Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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月下の決戦②

 

『貴女さえ居なければ……!』

 

 どこか恐れを含んだビフロンスの叫びとともに、クリムへと目掛け振るわれる、巨大さに似合った広域を薙ぎ払う死神の大鎌。

 

 まともに食らえば、耐久力はそれほどではないクリムのライフなどあっさり吹き飛ばされようその一撃が迫る、が。

 

「させるかぁ!!」

 

 その鎌が振るわれる中、しかしクリムの側面へと身を滑らせてカバーに入ったエルミルの、耐久力を上げるスキルをいくつも重ね掛けした盾が、クリムに刃が届く前にその一撃を受け止める。

 

 更には……ビフロンスのその左手に、じゃらっと絡みつくものがあった。それは、セツナが放った鎖分銅。

 

『このようなちゃちな鎖など……』

「そんな慢心が命取りよ、爆!」

『ぐ……っ!?』

 

 鎖に括り付けられていた札……セツナの愛用する爆雷符が、ボンっ、と音を上げて炸裂する。

 それ自体には大したダメージは見込めなかったものの、その衝撃はビフロンスの左手を弾き飛ばし、無防備な一瞬を無理矢理に作り上げていた。

 

「――『シックルムーン』!」

 

 当然、二人が作ったそんな隙を見逃すクリムではない。

 

 エルミルが死神の鎌を死に物狂いで防ぎ作った安全空間へと、無理矢理その小柄な体を滑り込ませたクリムが、地を擦り上げるようにして弧を描く斬撃を放つ。

 

 その斬撃はビフロンスの左手を半ばから断ち切って、紅い三日月の軌跡を描いた。

 

『おのれおのれおのれオノレェ!?』

 

 飛んでいく己が腕を目にして激昂したビフロンスの周囲から無数の召喚陣が現れて、そこから禍々しい真紅の骨で構成されたスケルトンの軍団が、続々と溢れ出す。

 

「まだこのような戦力を隠しておったか……!!」

『気をつけてください、奥にはリッチと思しき者もいます!』

「と、言われてもなぁ!?」

 

 アルベリヒが警告をしてくれるが、すっかり囲まれているクリムも、今はそれどころではない。

 目の前に立ち塞がる仮称レッドスケルトンを数体まとめて切り払いながら、足を止めることなく走り回り、とにかくいまは後方のリッチが放つ魔法を喰らわないようにする。

 

『魔力による強化を施したスケルトンでさえこうも足留めにすらならないですか、ならば……!』

 

 と、忌々しげな声をビフロンスが絞り出すと同時に、レッドスケルトンの動きが変わった。

 武器をかなぐり捨てて、捨て身で突っ込んでくるそのスケルトンは、クリムの振るう大剣に薙ぎ払われ身体を砕かれながらも、しかしクリムに縋り付こうと飛び付いてくる。

 

 ――嫌な予感がした。

 

 即座に張り付いたスケルトンを蹴りとばした直後――床に落下する前に、その姿が火炎となって巻き上がる。

 

「貴様……この期に及んでまだ……っ」

『貴女が炎に弱いのは、先刻承知ですからねぇ……消え去りなさい、人の中に生まれ出た化け物めが……!!』

「待てコラなんで死神の悪魔に化け物呼ばわりされてんの我、解せねぇ!?」

 

 必死に『コープス・エクスプロージョン』に巻き込まれないように群がる骸骨を吹き飛ばし、振り切りながら駆け回るも、あまりにも数が違いすぎる。

 

 ジリジリと狭まる包囲網に、いよいよ追い詰められた――その時。

 

 

 ――チュン。

 

 

 そんな軽い音を上げ飛来した光弾が、今まさにクリムにしがみつこうとしていたレッドスケルトンに命中し、輝く十字のエフェクトを放って吹き飛ばす。

 

「……来たか!」

 

 光弾が飛来した方へ目を向けると、そこにはしゃがんだ体勢で長銃を構える、見慣れた機械の少女の姿。そして――

 

「――この魂に、憐れみを! 『キリエ・エレイソン』!!」

 

 そのすぐ後を追うようにして屋上に飛び込んでくるなり、法衣ををはためかせたエルフの少女――フレイヤが放った魔法が光の柱となって、クリムを追っていたレッドスケルトンたちへと降り注いだ。

 

 ――神聖魔法、範囲退魔魔法『キリエ・エレイソン』。

 

 その光を浴びたスケルトンは、天に還るようにその姿を溶かして消え去っていく。

 

「間に合いました!」

「お待たせ、クリムちゃん!」

「悪いな、少し手間取った! 『失墜する天空』!!」

 

 さらに、続いて飛び込んできたフレイの召喚した小さな太陽が屋上のど真ん中に出現し、その周囲にいたレッドスケルトンたちを灰へと還していく。

 

「みんな、魔王さまを助けるわよ!」

「全員、突撃ー! なのです!!」

「「「おぉおおおおおお!!」」」

 

 カスミと雛菊を先頭に、『失墜する天空』を避けて左右に分かれ雪崩れ込んでいく前衛陣。それは、フレイヤとフレイの放った大魔法の撃ち漏らしへと群がるように襲い掛かり、瞬く間に解体していく。

 

 

 ――もはや、趨勢は完全にクリムたちへと傾いた。

 

 

「お館様、この不肖セツナ、あのリッチを抑えて道を拓きます!」

「お、ぉお? いけるのか?」

「はい、任せてください!」

 

 元気に、自信に満ちた様子で返事をしたセツナは、ババッと何らかの印を組み、胸元で手を組み合わせ、そして……

 

「今こそお見せしましょう、この私、隠鬼の本気を! 『転身』――『星覧黄姫(せいらんおうき)』!!」

 

 ――瞬間、セツナの姿がぶわっと膨れ上がったように見えた。

 

 

 瞬きするほどの一瞬で、セツナの姿が変貌していた。

 

 鉤爪の伸びた金色の体毛を纏う手と、長く伸びた豊かな金髪。やや吊り目がちになった目の中心、その縦に長い瞳孔を持つ瞳は金色に輝き、肌にはあちこちに赤い模様が走り、口元には牙が伸びている

 

 そして……背には、圧倒的質量(もふもふ)の金色の尾が九本。先ほど膨れ上がったように見えたのは、この尾のせいだろう。

 

 

「エルミルお兄さん、そっちのもう一体のリッチは任せたから!」

「お、おぅ……!?」

 

 少女の変貌に目を白黒させながらも、指示に従い二体居るリッチのうち一体を抑えに回った彼を横目に……完全に人外の姿へと変貌したセツナは、雷光のようなものを纏い、凄まじい速度で残るもう一体のリッチへと体ごとぶつかっていく。

 

 ――疾い。

 

 クリムですら舌を巻いた。そのスピードは、ブレイク・ブラッドを使用したクリムに匹敵するくらいだろうか。

 金色の残影を曳いて勢いのままリッチを地面に引きずり倒した彼女は、そのままマウントポジションを取ってその爪と左手に逆手に持った短刀で苛烈な攻撃を繰り返している。

 

 ビクンビクンとその身を痙攣させているリッチという、凄惨なはずなのにどこか冗談のような光景。

 

 唖然としそうになるのをしかし振り切って、皆の援護によってフリーとなったクリムは一直線にビフロンスへと肉薄する。

 

「仕舞いにしようぞビフロンス! 『スカージ』!!」

 

 怯えたかのように鎌を構えてガードの体勢を取ったビフロンスだったが、残像を残すほどの速度で踏み切ったクリムは、星空を背景としたこの戦場をまるで一閃の雷光の如き赤い軌跡を残して貫き、その『ラグナロクウェポン』の刃を振り下ろした。

 

『……ぐっ、あ!?』

 

 くぐもった苦悶の声が上がる。

 

 ――両手剣技『スカージ』。天罰の名を持つ、一瞬で距離を詰め斬りかかる突進技。

 

 その一閃は、ビフロンスがその振り下ろされた刃を受け止めようと掲げた大鎌の柄を断ち割って、巨大な身体に光の傷痕を浅く残す。

 

 手応えは浅い、が。

 振り切った体勢、本来ならば硬直状態になるその体勢を次の攻撃の始動ポーズで揃え、終点と始点を接続(コネクト)されたクリムの手が跳ね上がる。

 

「――おぉぉおおおおッ!! 『レゾリューション』ッ!!」

 

 大剣を手にしたクリムの体が、旋風のように舞った。

 

 螺旋を描いて駒のように三回転し、浮き上がった空中で体勢を入れ替えて回転の勢いのまま、三日月を描く強烈なフィニッシュの袈裟斬りへと流れるように繰り出される黄昏色の刃。

 それは、武器である死神の鎌を失い為す術なく立ち尽くすビフロンスの身体を縦横に走り、そのライフを瞬く間にくらい尽くしていく。

 

『う……そだ、こんな、私がこのような……小娘に……ッ!?』

 

 愕然とした様子で固まったビフロンスの……胸から下がゴトリとずり落ちて、床に触れる端から塵になって宙へ散っていく。

 

 残る胸から上の部分は元の青年の姿となって、どしゃりと屋上の床へと転がるも……両腕と下肢を失い、しかし結果を受け入れられず呆然と天を見上げる彼に、もはや戦う力が残っていないのは誰の目から見ても明白だった――……

 


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