Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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実力テストの後

 

 ――二日間の休み明け実力テストを終えて。

 

 

「終っ……わったぁぁあああ!」

 

 歓喜の声と共に、全身で伸びをする佳澄。

 他の生徒たちも似たり寄ったりで、ようやく緊張から解放されたことによる安堵の空気が、教室を満たしていた。

 

 そんな様子を後ろで眺めていた紅が苦笑すると、それに気付いた彼女は、気遣わしげに振り返る。

 

「っと、ごめん。私より、満月さんの方が大変だったよね。大丈夫?」

 

 ……テスト前日の予想通り、初日が保健室受験となった紅。

 佳澄の言葉により、皆の心配そうな視線が紅へと集中するが……

 

「うん、大丈夫。今日はだいぶマシになったから」

「テストの方は、集中できた?」

 

 次いで心配そうに話しかけてくる聖にも、大丈夫と頷く。

 

「問題ないよ……少なくとも、体調を負けた言い訳にはできないくらいには、ね」

「おっと、それは結果が楽しみだ」

 

 そう言って、新たな声が会話に加わる。その主は、先日クラスメイトになったばかりの玲央。

 

「おいお前ら、教室で火花を散らすのもいいが、この後どうする?」

「あ、せっかく午前中で学校も終わりですから、皆で玲央さんとラインハルト君の歓迎会なんてどうかな?」

「そうね、私も構わないよー」

 

 二人を仲裁する昴が、この場の皆に問いかける。

 すると、すかさず放たれた佳澄の提案に、聖も同意する。ならば、玲央たちが大丈夫ならと紅が視線を送ると……

 

「あー、皆、それは嬉しいんだけど、その前にひとつ案内してほしいところがあるんだ」

「案内して欲しいところ?」

 

 玲央の言葉に、紅が首を傾げて聞き返す。

 

「うん、この学校内にあるはずなんだけど……」

 

 そう前置きして、玲央が口に出した場所は……

 

 

 

 

 ◇

 

「……しかし、何でまたゲーム部に?」

 

 玲央たちを案内して学生会館へと来た紅たちだったが、ここにきて、昴が皆を代表してようやくその質問をする。

 

 ……玲央たちが案内してほしい場所というのが、ゲーム部の部室だったのだ。

 

 だがしかし、玲央ならば運動部にも引く手数多だろう。あるいは演劇部などは、さぞ熱烈歓迎するに違いない。

 

 たしかに彼はゲーム廃人かもしれないが……ならばこそ、なぜ高校のゲーム部になど興味を持ったのか、そんな疑問を抱く皆だったのだが。

 

「こちらに、縁のある方が居るからなんですよ」

「縁のある?」

 

 玲央の後ろをついて歩いていたラインハルトが、そう答えてくれる。

 しかし、日本に来て日の浅いらしい彼らの縁とは、と紅たちがさらに首を傾げる。

 

「ああ……なんでも、私の父親の恩人の妹さんの娘さんが在籍しているって聞いてね、挨拶でもしておこうと思ったんだ」

「微妙に遠い関係だね……」

 

 玲央の言葉に、聖が苦笑しながらツッコミを入れる。

 紅も「それって他人じゃないかな……」と内心では思ったのだが、それはそっと心の中に仕舞い込むのだった。

 

 

 と、そんな他愛ない話をしているうちにゲーム部……部というか同好会……の部室である、学生会館三階にある小部屋へと到着した。

 

 先導していた昴が皆を代表し、コンコンと部室のドアをノックし、開けると……そこには。

 

「……へ?」

 

 ……丁度、部員らしき制服姿の女の子が、昔からある「最後までチョコたっぷり」がキャッチフレーズの細い棒状の焼き菓子を頬張ろうと、大口を開けたところだった。

 

「……きゃあ!? ご、ごめんなさいね、どうぞ入って入って!」

 

 慌てて菓子を背中に隠しながら、その女生徒は慌てて笑顔を作り、紅たちを部屋に招く。

 

 

 ……綺麗な人、というのが紅の彼女に対する第一印象だった。

 

 おっとりした感じの顔立ちに、さらさらのロングの黒髪。制服の上から指定のカーディガンを羽織っていてもわかる、そのスタイルの良さ。

 首元を飾るリボンタイに入っている線は……紅たち普通科の赤ではなく、緑色。それは、別の専用校舎を持つ芸能科の色だったはずだ。線が二本ということは、二年生の先輩だろう。

 

 

 そんな彼女は、部屋に踏み入った紅たちを眺め……その目が、紅をロックオンした。

 

「あ、あれ、君もしかして……」

 

 経験則からそれ(ロックオン)を瞬時に察した紅は、この後の展開を察して即座に踵を返そうとするが……

 

「きゃー、本物のクリムちゃんだー!?」

「わぶっ!?」

 

 ――魔王様は逃げられない。

 

 頭ひとつ分と少し長身な彼女の、丁度良い高さにある胸へと抱き込まれた紅は……またも窒息しそうになり慌てて少女の体を叩いて抗議する羽目となったのだった。

 

 

 

 ◇

 

「えっと……紅ちゃん、大丈夫?」

「ぜぇ……ぜぇ……何故いつもこんな目に……」

 

 危うく窒息しそうなところを聖に救助され、ぜえはあと呼吸を整えている紅。

 何故か年上のお姉さんにこぞって抱きしめられることに元男としてのプライドがボロボロになるのを感じながら、どうにか落ち着きを取り戻す。

 

「その……ごめんね? 可愛かったものだから、つい」

「うん、もうそれでいいですよ……ところで、私たちって面識ありましたか?」

 

 最初から随分と高い気がする好感度に疑問を感じ、尋ねる。すると……

 

「あ、そうだよね。コレならわかるかな?」

 

 そう言って彼女は棚から大きな狐耳を取り出して、頭につけてみせる。

 

 ……たしかに、なんとなく見覚えがある。

 

 頭の中で、髪の色を桜色に変え、服装を和風に着替えさせれば、その姿は……

 

 

「えっと……サクラさん?」

「はい、大正解ー。私、霧須サクラでーす」

 

 そう、ニコニコと笑いながらパチパチと拍手している少女。

 

「改めて、霧須サクラ、こと、その中身の神楽坂(かぐらざか)(はる)です。よろしくね?」

 

 そう、柔らかな笑顔で皆に握手を求め手を差し出す彼女。

 年上の優しそうな美人さんにドギマギしながら紅も握手を返し、他の人とも握手して回る彼女の様子を観察する。

 

「ゲームで会った時も思ったけど、綺麗な声だねぇ」

「そうだね……」

 

 新進気鋭のVR配信者、霧須サクラ。彼女を語る上で外せないのはその歌唱力であるが……その声に関しては、綺麗すぎるという理由でボイスチェンジャー説が非常に高かった。

 しかしこうして生で会ってみると……とんでもない、配信越しの声よりもずっと美しい声をしていた。それはさながら、精巧な楽器の如く。

 

 

 そんなことを考えているうちに、挨拶も一通り終わり……紅たちは彼女に勧められて、思い思いの場所へと腰掛ける。

 

「それで、神楽坂先輩。見たところ部員が居ないみたいですが、お一人なんですか?」

「ええ、そうよ。この部、私が個人的に立ち上げた同好会だから人員の募集はしてないの。実際にゲーム部らしい事をやってる部活なら『Eスポーツ部』があるからねー」

 

 そう、皆に紅茶を入れてくれながら、説明する桜。

 眼前に置かれた湯気を上げる紙コップに、紅たちはお礼を言いながらその説明を聞いていた。

 

「では、この部屋は先輩一人で使っているんですか?」

「うぅん……私と、あと一人いるわよ。幽霊部員だから、たまにしか顔を出さないんだけど……どうやら、今日は当たりだったみたいねー」

 

 そう、桜がにんまりと笑った――直後。

 

「うーっす、久しぶりっす部ちょ……」

 

 ガチャリ、と部室の扉が開く。

 

「……あっ」

「……君は」

 

 見知った顔に、紅と昴は思わず声を上げる。

 一方、その隙間から顔を覗かせた彼は、硬直したままそんな紅と昴……主に紅の顔を愕然とした様子で眺め――

 

「すんません、部屋間違えたっす」

「あら、間違えてないわよ、()()()

 

 そう言って、彼が迷わずそっとドアを閉じようとした瞬間――いつのまにか側に立っていた桜にドアの隙間にローファーを差し込まれ、首根っこを掴まれて部屋へと引き摺られて入って来た。

 

 案外アグレッシブな動きを見せた桜に引き摺られて、渋々と部屋に入って来た彼は……恨みがましい目で紅を睨み、呟く。

 

「……何でここに居るんだ、魔王様」

「それは……こちらのセリフじゃ……スザク」

 

 愕然とした表情で尋ねてくる彼……スザクに、紅も思わずゲーム内のクリムの口調で聞き返すのだった――……

 


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