンと硬直する。

 

「え……っと、何て?」

「デートしよ? 二人で」

 

 思わず聞き返した紅の目と鼻の先、吐息の触れるような距離で微笑んで、聖がもう一度その『お願い』を口にする。

 

 その言葉と、どこか蠱惑的な聖の表情に――今度こそ、紅の頭はフリーズした。

 

 

 いや別に嫌なわけじゃないけど。

 むしろそれは非常に魅力的な誘いだけど。

 

 ――えっと……皆でじゃなく、二人で?

 

 

「……ぇえええええええええっ!?」

 

 脳が再起動したのと同時に、驚愕した紅が思わず上げた素っ頓狂な叫びが、満月家の周囲へと響き渡ったのだった――……

 

 

 

 

 




紛れもなく健全。
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