Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「……というわけで、これで大体の町の施設は案内し終わったかな?」
「おう、あんがとさん。助かったわ」
「うん、お役に立てたなら良かったよ」
主要な店を一通りと、観光できそうな場所を一通り。
だいたい案内を終えたクリムは、リュウノスケと、途中で合流したジョージとジュナも交えて、泉の畔、城を望むことができるベンチに腰掛けて、途中で買った果実ジュースを飲んでいた。
「……ねーちゃん、それ、全部俺が案内してやった時のマネだったよな?」
「あ、あはは……」
「お姉ちゃんの真似っ子ー」
半眼で睨んでくるジョージと、その様子を楽しそうに眺めているジュナの視線に怯むクリム。リュウノスケはその光景を、どこか微笑ましげに見つめていた。
「こほん。それで……リュウノスケはこの後どうするの?」
「そうだな……今日はここで落ちるわ。『外』はだいぶ良い時間だしな。明日は一日滞在して、観光してるつもりだ」
「そっか、それじゃあまた明日だね」
「おう、それじゃまたな」
そう言って、ログアウトしていくリュウノスケ。
どうやらこの世界のNPCはそれを認識できないらしく、ジュナもジョージも特に反応はしていなかった。
「ログアウト、か……」
リュウノスケが消えた場所を見つめ、ポツリと呟く。
ゲーム内は楽しいが、少しだけ、羨ましいと思うクリムなのだった。
その翌日……いつものようにルドガー家の離れで目覚めたクリムのもとに、
『あ、つながった。久しぶりね紅君。元気にしてた?』
「茜さん? 珍しいですね、わた……俺がログインして以来ですか」
『ええ。今日は、良いニュースを持ってきたのよ』
そう、弾んだ調子で答える茜の様子から、どうやらとても浮かれている様子が伝わってくる。
そして……その理由にも、クリムには心当たりがあった。
「良いニュース……もしかして!」
『ええ……聖も昴も、第一志望に合格したの! これで、来年も紅君と一緒の学校に通えるわ!』
「良かった……! おめでとうございます、俺もすごい嬉しいです!!」
思わずモニター越しに手を合わせ、良かった、良かったとはしゃぐ紅と茜。
『というわけで、紅君がそのゲームをやってるって知った二人も、書類が片付いたらログインするそうだからよろしくね?』
「あ……そうですね、分かりました」
二人と、また一緒に遊べる。
そう思うだけで、クリムの心は浮き立ってくるのだった。
……と、喜んでばかりもいられない。
「とはいえ……どう合流したものかな」
自分のスタート地点がおかしかっただけで、おそらく二人はきちんとログインしてくると思われる。
そんな二人を迎えるためには、クリムも『始まりの街ウィンダム』へと行かないといけないだろう。
だが、クリムはその道を知らない。あらためて特殊な環境にいたことを思い出し、頭を抱えるのだった。
しかし……幸いにも、今は一人じゃない。
「――というわけで、友達を迎えに行きたいんです。知恵を貸してもらえないでしょうか」
この通り、とテーブルに手をついて、頭を下げる。
その相手は……夕方、仕事を終えてログインしてきたリュウノスケだ。
彼が昨日ログアウトした地点で待ち伏せしていたクリムは、彼がログインし次第すぐさまその手を引いて、戸惑う彼を湖畔に立つ東屋へと連れ込んで、事情を説明していた。
強引に連れてきてしまったものの、さすがに大人らしく、真摯に耳を傾けていてくれたリュウノスケ。
「いや、ならテレポーターで……ってそうか、チュートリアルで登録する『ウィンダム』のプラザも動かしたことないのか、君は」
クリムがなぜこのようなことを頼みに来たのかをすぐに気付いて、リュウノスケが顔を手で覆って天を仰ぐ。
テレポーター・プラザで行けるのは、一度作動させたプラザのみ。クリムは、リュウノスケのようにウィンダムへひとっ飛び……とはできないのだ。
「ええ……世界地図もこの町にはないから、地形の把握もできなくて」
「そいつはまぁ、難儀なこって」
「面倒なことを頼んでるのは分かっているんですが……他に頼れる人が居ないんです、お礼になんでもしますから、お願いします!」
必死に頭を下げるクリムに……リュウノスケは、何故か顔を真っ赤にし、口をパクパクと開閉させていた。
だがすぐに気を取り直したらしく、一つ咳払いする。
「……分かった、案内してやる」
「本当!? ありがとう!」
リュウノスケの言葉に、バッと喜色に満ちた顔を上げるクリム。
しかし、そんなクリムとは対照的に、リュウノスケの表情は苦々しいものだった。
「ああ……だけどな!」
ガッと、クリムの両肩を掴んだリュウノスケが、怖いほどに真剣な表情でクリムに詰め寄る。
戸惑うクリムを他所に……彼は、苦々しい表情で口を開いた。
「……クリム。いいか、君の外見でなんでもするとか、絶……っ対に言ったらダメだからな?」
「は、はい……?」
「本当に分かってんだろうな? 無防備すぎんだろ、君は……」
何故か頭を抱えてしまったリュウノスケの様子に……クリムは首を傾げ、頭に疑問符を浮かべるのだった。
出立は明日、リュウノスケが仕事を終えてログインしたらすぐ。
幸い明日と明後日が土曜日と日曜日で休日なため、少しでも遠くまで足を運びたいということだった。
こうして、クリムは善は急げとばかりに行動を始める。
クリムのインベントリを占有していた魔獣の素材などは、リュウノスケのアドバイスを聞いて高く取引できそうなものだけ手元に残し……この町周辺の魔物の毛皮などは相当高品質な素材になるらしく、生産職に売ればお金には困らないだろうということだった……余計なものは売って換金し、旅費に充てる。
そして、薬品や水、携帯食糧など必要なものを買い込んで、旅支度を済ませる。
――そうしてバタバタした1日が終わり……翌日。
「そんじゃ、準備はいいな? 薬は買えるだけ買ったな? ウィンダムのほうは今ポーション類が高騰してるから、売ってよし自分で使って良しだぞ」
「あはは、私は転売で儲ける気はあまり無いよ。でも、そんな状況なら友達も困るだろうから目一杯買ってきた!」
「よし。それじゃ……」
出発、と音頭を取ろうとしたリュウノスケが、途中で言葉を止めた。
何だろう、と首を傾げるクリムだったが……彼は、ちょいちょいとクリムの肩をつつくと、町のほうを指差す。
「の前にクリム。あれ、あれ」
そう言って、リュウノスケが指差した先には……ジュナとジョージが、泣き出す寸前のような表情で佇んでいた。
「お姉ちゃん……」
「おまえ、どっか行っちまうのかよ」
ジュナとジョージ、駆け寄ってきた二人に手を掴んで引き留められ、クリムが嬉しく思う反面、困った顔をする。
「大丈夫、お姉ちゃんは友達を迎えに行ってくるだけだから。ちょっと時間は掛かるけど、必ずこの町に帰ってくるよ」
「絶対だな!?」
「うん、それにほら、せっかく家も建て直してもらってるしね」
クリムが視線で指した彼方には、修繕の始まった家の姿。修復には二週間近くは掛かるそうで……戻ってきた頃には、丁度完成しているだろう。
それは……奇しくも、エリアマスター登録システム解放の日とほぼ一致していた。
「そ……そうか、そうだよな」
納得してもらえたようで、まずはジョージが、それに合わせてジュナのほうも、渋々とクリムの手を解放した。その空いた両手で、二人の頭を撫でる。
「お姉ちゃん……私、いい子で待ってるから、絶対帰ってきてね?」
「うん、もちろん。それじゃ、行ってくるね」
二人に別れを告げて、クリムは黒の森へと踏み出す。
それは……すでに二週間は過ごしたこの町からの、初めての旅立ちだった――……