Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
水族館の後は少し移動して、市内にある城跡をのんびりと散策する。
時々日陰に入って茶屋でお茶をしたり、併設された博物館内を見学したりしながらゆったりと散策しているうちに……楽しい時間は瞬く間に進んでいくもので、陽はまだ高いものの、傾き始める時間となっていた。
最後に、紅は聖に手を引かれるままに、近場にある展望台へとやって来ていたのだが……
「あはは、貸切だぁ」
「まあ、今時景色を楽しむなら、VRでも事足りるからねぇ……」
がらんとした展望台内を、聖がはしゃいだ様子で街を一望する窓際へ小走りに掛けていく。
……こうした展望台は、最初に行った水族館と同等かそれ以上に、需要は低下している。それこそ自分たちみたいなデート中にふらっと訪れたとかでもない限り、入って来る者は稀だろう。
なんせ、近場の絶景スポットどころか外国の著名な場所、果ては宇宙だろうがいつでも体感できるのだから。
「でもさ、やっぱり実際に入ってみると、これはこれで楽しいよねえ」
「そうだね、誰かとこうして見て回るのも、悪くないかな。ちょっと歩き疲れたけど」
「あはは、本当にいっぱい歩いたよねえ、明日は筋肉痛かもね」
そう屈託なく笑う聖に……紅は今までずっと気になっていたことを、問い掛ける。
「ねえ聖。今日はどうして急にデートって言い出したの?」
二人でお出かけした事ならば、何回かはある。
だが、今回に限って『デート』という言葉を使ったことが、紅は不思議に思えてならなかった。
それ故の問いかけに、聖は紅へと優しく微笑み、口を開く。
「それはね……紅ちゃんが、変わったからだよ」
「私が……?」
そりゃ、まあ……と、数ヶ月前に性別からして変わってしまった自分の体を見下ろしながら首を傾げる紅だったが、彼女は、首を横に振る。
「ああ、もちろん女の子になったからとか、そういう意味じゃなくてね……うーん、何て言ったらいいかなぁ」
むむむ、と頭を抱えて、何というべきかを悩んでいた彼女は……しばらくして、よし、と一つ小さく気合いを入れて、紅へと向き直った。
「だって、紅ちゃんは私のコレ、ずっと気に病んでいたから」
そう言って、自分の首に触れる聖。
「たぶん、前の紅ちゃんは私に頼まれたら、責任を感じて絶対に断らなかったでしょ?」
「それは……うん、たしかにそうかも」
聖の首に残った傷跡を見るたびに、激しい自責の念を感じていた紅。それを理解していたからこそ、彼女はあまり紅にお願いはしてこなかった。
だけどこの数ヶ月で紅は、その傷跡を気にせずに、否、それも含めた全てを愛おしいと思える程度には吹っ切れていた、と思う。
「だからそんな弱みにつけ込んじゃいけないって思って、紅ちゃんが吹っ切れるのを待ってたの。そして今はもう大丈夫そうだったら伝えようって」
「それじゃ、聖から見て、今の私は……」
「うん、今の紅ちゃんなら責任とかじゃなくて、ちゃんと自分で考えて返事をくれると思ったから」
そう言って、数回深呼吸をした聖が、真っ直ぐに紅の目を見つめ、話す。
「――私はね、紅ちゃんが好き。女の子になる前から……そして女の子になってからも、ずっと君が好きだよ」
夕陽を背景にした聖から、紅にむけてひたすら真っ直ぐに告げられた、その言葉。
「私は……僕も……んっ!?」
紅の中で積年の思いが渋滞を起こして、気が急くばかりでなかなか言葉が出てこない。
それでもどうにか早く返事を返そうと、口を開いたその瞬間……その口が、間近まで迫った聖の口によって塞がれた。
それは……なんだか少し、チョコバナナの味がした気がした。
それから、紅の体感では数分あったような気がするが、実際にはたぶん十数秒の時間が経過して……名残惜しそうにしながら、聖の顔が離れていく。
「え、えっと、つい勢いで……ごめんね!?」
「え!? あ、うん!」
顔を真っ赤に染め上げて、両手をブンブン振りながら弁明する聖に、同じく顔を真っ赤にした紅がガクガクと首を縦に振る。
そのまま、お互いチラチラと相手の顔を見ながらの気まずい沈黙の時間が流れるが……やがて、聖が口を開けた。
「ま、まだちょっと答えを聞くのは怖いから、また今度ゆっくり考えて返事をくれたらそれでいいよ」
「う、うん……わかった……」
その言葉に、紅は……呆然と、今さっき柔らかい感触でふさがれた唇をなぞりながら、心ここに在らずという感じで返答を返すことしかできなかった。
「それじゃ……ごめんね? 心配させないように、暗くなる前に帰ろっか」
そうして、いつも通りの様子に戻った聖に、手を引かれながら帰路につく。
だが……もはやいつもとは関係が決定的に変化したことを、紅はただ手を繋いでいるだけでバクバクと暴れている心臓の感覚や、ぽわぽわと脳を浸す幸福感とともに、ひしひしと実感していたのだった――……