Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

218 / 410
ルアシェイア領の先

 

 新たなメンバーを迎えたギルド『ルアシェイア』だったが……しかし今は虚無期間、とりあえず何もすることが無いため、ログインした者たちみな、思い思いの時間をのんびりと過ごしていたのだった。

 

 

 

 そして、今しがたログインした者がまた一人、中庭に現れた。

 

「あー、人にさっさと風呂を済ませろって言っておいて、パパもママもこっちに来てるじゃない、もー!」

 

 ログインして真っ先に、先にログインしてテーブルの端に着座していたリュウノスケとサラへと抗議するのは……機械の少女、リコリス。

 彼女は、ログインし次第肩に飛び乗ってきたリコを軽く撫でてからリュウノスケの隣席へと腰掛け……周囲を見回して、この場に居ない人物に気付く。

 

「フレイヤお姉ちゃんは?」

「今は入浴中。まだ時間掛かると思うよ。我が姉ながら、なんであんな長いのかね」

「向こうはお前の風呂は適当過ぎると嘆いていたがの」

 

 リコリスの質問に若干の呆れを滲ませながら答えたフレイと、その言葉にツッコミを入れるクリム。

 双子でありながら、入浴観がまるで違うフレイたち姉弟の様子に、クリムは仕方のない奴らじゃのぅ……と苦笑する。

 

「しかしまあ世間はお盆だというのに、結局、皆この城にたむろするんじゃなぁ」

 

 テーブル端では、少しだけ残っていた夏休みの課題をせっせと消化しているカスミの姿もある。今は少し席を外しているフレイヤも含めれば……なんだかんだでメンバー全員が揃っているギルドメンバーたちを眺め、呆れたような声を上げるクリム。

 

「まあ、居心地も良いからな」

「お茶もお菓子も美味しいから、つい居ついちゃうのよね。アドニスもエルヒムも、いつもありがとね」

 

 そう言って使用人の仕事を褒め称える、お茶を楽しんでいるリュウノスケとジェード。リコリスとは反対側のリュウノスケの隣で静かに読書に勤しむサラも概ね同意見らしく、文庫本から目を離さないままではあるが頷いていた。

 

「お気になさらず。それが仕事ですから」

「ですがお褒めいただきありがとうございます、リュウノスケ様、ジェード様」

 

 そう、微かに微笑んで会釈するツァオバト兄妹の二人。

 

 すっかりルアシェイアのメイドとして馴染んでいる二人は、今はもうお眠なルージュをベンチに横たえ、そのお腹にタオルケットを掛けてあげていた。

 

 そんな、のんびりとした就寝前のひとときの中……ふと、思い出したようにフレイが口を開いた。

 

「なあクリム、うちもだいぶ戦力も揃ってきたし、そろそろいけるんじゃないか?」

「む、何がじゃ?」

 

 ティーカップを傾けながら、広い場所で模擬戦に興じている雛菊とセツナの様子を微笑ましく眺めていたクリムが……フレイの言葉に、首を傾げながら尋ね返す。

 

「大陸南西の平定」

「ブフッ……!?」

 

 フレイのその言葉に、クリムが今しがた口に含んだ紅茶を吹き出す。

 そのまま、震える指で茶器をカチャカチャ鳴らしながらどうにかソーサーに戻し、満面の笑顔でフレイに告げた。

 

 

「絶対に嫌じゃ」

 

 

 その顔は、まるで悟りを開いた僧のようだったと……はたから見ていたカスミは後に語るのだった。

 

 それだけ言って、殊更上品な所作で何事もなかったようにお茶を再開したクリムの肩に、フレイの手がポン、と置かれた。

 

「現実を見ろクリム。お前だって知っているだろ、僕たちが南西征伐に行かないせいで大陸支配図に空白ができて、ちょっと問題になってるって」

 

 フレイの言葉は、本当の事だった。

 南西に向かう道は地形の関係で非常に限られており、現在空白になっているそのエリアへと向かうことができるルートは、判明している限りでは鬼鳴峠の中央を横切る大河を下って行くルートのみ。

 

 もちろん、ルアシェイアも一度その先を見には行ったのだが……すぐさま撤退して以降、クリムはもう一度そこへ行くことを、頑なに拒否していた。

 

 だがしかし……もうだいぶ大陸の勢力図が、侵入経路の不明な大陸中央部、旧帝都周辺を除いて埋まりつつある現状。

 その未開の地へと唯一隣接しているギルドであるルアシェイアが、行きたくないからと捨て置ける場所ではなくなってきていたのだ。

 

「いい加減諦めろ、僕たちがこの場所に拠点を築いた以上は避けられない道だ、戦場から逃げるなクリム!」

「いーやーじゃー!!」

 

 しかし必死の形相で頑なに領土拡大を拒み、まるで駄々っ子のように喚くクリム。それには、理由があった。

 

 現在未開の地となっている、大陸南西部。そこは……

 

 

「なにゆえ、好き好んで、()()()()()()()()などに向かわねばならぬのじゃー!?」

 

 

 ……そう。クリムの大嫌いなアンデッドの支配領域なのである。

 

 古代魔法の着弾跡と言われている巨大なクレーターに、大陸中央から流れてくる河川の水が溜まった湖の上に築かれた、大陸南西へと向かう唯一のルートとなる巨大な橋……名を、ガーラルディア大橋という。

 

 そしてその橋と同化するように建造され、湖の中心に鎮座するのは、西の海から来襲する外敵に備え帝国が築いた、難攻不落()()()城塞都市ガーランド。

 

 今現在においては、またの名を死霊要塞ガーランドと呼ばれている――アンデッドの王が住まう廃墟なのだった――……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。