Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「……うげ」
よく晴れた夏の朝、暗い部屋の中に心底嫌そうな呻き声が響く。
まだ朝も早く、涼しい空気が流れる中……紅は目覚めた直後、お腹を冷やさないようにと被ったタオルケットの下に感じる不快な感触と、キリキリと内臓を絞られるような下腹部の痛みに、陰鬱に顔を顰めながら目が覚めた。
――今日は、始業式の日。
日光に弱い紅は晴天というだけでただでさえ憂鬱になる休み明けの朝だというのに、今度は更なる憂鬱の材料を付与されてしまった。
そのため、紅はあまりにタイミングの悪い自分の体にぶつぶつ不満を言いつつも、渋々支度をする。
二度目となれば多少の慣れと、そして心の準備も出来ているもので……血に汚れたものは洗濯機に叩き込み、手早く汚れた場所を清めて必要な処置を行う。
また、携帯ポーチの中身を確認し、トイレの戸棚にストックしてあったものから必要数補充しておく。
母から貰った薬は飲むか迷ったが…まあそこまではいいかなと、念のためポーチの内ポケットに仕舞い、鞄へと放り込んだ。
幸い……と言っていいか微妙ではあるが……両親は今朝は会社に泊まり込みだ。今日は始業式で午前中しか学校が無いため、お弁当を用意する必要も無い。
朝からのゴタゴタですっかり朝食を用意する気力も無くなった紅は、完全栄養食のパウダーをホットミルクに溶かすだけのディストピア飯で朝食をすませ、登校の支度を始める。
……流石に、冬服のブレザーではいられなくなってきた夏真っ盛り。
薄着になる分も念入りに肌にUVカットクリームを塗り込むと、冬服よりはやや薄手のスカートと、学校指定のブラウスを身につけて、首元にはリボンタイを結ぶ。
その上から日差し避けに薄手のサマーカーディガンを着込み、ざっと身だしなみを確認する。
――すっかり女子高生だなぁ。
やはりこうして見ている分には可愛い女の子だと思うが、それが自分だと思うと未だにどうにも違和感がある。今の格好にそんな複雑な思いを抱きながら眺めていると――いつのまにか時間が流れていたらしく、やがて呼び鈴が鳴ったため慌てて家を飛び出した。
外で待っていたのは……当然ながら、夏服姿の聖と昴の二人。
「よ、おはよう。今日はそっちにしたんだな」
「うん……冬服だと、流石に誤魔化せないからね」
昴の言葉に、紅は日傘を開きながら苦笑して答える。
誤魔化せないというのはもちろん、服の中に仕込んだ冷房魔法のことである。いくらなんでもこの日差しの下、ブレザーまでフル装備で汗ひとつかかないのは無理があった。
「おはよ、紅ちゃん。夏服も似合ってるよ」
「うん……ありがと」
聖の褒め言葉も、この日ばかりは上の空で生返事を返してしまい……すぐに彼女は何かに気付いたように、心配そうな顔をする。
「……もしかして、体調あまり良く無い?」
「あはは……今朝、来ちゃったから」
お腹を抑えながらの紅の言葉に、聖があちゃあ、と声を上げる。
「あー……天理さん、しばらくは不順になるって言ってたもんねぇ」
それに、天理が言うには紅の周期は普通の人よりやや長いらしく、だいたいひと月半ごとじゃないかとも言っていた。前回が七月の頭だったため、その予想は概ね当たっていたことになる。
「……お前らさあ、頼むからその話は僕がいないところで頼む。ほら、急がないと電車に遅れるぞ?」
「あ、昴ごめーん」
紅と聖の話を耳を塞いで聞かないようにして、明後日の方向を向いていた昴。そんな彼に聖が手を合わせて謝り、横に並び歩き始める。
紅は、そんな二人の背中を眺めながら……
「……何か、まだまだ色々と起きそうな嫌な予感がするんだよなぁ」
新学期早々の、今朝からのバタバタを思い出し……そんなことを憂鬱そうに呟く。
そして……得てして紅のそんな悪い予感はよく当たるのだというのが、友人たちからのもっぱらの評判であったことを、紅はこの日痛感することになるのだった――……