Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
ビフロンスを無力化した後の戦闘は、拍子抜けするほどにあっさりと終結した。
セツナの『転身』……もふもふの九尾を生やした姿などのツッコミどころはあるものの、最優先で処理すべき案件は……
『参りましたね……どうやら、私の完敗ですか』
「ああ、我らの勝ちじゃ。やけに殊勝な態度じゃな?」
『……これでは文字通り手も足も出ませんからね。さあ、勝者として一思いに決着をつけたらいかがですか?』
手足全て失いラグナロクウェポンの切先を突きつけられ、観念したように目を伏せるビフロンス。どうやら、万策尽きたのは本当らしい。
「そうじゃな……じゃがそれは、我よりも相応しい者がいる。お主に止めを刺すのは、我の仕事ではない故にな」
そう告げて、クリムは半身をずらして背後に居た者に道を譲る。
そこには、目に爛々と怒りを湛えた幽霊……アルベリヒが、まるで虫を見るような目で床に転がるビフロンスを睨んでいた。
『導師アルベリヒ……なるほど。よもや、君に滅される日が来るとはな』
『ええ、お別れです。皆の無念を抱えて地獄へ行くといい』
そう告げて、アルベリヒが己が霊体全てを賭した最後の魔法――あるいは呪詛を編む。
そんな光景を見上げていたビフロンスは、しかし全てを諦めたように、ただ目を閉じた。
――はずだった。
「あらぁ、諦めちゃうの? なら私が有効活用してあげる」
「何!?」
アルベリヒの最後の一撃が放たれるその直前、その魔法を遮るようにして、突如屋上の床を突き破って無数の木の根が飛び出してきた。
それは、身動きできないビフロンスを取り込んで十メートル以上も伸びると……その上に、夜の闇から滲み出すように姿を現す影。
その、深紅を基調としたゴシックロリータを纏い、上からやはり紅のローブを羽織った者の姿には……クリムにも、嫌というほど見覚えがあった。
「――お久しぶり、可愛いらしい魔王さま、それと……あらまあ、そちらのおチビさんは随分と可愛らしい姿をしていること」
根の上に腰掛け、気色ばむクリムとその胸ポケットで青ざめているルージュに向けてクスクスと嗤うその姿。
「お前……ベリアル――ッ!!」
クリムの叫びに周囲のプレイヤーが反応し、一斉に敵意も露わに武器を構える。
だが、彼女はそんなクリムたちには興味無さそうに、今しがた回収したビフロンスに手を掲げると、その大半を失った体に魔力を譲渡し再生させている。
その行動に愕然としていたのは……他ならぬ、助けられているビフロンス自身。
『……何のつもりですか、貴女はそんな情に厚いキャラではないでしょう?』
「勘違いしないでくださいましね、私はあなたに利用価値があると思ったから拾うだけ、決して同僚意識などではなくてよ?」
何やら楽しげに囀る彼女に、しかしビフロンスは苦々しい表情で吐き捨てる。
『……よもや、貴女のような毒婦に借りを作るとは。いつか、ここで死んでおけば良かったと後悔しない事を祈るばかりですね』
「待……っ!?」
クリムは制止しようとするも……ビフロンスの姿は、そのまま綺麗さっぱりとこの場から消えてしまった。
「それでは……この場でその憎らしい可愛い顔を吹き飛ばしてやりたい気持ちは山々なのですが、本日はこれにて失礼しますわ、『赤の魔王』さま?」
そう嫣然と笑みを浮かべ、スカートを摘んで優雅に一礼するベリアル。
次の瞬間には……こちらもその姿は、屋上から完全に姿を消してしまっていた。
「……逃げたか。いや、退いた、か?」
「ああ……あやつめ、一体何を企んでいる?」
皆を代表したフレイの確認に、クリムは苦々しい表情で頷く。
ベリアルの立ち去ったガーランド砦の屋上は、すっかりと穏やかな静寂に包まれていた。これ以上何も起こらないというのを確認した後、皆、釈然としないままに武器を下ろす。
そんな中……一人、アルベリヒはただ星空を見上げていた。
『参りましたね……死に損ねてしまいました。いや、既に死んでいる身ですから、逝き損ねた、でしょうか?』
困ったような苦笑を浮かべながら、アルベリヒが呟く。
ベリアルの乱入によって最後の一撃が不発となり、しかも怨敵が生き残っていたことで、彼は現世を去る理由を残してしまっていた。
『本当に……どうしたらいいのでしょうね、いや、困りました』
「そっか、なら、しばらく俺たちに付き合ってくれないか?」
『……ほう?』
己が身の振り方を悩むアルベリヒに声を掛けたのは……意外にも、エルミルだった。
「俺たちはさ、この砦を修繕してここに拠点を作る気なんだよ。もちろん、街も人を募って復興させてな」
『はぁ、それは、今を生きるあなた方の自由にすれば良いと私は思いますが……』
「それでさ。この城砦、構造が複雑だし手直しするにもアドバイザーが居る。やることがないというならば、俺たちに付き合ってはくれないか?」
『……私、幽霊なのですが。よろしいので?』
「ああ、もちろんだとも!」
ニッと笑顔を浮かべ、胸甲を手甲でガンっ、と叩くエルミル。
そんな様子を見て……アルベリヒは、仕方ないですねと苦笑を浮かべる。
『では、いつか未練を全て消化して天に還る時まで、よろしくお願いします』
そう、彼は少し嬉しそうな表情を浮かべながら、エルミルの手を握る素振りを見せて頷く。
こうして、これからクリムたち『ルアシェイア連王同盟国』の新たな拠点として新生する城砦都市ガーランドに、少し風変わりな顧問魔術師が誕生したのだった――……