Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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剣の跡

 

 ――全員の浴衣の着付けも終わり、日もだいぶ傾いてきた。そうして、さて花火大会へ向かうぞとなった頃。

 

 

 

「うぅ、なんだかいつも以上にスースーする……聖、どこか変じゃない?」

「大丈夫、可愛いよ!」

「そ……そう、ありがと」

 

 慣れぬ和装に戸惑いながら、聖に意見を求める紅。

 打てば響くように、にへらと緩んだ顔で紅を見つめていた聖の称賛に、紅は紫色を基調とした百合柄の浴衣姿を見下ろして、照れながら返事を返す。

 

「そ……そういう聖も、似合ってるよ。その、撫子柄。涼しげでいいと思う」

「うん、ありがとう、紅ちゃんにそう言ってもらえて嬉しいよー」

 

 そう、紅はしどろもどろになりながら聖の浴衣姿を褒めると、彼女はどこか艶然とした笑みを浮かべ笑いかけてくるものだから、思わず目を逸らして咳払いする。

 彼女は今、紅が品評したとおり白を基調に青系統の撫子柄が涼やかに描かれた浴衣を、しっとりと着こなしていた。

 

 それは清楚可憐な佇まいなのだが……髪を上げているものだから、普段は見えない首筋やうなじがチラチラ見えるものだから、紅は湧き上がる衝動を抑えるのに少しだけ苦労していた。

 

 

 

 そんなぎこちない空気を感じながらも、皆で連れ立って家を発ち、並んで会場へ向かう道を歩く。

 複数人でカランコロンと下駄やぽっくりを鳴り響かせながら……やや老朽化した大型商業施設や、すっかり高齢化問題も終わって廃墟になっている元老人介護施設が並ぶ寂しげな風景の坂を下り、住宅地へと抜ける。

 

 そのまま、五分くらい歩いた時。

 

「あ……」

「昴と紅ちゃんの通っていた道場だねー?」

「うん、懐かしいな」

 

 道路の反対側に、古めかしいが立派な佇まいの民家と並んで、歴史を感じさせる剣術道場が佇んでいた……が、その道場の看板は下ろされて久しい。

 

『お姉ちゃんは、剣を習っていたんですか?』

「習っていたと言っても二年だけね。ほとんど基礎しかやってないし、試合も出たことないんだ」

 

 紅の肩の上にちょこんと腰掛けて、キラキラと尊敬の目で見つめてくるルージュに、紅は若干照れ臭くなって頬を掻きながら答える。

 ちなみに彼女は今、浴衣を元に若干のファンタジー要素を加えた和ドレスを纏っていて、非常に可愛らしい姿になっている。

 

「はは、始める時と止める時、お前はどっちでもめちゃくちゃ泣いたよな」

「す、昴!?」

 

 そう揶揄いながら言ってくるのは、市松模様の甚平をそつなく着こなした昴。

 彼に黒歴史を暴露され、慌てて食って掛かる紅だったが……ぽっくりという不慣れな足元で、しかも浴衣の気崩れや裾を気にしてでは、軽く小突くくらいしかできず、ぐぬぬ、と睨みつけるのだった。

 

 

 ……今はすっかり使われていないこの道場は、紅が小学生の時に、昴と一緒に二年くらい両親に通わされた剣術道場だ。

 

 今でこそ紅の吸血衝動を代償行為で発散するためだったのが分かったが……当時は、紅の両親がなぜ剣道を急に始めさせたのかは分からなかった。

 

 そのため元々は乱暴な事が苦手だった紅は直前になってギャン泣きで嫌がり、始めて数ヶ月は昴が手を引かなければことあるごとにサボろうとしたものだ。

 

 ……しかしその剣の稽古は、紅の性に合ったらしい。

 

 やがて筋力が少しつき、歩法や、竹刀での素振りを始めさせてもらえた頃には、逆に昴を急かして稽古に向かうようになっていた。

 

 小学六年に上がる頃には師範であったお爺さんが体の限界により引退し、ようやく面白くなってきていた頃だった紅は泣く泣く辞めることになったものだが……そこで叩き込まれた剣術の基礎は、今の紅の土台になっているのは間違いなかった。

 

 ……師範には二十年くらい前に、剣術にのめり込んでいたお孫さんが居たらしいのだが……残念ながらその人は、外に恋人ができて、一緒に遠くへと出て行ってしまったらしい。

 

 当時はまだ小学生、色恋沙汰に疎かった紅は「薄情なお孫さんだなぁ」などと思ったものだが……しかし当の師範自身は……

 

 

「――あいつは立派だったよ。自分が守るものを定め、その上で自らの意思で、ひとつの大切なもののために全て置いて行く決断ができたのだからな。まあちょっと守る物が大き過ぎて面食らったものだが」

 

 

 ……そう、自慢げに庭を見つめながら語っていたため、それ以上何かを言う事は出来なかったのだった。ただ、防衛関係の仕事の人なのかな、と思うのみである。

 

 

 

 その後は後継者が居なくて潰れてしまったこの道場だが、紅たちは半年に一度、お盆と大晦日に手入れの手伝いに来ているのだった。

 

「って、来週くらいに手入れしにくるじゃん!?」

「おっ……と、そういえばそんな時期か。色々濃い日々が続いて忘れるところだったな」

 

 そういえば、もうそろそろその時期だったと今更ながら思い出し、昴と顔を見合わせて予定の擦り合わせをしていると。

 

「あら……この道場は」

「……ん? 桔梗さん、どうかしましたか?」

「あ、いいえぇ、昔一度来たことがあるなぁって思っただけなの。ごめんなさいねぇ」

 

 そう頬に手を当てて笑う、名前通り赤い桔梗柄の浴衣を色っぽく着こなした桔梗。

 その隣には、やはり名前通り雛菊柄の青い浴衣を纏った雛菊と、薄桃色の彼岸花モチーフの浴衣を纏う深雪の姿もあった。

 

 

 ……ちなみに、少し後ろを宙や古谷夫妻とともに歩いている天理までもアマリリス柄の赤い浴衣なものだから、どうにも名前に花を冠する者が多いこの一行は、名前と浴衣の柄を合わせたようになってしまっていたのだった。

 

 と、それはさておき。

 

「でもそっかぁ、どこか見たことある街だと思ったら、ここってあの子たちの……因果なものねぇ」

 

 そう、一人納得している彼女と、後ろで訳知り顔で苦笑している親たちに、紅たち若年者はただただ首を傾げるのだった。

 

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