Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「――破軍剣聖、剣軍跳梁、此処に来れ、『刹那幽冥剣』……ッ!!」
クリムの宣言を受けて、これまで場に突き立ててきた十二本の赤と黒の剣が光を放ち、真紅の剣となって浮かび上がる。
ここまでは、皆ももう見慣れた『刹那幽冥剣』。しかしクリムは続けて、乱戦の周囲を見渡して目標へ次々にターゲットカーソルを表示させていく。
――自軍最前線でゾンビたちを抑えている、黒狼隊十人に。
「受け取るがいい、『
クリムが自分で手にした二本を除いた十本の紅剣が、戦場を駆けて先程クリムがロックした黒狼隊十人の前に追従する。
「ま、魔王様、これは?」
「くはは、光栄に思うがいいぞ! レプリカとはいえ赤帝十二剣、今一時の間じゃがお主らに預ける、手にするなり操るなり、好きに使うがいい!」
「――ありがたい!」
黒狼隊のリーダーであるジェドの戸惑いの声に、クリムは鼓舞で返答する。すると彼らから歓声が上がると共に周囲のゾンビたちの駆逐速度が目に見えて上がる。
――クリムが従える十二本の紅剣を、自らが使うのではなく仲間たちに授けるEXドライヴ派生スキル『
強力な武器を得ただけではなく、可愛らしい魔王様から大昔の英雄の武器を下賜されたという、男の子の好きなものの詰め合わせ、サブカルチャーを嗜む者にとって夢のような状況。
一時的なものとはいえ、それによる精神的な高揚の効果は顕著であり、今や彼らは盟主であるクリムのために剣を捧げたバーサーカーのようなものだった。
『くっ……コープス・エクスプロー……』
「させませんです!」
「それは許さない、の!」
一気に劣勢となった状況へ、苛立たしげに指を鳴らそうとしたビフロンスだったが――その瞬間の隙を見逃さず、雛菊がその右腕を斬り飛ばした。
ならばと左手の大鎌を手放し同じことをしようとするも、しかしそれはリコリスの放った光弾が飛来したために、それを防がなければならないため叶わない。
そうして彼は、悔しげに表情を歪め片手で振り回した大鎌で光弾を弾きながら後退する。
『用意にはひどくに手間がかかったのをここで捨て石に使うのはあまりにも惜しいですが……やむを得ませんね!!』
心底忌々しげにそう言って、カッと踵を鳴らすビフロンス。
すわ『コープス・エクスプロージョン』かと思い皆が身構えるが……だがしかし、今いるゾンビたちが炸裂する様子は無い。
だが、代わりに床のあちこちから発生する紫色の禍々しい色の魔法陣。
そこから……何者かが姿を表す。
「召喚陣……か?」
油断なく周囲のゾンビを両手に持った紅剣で斬り払いながら、召喚陣を見つめるクリム。
周囲の皆も同様に固唾を呑んで見守る中、姿を表したのは……
「って、なんだよまたゾンビじゃ……」
「迂闊に近寄るでない!」
現れたのは……無数の、しかし外見だけならばまたもゾンビそのもの。落胆したように手近な一体に近寄るプレイヤーの一人に、クリムが咄嗟に静止の声を上げる。
直後……新手のゾンビの前面が、膨れ上がったように見えた。
「へ……うわっ!?」
不用意に近寄ったプレイヤーに襲いかかったもの……それは、鋭利な切先を見せて伸びた肋骨。
咄嗟にカバーに割って入ったクリムがその骨の槍を切り飛ばすも、新手のゾンビたちはそのままゴキゴキと音を鳴らしながら、骨を、肉を、肉体を武器に変えてグロテスクに変貌していく。
「な、なんだこいつら!?」
そんな凶悪なゾンビたちと乱戦に持ち込まれ、騒然となるプレイヤーたちだったが、クリムはその中を駆け回って皆のフォローをしながら混乱を鎮めるために声を張り上げる。
「――慌てるな! 見た目はアレじゃが、落ち着いて対処すれば問題無いはずじゃ!!」
事実、グロテスクで衝撃的な行動の視覚的インパクトは強いが、能力そのものはゾンビを2〜3回りくらい強化した感じであり、まだルルイエのエネミーの方が大変だったはず。
それを乗り越えてきたこの場のプレイヤーたちには、冷静に対処すればなんとかなる程度でしかない。
「そ……そうだよな」
「陣形を崩すな、敵自体は黒狼隊が止めてくれている!」
「まおーさまだって頑張っているんだから、怖がっている場合じゃないな!」
「ああ、なるほどそれは負けてらんないな!」
「どういう意味じゃお主らー!?」
一番この中でホラー耐性がなかったはずのクリムの一喝に、すぐさま皆冷静さを取り戻す。そうして徐々に体勢を立て直していくプレイヤーたちを眺めながら。
「全く……それよりもビフロンスの奴めは」
はっと周囲を見回すと……そこには、あの悪魔の姿は見当たらない。
気配遮断系の何かかと思い、斥候技能が最も高いセツナに目を向けるも……彼女は首を横に振った。
「――あの野郎逃げやがったな!?」
「クリムちゃん、今はそんなこと言ってる場合じゃないよー!」
「っとと、そうじゃったな、すまぬ!」
思わず素で激昂しかけたクリムだったが、フレイヤの言葉にすぐ我に帰り戦場に視線を巡らせる。
胴体を突き破って鋭利な肋骨を伸ばして攻撃してくるゾンビなど、まともな存在のはずが無い。
そのため、乱戦の中でクリムがざっと鑑定すると、そこには……
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【
多数の生者、もしくは同じゾンビを喰らい続けたアンデッド。
食らった相手の魔力を取り込み成長しており、非常に凶暴、かつ能力も高い。思考は汚染されており、目についたものを殺して喰らう事のみのために動いている。
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「おのれド畜生めが、まるで蠱毒じゃな……!?」
「あの野郎、人をなんだと思っていやがる……ッ!」
新手のゾンビを調べ、その内容のあまりの胸糞の悪さに悪態をつくクリムとエルミル。
「本当許せない……クリムちゃん、こっちは私達に任せてあいつをぶっ飛ばしに行って、お願い!」
「ああ、心得た……!」
今まさにクリムへと飛びかかってきた食屍鬼との間に割り込み、切り結びながら叫ぶカスミ。そんな彼女に頷き、クリムは踵を返す。
「フレイ、この場の指揮はお前に任せるぞ、フレイヤは皆を頼む!」
「ああ、行ってこい!」
「任せて、一人も欠けさせずにすぐ追いかけるから!」
揃って頷く、背中合わせになって迫るアンデッドたちを相手に魔法で牽制しているフレイとフレイヤの二人。
「セツナ、それとエルミル、お主ら二人は我と共に来い、奴を追うぞ!」
「了解、任せてお館様!」
「ああ、決着をつけよう!」
クリムの呼びかけに即座に着いてくる二人を伴って、ホールから飛び出した三人は、ビフロンスの逃げた先と思われる砦の上へと駆け出した。
……と、そんな時だった。
「――あの、お姉ちゃん」
「ん、どうしたルージュ?」
これまで、危険な戦闘中はずっとクリムの胸ポケットで静かに観戦していたはずの妖精姿をしたルージュが、不意に声をかけてきた。
何だろうと首を傾げるクリムに……
「……気をつけて。なんだか、上からもう一つ、
「……なるほどな、分かった」
不安げに上方を見上げながらのルージュの忠告に対しクリムは一つ頷くと、あとは黙々と、砦のやたら勾配が急な階段を跳ぶように駆け上がるのだった。
――この地においての最終決戦、逃げた悪魔ビフロンスが何故か待ち構えている気配の残る、砦屋上へと向かって。