Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
『習得:大鎌スキルが解放されました』
「……お?」
あれから三日後。
今日も今日とて木こり暮らし。しかし、材木の必要数まであと少しというところ。
そんな中不意に現れた新スキル習得の報に、木を切る手を止めて、スキル内容を確認する。
■取得条件
・伐採 30
・採取 30
・両手斧 60
「……なるほど、生産スキルもある程度振らないと、入手できない武器スキルもあるんだ」
あるいはその逆、戦闘系スキルに振らないと現れない生産スキルもあるのだろうか。
これは、戦闘系志望は戦闘系、生産系志望は生産系に専念している初期は見つかりにくそうだなぁと思いつつ、今は大鎌というロマン溢れる武器を試してみたさにソワソワするのを隠し切れないクリムなのだった。
「……よし、あと必要な素材も少しだし、終わったら試し斬りに行こう!」
そうと決まれば善は急げ。
冷静に考えると物騒極まりないことを声に出しながら、残るノルマを完遂すべく、クリムは改めて、力強く斧を振り上げた。
――というわけで、ノルマ達成後の昼下がり。
「さて、というわけで無事必要素材の納品も終えて、森へ戻ってきたわけだけど」
ちなみに、クリムが伐採に使用していた斧。
それは……最初だけ店売りの簡素な斧だったが、途中からは全て、影魔法による魔法武器。
おかげで熟練度も相当に伸びることとなり、つい最近、60になったことで覚えた魔法があった。
「……『シャドウ・ヘヴィウェポン』、大鎌!」
前に掲げた両手の内に、ズシリと掛かる重み。
影から剥離するようにして、いつのまにか、クリムの身の丈半分くらいありそうな刃を持つ、真っ黒な大鎌が手の内に現れていた。
しかし……
「……うーん、なんか無骨で味気ないなぁ」
そう、不満を呟くクリム。手にした大鎌の形状は……まさしく、農器具としての大鎌だった。
……この影魔法で作る武器は便利なのだが、そのカテゴリーの基礎となる武器の形となるのが難点だった。
「……よし、『変幻』!」
戦闘系補助スキル『変幻』
魔法で作り出した武器によって500体のエネミーやオブジェクトを破壊した際に入手したスキルだ。
これによって、より鋭く、よりヒロイックに……そして、今の筋力でも動きを阻害しない程度にサイズアップを施して……
やがて、槍のような穂先、禍々しい鋸のような錨爪を備えた、ハルバードのような形状を持つ、クリムの身の丈くらいの刃を備えた巨大な鎌が出来上がった。
「……よし、こんな感じでいいかな」
その、まだやや残っている中学生男子の心を擽る形状に、満足して頷く。
問題は、ちゃんと振れるかどうかだが……何度か振り回してみて、程よい重量にこれまた満足する。
「今までは、威力が無くてクリティカルを狙うしかなかったから……ねっ!!」
気合い一閃。
振り向きざまに振るった大鎌が、背後に忍び寄っていた豹のような猫科の大型肉食獣を、周囲の枝葉ごと真っ二つに断ち割っていた。
「……やっば、気持ちいい……ッ」
ちょっと人には見せられないような恍惚の表情で大鎌の柄を抱きしめるようにして、攻撃力の高い武器を振るう快感に打ち震えていた……その時だった。
クリムの鋭敏な耳が、森のざわめきの中にほんの僅かな不自然な揺らぎ、異物を感じ取る。
それは……人の声。それも、相当に切迫した……
「……悲鳴がしたね」
改めて目を瞑り、環境音とSEを取得する情報から切り離して深く耳を澄ます。
すると今度こそはっきりと、遠くから微かに響いてきた悲鳴を方位も含めて捉えた。
「俺ってこういうトラブルにつくづく縁があるのかなぁ」
ぼやきながらも、新たな得物を肩に担ぐようにして、森の中を駆け出すのだった。
悲鳴の発信源も近くなり……クリムは今、本気装備である『幼き獅子赤帝の外套』を羽織るのに加えて、新たな装備である黒いブーツに装備を変更して、樹上の枝の上を跳んで渡りながら移動していた。
その脚を覆う、かかとがやや高く、黒のレザーに赤い編み上げの、ややゴスロリっぽい雰囲気のあるハイブーツ……名を『ストライダーブーツ』という、正真正銘のボスレア品だった。
これは……以前、ジョージを助けた際に辛くも撃破した『最強の魔獣』というエネミーが落としたものだ。
どうやらあの時に運良くドロップしたらしく、目が覚めたらいつのまにかインベントリに入っていたことに、あとから気付いた装備だった。
その性能は店売り装備を大きく上回っていたが……特筆すべきは、付加されていた『移動速度+6%』の効果だろう。
この手のゲームにはだいたい重宝される能力であり……今、木々の枝を足場にして駆けている足取りも、心なしか軽い。
そうして高い視点で索敵しながら進む先に……おそらくは目標を追っているのであろう、統率が取れた動きで一点を狙って徘徊している魔獣たちを発見した。
「……いるな、気配は四……いや、五つ?」
おそらくは、『ダークハウンド』という、このシュヴァルツヴァルトの深部に巣食っている、群れで行動するうえに能力も高い狼系の難敵だ。
ひとたび獲物と定めた相手に対して非常に粘着質な性質があり、おそらくは逃げてきた何者かを追って、ここまで現れたのだろう。
……が、しかし。今はまだ、頭上にいるクリムには気付いていない。
時間をかけてしまえば、その波状攻撃にひとたまりもなくやられてしまうだろう。
だが――武器攻撃力も格段に上がった今ならば、向こうの態勢が整う前にいけば……いける!
そう判断するが早いか、樹上から飛び降りたクリムが、真下に居たダークハウンドの首筋を、助けを呼ぶ間も与えず刎ねる。
落下の衝撃は転がって逃がしながら、そのままの勢いで、もう一体、こちらに気づいた素振りを見せ振り返ろうとした首に、刃を掛ける。
そして、刈る。
ある意味鎌として至極真っ当な使い方をされたその刃は、二体目の首をこれまた大した抵抗も許さず刎ね飛ばした。
ほぼ同時に
「イイね、これ凄く良い……!」
自分によく馴染む武器に出会えた喜色を滲ませながら、早くも態勢を立て直してこちらに飛び掛かってきたダークハウンドを一歩横にずれることで避け、すれ違いざまに、背後に回した手で柄を保持した鎌で引っ掛け――片足を軸にギュルッと体をコマのように旋回させる。
引っ掛けたダークハウンドの一体が両断されたのを尻目に、さらに回転の勢いを上乗せして踏み切る。
仲間がやられて早々に勝てないと判断したらしい、逃げに転じた見える範囲にいる最後のダークハウンドへと飛び掛かる。
速度と遠心力が乗ったその斬撃は、まるで暴風のように周囲の枝葉を払いながら、その逃げるダークハウンドを一刀の下に両断した。
残るは、一体。
岩陰の気配に向けて、その岩ごと斬り捨てようと、更に回転を加速させ――
「ま、待った!……ヒィッ!?」
「……ッ!?」
突然、姿を現したのは……人影。
ヤバッ、と思いながらも勢いのついた鎌を必死に押し留める……その刃は、人影の首を刎ねる直前、ギリギリのところで静止した。
――危なかった。
そういえば、今急いでいたのは助けを求める声を聞いたからだった。すっかりテンションが上がっていたせいで、とんと頭からすっぽ抜けていた。
冷や汗がダラダラと吹き出すのが気持ち悪く、大鎌を下ろしながら、もう片手で頭を隠している外套のフードを脱ぎ去る。
「……あんた、プレイヤー、か?」
「は……」
ぽかんとクリムのほうを見上げているのは、やや痩せぎすで、中途半端に伸ばした髪を後ろで雑にくくり、うっすら無精髭の生えた……なんというか、『冒険者ギルドの酒場に入り浸っている、そこそこベテランだが冴えないおっさん』をあえて狙って形にしたような見た目の男性。
それは……無制限開放エリアではなくこちら側で見る、初めてのプレイヤーキャラだった――……