Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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来訪者

 

「いやー、本っ当に助かった。このあたりの敵、強いのなんの。えぇと……」

「クリムだよ」

「クリムか。君は強いなぁ」

「そ、そうかな……」

 

 男が興奮気味に手振りまで交えてまくし立てる賛辞に、クリムが照れて頭を掻く。

 

 そのプレイヤーは、自分のことを『リュウノスケ』と名乗った。

 なんでもクエストで見かけた情報が気になって、観光目的でここまで突っ切って旅をしてきたのだそうだ。

 

 そんな話をしているうちに……森を出て、ネーブルの町に到着した。

 

「ようこそ、『泉霧郷ネーブル』へ。リュウノスケが探していた初代皇帝蜂起の地は、多分ここだと思うよ」

「へぇ……どんな場所かと思ったら、牧歌的で風光明媚で、良い場所じゃないか」

「でしょー。私もすごく気に入ってるんだ、この風景」

 

 湖の上にうっすらとかかった霧。その奥にわずかに見える、湖上に浮かぶ古城の影をほへー、と眺めながら、そんな感想を述べる彼……リュウノスケ。

 

 そんな彼の言葉に、クリムは同じ感想を共有できる人物が現れたことが嬉しくて、にへら、と相好を崩して同意する。

 

 だが彼は、ふと違和感に気付いたように、キョロキョロと周囲を見回していた。

 

「……他のプレイヤーが居ないな」

「うん、まだリュウノスケだけだね、ここまで来たのは」

 

 行き交うのは全て、もともとこの町に住んでいるNPCのみ。今までも、他のプレイヤーなど見たこともない。

 

 当然ながら、リュウノスケは一つの疑問に行き当たり、それを口にする。

 

「クリムの嬢ちゃんは、なんでこないな場所に?」

「……不具合で私一人だけ変な場所からはじまってね。仕方ないからここを拠点にしてたんだ」

 

 隠すこともなんだか憚られ、困ったもんだよねと苦笑しながら答える。

 

「仕方ないからって……そんなん、GMに対処してもらえば良かったんじゃないか? この辺りの敵の強さだと初期ステじゃあしんどいだろうに、なんだってそんな茨の道を……」

「んー、まぁそうなんだけど……色々と有利な点が出てきてしまうから、これまでの交流をリセットしないと許可しないって言われたんだよね」

「いや、だからってこんなハードモードで続ける必要が……」

 

 ――そう、リュウノスケが言おうとした時だった。

 

 

 

 物陰に潜み、クリムが町に入ってきてから虎視眈々と機を窺っていたそれが――会話しながら最も近くまで接近してきた今こそ好機とばかりに、飛び出してきたのは。

 

 それは、一直線にクリムの鳩尾あたりを狙って、体ごとぶつかってくる。それは、狙い違わずその細いお腹へと吸い込まれ――

 

 

 

「――お姉ちゃん、おかえりぃ!」

「おっと! 今日もいいタックルだね、ジュナ」

 

 いつも通り飛び掛かってきた少女を回転しながら抱きとめて、上手いこと勢いを殺しながら抱きしめて、その頭を撫でてやる。

 

「でも、危ないからあまり人に飛びついたらダメだぞ?」

「はーい、ごめんなさい」

 

 素直なジュナの謝罪に「よし」と一つ頷いた後、再びリュウノスケのほうへと向き直る。

 

「……とまぁ、こんな感じで。最初の町に移動するならNPCとの関係をリセットするって言われて、それくらいならいいやって」

 

 照れたように、困ったように頬を掻き、苦笑するクリム。

 

「はー……確かにこいつは、簡単に切って捨てられんなぁ」

 

 そんな仲良さげなクリムとジュナの様子に、苦笑するしかないリュウノスケなのだった。

 そんな会話を続ける二人を交互に見上げて、クリムの腕の中にいるジュナが、首を傾げる。

 

「……このおじさん、誰?」

「んっと、私のお友達、かな?」

「おう、よろしくな。オレはリュウノスケってんだ。君は、えぇと……」

「ジュナだよ! よろしくね、リュウおじさん!」

 

 人見知りしないタチなのか、リュウノスケともあっという間に打ち解けているジュナ。

 その頭を優しい笑顔を浮かべて撫でている、そのどこか子供の相手に慣れている様子から、どうやら彼も悪い人ではなさそうで、クリムはホッと安堵の息を吐いた。

 

 しばらくそんなふうに戯れあっていると……

 

「おーい、あんま走り回るなって!」

「ごめんなさい、お兄ちゃん!」

 

 遠くからジュナを呼ぶジョージの声に、彼女はとてとてとそちらに行ってしまう。

 そんな姿を見送りながら……リュウノスケが、ぽつりと呟く。

 

「良いなぁ……確かにこれはリセットできんわ」

「でしょ?」

「うんうん、オレもリアルに娘居るから超わかる。あんな可愛い子に、『誰、このおじさん』とか言われたら、絶対に耐えられん」

 

 微笑ましいものを見る目で、ジョージのもとへ駆けていくジュナを見送るリュウノスケ。

 その様子に、何故かクリムが自慢げに胸を張るのだった。

 

「……とはいえ、一プレイヤーに対しここまで親密なNPCはちょっと見たこと無いな」

「そうなんですか?」

「ああ……オレの知ってるウィンダムのNPCは、常連相手でもちょっと好意的に返答してくれるだけだったぞ」

 

 そう言って、顎髭を指でぞりぞり撫でながら、何かを考えるように真剣な表情をするリュウノスケ。

 

「……もしかしたら、交流するプレイヤーが君しか居なかったせいかもな。他に分散せず君だけと交流していたからじゃないか?」

「ああ……なるほど」

 

 本来ならば大勢のプレイヤーと交流するはずで、そうなるとここに暮らすNPCたちにとって、個々人一人一人の印象が薄くなるはずだった。

 ところが、今までこのネーブルにはプレイヤーはクリム一人しかいなかった。

 そうして……本来ならばプレイヤー皆で分け合うはずだった好感度を、クリム一人が独占してしまったというわけだ。

 

 もちろんこれは推測でしかないが……だが、納得もいく。

 

「それじゃ、これだけ仲良くなれるNPCはまずいないんだね?」

「ああ、多分な。大事にしてやれよ、『お姉ちゃん』?」

「うん……分かってる」

 

 言われるまでもなく、ジョージやジュナ、ルドガーを筆頭にこの町の人々は大好きであるし、これだけ自分を慕わせた責任だってある。

 

 故に、クリムははっきりと頷くのだった。

 

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