Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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衣装合わせ

 

 ――学園祭、二日前。

 

 この日は芸能科は各々の出し物の総仕上げであり、明日は全体予行練習日。そのため紅の芸能科へ出向しての練習は昨日で終わりとなっていた。

 

 ――やれる事は、可能な限りやったはずだ。

 

 あとは、本番に備え英気を養うのみ……の前に、紅にはまだ、やるべき事があるのだった。

 

 

 ――という訳で、久々に残る気がする放課後の教室。

 

「はい、紅ちゃん。今度はこっちを着るんだよ」

「あぁあああリアルで着るの面倒くさいなぁこのタイプの服ぅ!?」

 

 次々と聖から渡されていく服に、紅が頭を掻きむしる。

 紅は今、クラスの出し物であるコスプレ喫茶店の衣装、その着付けに四苦八苦しているのだった。

 

 

 

 

 

 ――今日は、喫茶店で接客に出る班の衣装合わせの日。

 

 そんな中、紅が着せられた服はというと……

 

 

 あちこちにフリルのあしらわれた、長袖のブラウス。

 たっぷりのレースとフリルを湛えた、パニエが入っているためふわりと膨らむスカート。

 

 生地はわりとかっちりしたものであり、ブラウスの上に着ているのはスカート同色の、腰回りがタイトなベストなせいで少し軍服っぽい雰囲気があるが……黒をベースに赤い色の入った重たい雰囲気のドレス、それは紛れもなく『ゴシックロリータ』と呼ばれる類の衣装だった。

 

 

 

 よく用意できたなぁと思う、その気合いの入り過ぎた紅の衣装。

 

「どうかな、サイズがキツい場所とかは無い?」

「うん、大丈夫……だけど」

 

 こちらは白の和装という雪女を模した服を纏う聖に問い掛けられ、鏡の前であちこち服装の検分しながら、紅は釈然としない様子で頷く。

 

「わ、私の配役って一体……」

「紅ちゃんは吸血鬼のお姫様だよ!」

「……はぁ」

 

 紅の疑問に答えてくれた聖の言葉に、紅はものすごく微妙な顔をする。

 

 ――そのまんますぎる。

 

 何が悲しくて、本物の吸血鬼が吸血鬼のコスプレをしなければならないのか。

 

 周囲は赤ずきんやらアリスやらの童話系のキャラクターもちらほら居るものの、大半は人狼やキョンシーなどの魔物系だというのに。

 

 ――おい誰だサキュバスの衣装なんか用意した奴。あ、NG出た? まあ学校行事だし当然だよね。

 

 そんな現実逃避をしている間にも、紅の衣装合わせは着々と進み……我に返った時には、すっかりフリルまみれになっていた。

 

 

 ――いや、まあ、可愛いとは思うけどさ。

 

 

 あらためて鏡を見ながら、ひとりごちる。

 

 これ以上ないくらいに女の子を全面に押し出した衣装なのだ、それ自体が可愛いの具現化と言ってもいい。

 しかも自惚れ抜きの客観視でも、現実離れした紅の容姿にはその日常から乖離した衣装はよく似合っている。

 

 中にパニエが入っているためふわふわ広がるスカートを不思議そうに翻しながら、鏡に映る自分の姿を見聞する。

 

 

 ――なんか、懐かしいというか、しっくり来るのが嫌だ。

 

 

 不意に感じる既視感。思えば『Destiny Unchain Online』でも最初のギルドランク決定戦までの初期の頃に着ていたなぁこんな服……などと、まだ半年と少し前のことを懐かしく思いながら、鏡から離れる。

 

「うん……ま、いいか。私の分も用意してくれてありがとう。それと今まであまりクラスの手伝いができなくて、本当にごめんなさい」

 

 そう、何故か一同揃って心配そうにこちらを凝視していたクラスメイトに笑いかけると、途端にホッと安堵の空気が教室に流れる。

 

 そんな空気に、もしかして自分はそんな不機嫌そうだったのだろうかと頬の筋肉を手でむにむに解しながら反省する。せっかく皆が用意してくれた衣装であり、微妙な気分にはなりはしたが、そこまで嫌だというわけでもないのだし。

 

「いやあ、しかし皆で衣装を着ると壮観だねー」

「そうだね、あとはメイクをどうするかだけど……満月さん、桜先輩のツテの話はどうなったのかな?」

「あ、それは……」

 

 と、そんな話を始めた、ちょうどその時だった。

 

「おっと、グッドタイミングだったみたいね」

 

 教室に入ってきた、一人の女生徒。

 その瞬間にわかにクラスが騒然となったのは、その生徒が芸能科の先輩だったからだ。

 

 女生徒……桜は、上機嫌な様子で報告を始める。

 

「満月さんに頼まれたヘアモの子たちとの交渉、当日手伝いオーケー出たよ。なんでも『一回特殊メイクやってみたい!』って子、結構居たみたいだね」

 

 そう明るいニュースを告げる桜の言葉に、クラス皆からワッと歓声が上がる。

 

 ……ヘアモというのは、芸能科とも提携している、この地域では有名な美容系の専門学校の略称だ。

 

 司会に協力する見返りという訳ではないのだが……桜に相談してみたところ、快く交渉を引き受けてくれた。それがついに実を結び、向こうからも了解を得られたらしい。

 

 喜びの歓声に包まれる紅たち『1-A』の教室を見回してうんうんと頷いていた桜だったが……不意に、紅の姿をマジマジと見つめ、呟く。

 

「でも、満月さんなら今年のプリンセス賞もいけそうね」

「もちろん、狙ってます!」

「うちの満月さんは芸能科にだって負けませんからね!」

「え、あの、皆? プリ……何?」

 

 何やら桜の発した単語にクラス全体が色めきだったのを見て、紅が一人戸惑いの声を上げる。

 

「ええと、お母さんに聞いた事があるなぁ」

「知っているの、委員長!?」

 

 思わず聞き返す紅に、少し自信無さそうに頷く佳澄が、訥々と語り始める。

 

「う、うん。なんでも昔、お母さんが学生だった時代に、事情があってミスコンにノミネート出来なかった子に来客の票が集中しちゃうトラブルがあったらしいのよ」

「それは……すごいね……」

「うん。それでその子が、まるでどこかのお姫様みたいな子だったんだって。で、そんな事がないようにするための受け皿として、翌年からミスコンとは別枠の、ノミネート無関係の自由投票部門を設けたのがその『プリンセス賞』の始まりだって、私はお母さんから聞いたかな」

 

 そう、賞の起源を説明してくれる佳澄。彼女は桜にこれで合っているか目で尋ねると、桜が合っているよと頷く。

 

「それが、今ではすっかり伝統になってしまっているんだって、私もお母さんに聞いたかなー」

「逆に、ミスコンの方はだいぶ前に終わっちゃったんだけどね。派生が残るってすごいよねぇ」

 

 佳澄の説明に、聖と桜が補足してくれる。どうやら何十年と続く由緒ある賞らしい。

 

「じゃあこの服って、それを狙ってこんな張り切って用意しちゃったの?」

「頑張ってね、満月さん!」

 

 佳澄を先頭に満面の笑顔で応援してくるクラス一同。その期待に輝く目に、逃げ場はないと悟った紅はただ、がっくりと肩を落とすのだった。

 

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