Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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激昂の魔王様

 

 次々と乱入してくるゾンビたち。

 乱戦模様となった謁見の間にて、クリムは連王国盟主として、仲間たちに矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。

 

「ゾンビはいつ爆破されるか分からぬ、基本的には後衛アタッカーで対処せよ! 撃ち漏らしは……黒狼隊、頼めるか?」

「承知した!」

 

 そう、クリムの指示に返事を返す、黒狼隊の隊長……たしかジェドという、黒髪の犬系ワービーストの青年。その仲間たちも追従し、ぅおん、と咆哮を上げる。

 

「頼む、一歩間違えれば爆破に巻かれる危険な役割だが、幾度も対戦しその実力はよく知っているお主らならば、任せられる」

 

 何度も戦い撃退したからこそ、彼らの現在の実力はクリムも熟知している。だからこそ頭を下げるクリムに……

 

「よし、聞いたなお前ら、あのまおーさまが俺らを信じているそうだ、一体も後ろに漏らすんじゃないぞ!」

「「「おう!!」」」

 

 何故かやけに士気も高く戦場に散開する黒狼隊に首を傾げつつ、クリムは正面で不敵に笑っているビフロンスに対峙する。

 

 

 

『おやおや……それだけの人数で、私を相手取ると?』

 

 ボスであるビフロンスの前に武器を構え対峙するのは、ここに募ったプレイヤー総数の割には、あまりにも少ない。

 

 クリムと、ギルド『ルアシェイア』のメンバー。

 エルミルを筆頭にした、ギルド『銀の翼』のメンバー。

 

 その、たった二つのギルド。

 それ以外は周囲のアンデッド掃除に分散しているのを見て、ビフロンスは侮蔑を浮かべた顔で、采配を取るクリムを見下す。

 

『言っておきますが……私は、不死王よりも強いです……よッ!』

 

 ビフロンスが手にした大鎌を振るうと、生じた三日月型の衝撃波が不意打ち気味にクリムへと襲い掛かった。

 慌てずに弾き返すクリムだったが、しかし衝撃によるノックバックで、その小柄な身体は大きく弾き飛ばされる。

 

「よくもお師匠を!」

 

 クリムが攻撃を受けたことに激昂したように、右手から弧を描くような軌道で詰め寄り、抜刀術の構えのまま肉薄する雛菊。

 

「お前が……お前なんかが彼を語るな……!」

 

 不死王を貶されたことに激昂したエルミルが、ビフロンスの左側から斬りかかる。

 さらにはその背後に無言で出現したセツナも、腰溜めに構えた短刀ごとぶつかるように迫る。

 

 同時に雛菊が右手、エルミルが左手、セツナが背後から三方位一斉に仕掛ける……が。

 

『――甘いですね!』

 

 雛菊の刀を刃で受け流し、エルミルの剣を大鎌の柄で跳ね返し、背後から斬りかかるセツナを躱しざまにその背を蹴り飛ばす。

 

 その無防備なセツナの背へ、ビフロンスは最初の犠牲者を決めたとばかりにその禍々しい大鎌を振り下ろそうとした――その瞬間。

 

 ボンッ、と軽い音を上げて、セツナの体が紙片に変化する。

 

「――甘いのはお主じゃ」

『な――ッ!?』

 

 真正面、思考の外側からの、想定を遥かに超えた速度で飛び込んだクリムの踏み込みにより――それでも咄嗟に繰り出したビフロンスの迎撃は空を切り、その攻撃範囲の内側へと入り込んだクリムの鎌が一息未満の間に二度閃く。

 

 ――ザンッ

 

 重々しい切断音と共に……ビフロンスの腕が宙を舞った。

 それを認識するより早く回避行動を取ったビフロンスだったが、その首が一瞬前まであった場所を漆黒の大鎌の刃が通過し、微かに掠めたのかピッと一筋赤い線が走る。

 

『……馬鹿な、なぜ真っ先に吹き飛ばした貴様が』

「くはは、あんな派手な吹き飛ばされ方なぞブラフに決まっていようが。身体能力と反応速度は大したものじゃが、駆け引きに関してはとんだクソザコじゃなお主。なぁ、ざーこ、ざーこ」

「そうよ、バーカバーカ!」

 

 二撃目を外した事はさほど気にしていないように、大鎌の主……クリムが、その鎌を地面に突き立てて、新たに刀を手の内に作り出しながら嘲りの笑みを浮かべる。

 ついでとばかりにその背後では、幻影により隙を作ったセツナが、あっかんべーしながら便乗して野次を飛ばしていたりする。

 

 一方でそんな二人にさすがに青筋を浮かべたビフロンスの方も、切断された腕から赤い血管のようなものが伸びて、本体の切断面に元通り接合された。

 ダメージこそ蓄積されるみたいだが、どうやら四肢欠損状態にはできないらしいのはさすが悪魔といったところか。

 

『……なるほど慢心ですか、こうも虚仮にされるとは思いませんでしたね』

「ははは、ついさっき大口叩いておいて、ねぇねぇ今どんな気分かのぅ?」

 

 今度は周囲を警戒しつつ、微かにだが額に汗を浮かべ、憎々しげに歪んだ表情でクリムを睨み付けているビフロンス。

 しかしクリムはというと、その視線を受けてむしろ心地良いとばかりに身を震わせながら、首を反らして見下ろす形に蔑みの目を向け、恍惚の表情を浮かべている。

 

「……で、この程度で、お主が不死王よりも何じゃったかな? 我はもう忘れてしもうたから、もう一度言ってみてくれぬかの、ん?」

『……やはり貴女は、好きにはなれませんね』

「は、何を今更言っておる」

 

 嫌いな相手を散々煽り倒して僅かに溜飲を下げたクリムは、すぐに真剣な表情に戻ると、その手にした漆黒の刀の鞘を払ってピタリと彼の額へ切っ先を向ける。

 すると今度は、ビリビリと皮膚を震わせる濃密な怒気がこの場に満ちた。

 

「――お主は、赦さぬ」

 

 そうして、どうやらようやく自分がとんでもないものの尾を踏み抜いたことに気付いたらしいビフロンスへと……クリムは今更遅いとばかりに、激情を瞳に封じたまま不敵に、凄絶に、笑ってみせるのだった。

 

 

 





クリム「てめーはおれを怒らせた」
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