Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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予行練習

 

 

 

 今日は、全校でのステージ発表の予行練習の日。

 実際にステージを使用して練習できるのは今日だけとあり……ステージ発表用のホールは、ある種異様な緊張感と熱気に包まれていた。

 

 そんな中……自分の箇所の練習は先程終えた紅は、見学を許された聖と昴と共に並び、他の人のステージから何か学べる事はないかと、壇上を食い入るように見つめていた。

 

 

 

「やあ、今日も君は勉強熱心だねぇ。感心感心」

 

 そう、首に掛けたスポーツタオルで汗を拭いながら声を掛けて来たのは……ジャージにTシャツというラフな格好の桜。

 

「お疲れ様です、これ、どうぞ」

「お、ありがとう。気が利くねーいい子いい子」

 

 紅などよりも遥かに長い時間ずっと壇上で練習をしていた桜を労い、紅は用意していたスポーツドリンクをさっと差し出すと……彼女は嬉しそうに受け取ると、紅の頭をポンポン撫でる。

 

 あくまでもサポートである紅たちサブ司会と違い、桜はメイン司会としてずっと出ずっぱりになる。

 本番は予行練習とは違い、皆がステージ発表している間は休憩が取れるというが、それでも丸二日は大変だろう。

 

 しかし彼女はそんな事はおくびにも出さず、ニコニコと紅の頭を撫でている。完全に子供扱いされている形ではあるが、今はあまり気にならなかった。

 

「満月さんも、一週間前とはまるで見違えるような司会ぶりだったよ。本当によく頑張ったね」

「そ、そうですか……? でも、そうだとしたら全部、稽古を付けてくれた先輩方のおかげです、ありがとうございました」

 

 褒められたことに照れて小さくなりながら、紅が礼を述べる。すると……

 

「もーこの子本当に可愛いこと言うんだからー!」

「む〜〜っ!?」

 

 嫌な気配を察し咄嗟に後退しようとした紅だったが、まおーさまはやはり逃げられない。

 即座に捕まって抱きしめられ、何にとは言わないが柔らかいものに顔を突っ込んで呼吸が遮られ、慌てた様子で桜の腕を叩いてタップする。

 

「あの、桜先輩! 紅ちゃん、流石に苦しそうな顔色になって来ているんですが……」

「あ、ごめんねー」

 

 だんだん顔色が赤から青に変わりかけてきた紅を見かね、聖が助け舟を出してくれる。

 

「だ、大丈夫、紅ちゃん?」

「……死ぬかと、思った」

 

 解放され、酸欠気味でふらふら倒れ込んだところを聖に慌てて抱き止められ、その腕の中でほっと一息吐く。

 

「お前さ、わざと捕まってないか?」

「違うんだ……悪意なら咄嗟に体が動くんだけど、善意だから反応できないだけなんだ……」

 

 呆れたように尋ねる昴に、紅はなんとか反論する。

 

 聖といい、桜といい、全員100パーセント好意により捕獲してくるため……紅の普段は鋭敏なセンサーが仇となって回避が遅れ、結果としてなす術なく捕まるのだと、紅は最近になってようやく理解した。

 

「……野生動物みたいな奴だな」

「ほっといてくれ……」

 

 可愛がろうとしてくるお姉さん気質の人々は、もはや天敵であるとわからせられた紅は、ただがっくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

「やあ、皆なかなかいい感じじゃないか」

「やっほー、みんなお疲れ様ー」

 

 桜も交えて壁際に座り、舞台を眺めながら駄弁っていた紅たちのところにやって来たのは……最後のトリとして芸能科全員で行う演劇のリハーサルを終えた、黒乃と藍華。

 

「ええ、おかげさまで。やれることはやったつもりです。あと、アドリブが必要になった時にちょっと不安ですが」

「そうかい? 私から見ると、結構できていると思うけど」

「本当ですか!?」

 

 まさかの師範役である黒乃からの太鼓判に、紅がパッと表情を明るくする。

 

「あとは……まあ、君はちょっと真面目過ぎるきらいがあるから、気楽に行くことかな。自分も楽しむくらいのつもりで、ね」

「楽しむ事……ですか?」

「何も難しいことじゃない。君は、ゲーム内で動画配信している時、楽しいだろう?」

 

 黒乃のその言葉は、質問というよりは確認。その言葉に、紅はハッとする。

 

 すっかり小慣れてしまった最近は惰性になりがちではあったものの、確かに彼女の指摘通り……視聴者のへんたいさんの相手のツッコミとか色々大変なこともあるが……配信して視聴者と色々な話をするのは、紅自身も楽しんでやっている。いたはずだ。

 

 そんな何かに気付いた紅の様子を見て、先輩達は満足気に頷く。

 

「『クリムちゃん』が読者のコメントを読み上げている時、すごい生き生きしていて良いな、っていつも思って見ていたんだよ」

「大丈夫、何かやらかしてもお姉さんが受け止めてあげるから、どーんと自信を持ってやっちゃいなさい!」

「……はい!」

 

 藍華と桜からも口々に言葉を貰い、紅も緊張が溶けて消えていくのを感じる。

 あとは、当日ぶつかっていくのみ――そう決心した、そんな時だった。

 

 

「それで、ねぇ満月さん。役目を引き受けてくれた君に、私たちから贈り物があるんだけど……ちょっと来てもらっていいかな?」

「……?」

 

 藍華の手招きに、紅が首を傾げながらも立ち上がり、ほいほいついていく。

 

 その後ろからは、芸能科の、何度か練習で顔を合わせたこともある二年生の先輩達も、なぜかゾロゾロついてきていた。

 

 

 

 あるいは――この時点で気付くことができていれば、未来は変えられたのかもしれない。

 

 しかし前述の通り、紅は悪意には敏感でも善意には鈍感なため、『小さくて可愛い普通科のお姫様を愛でたい』という彼女たち芸能科のお姉様方の下心には気付くことができなかった。

 

 

 

 そうして、まんまと案内されたステージ脇の控え室。

 

「満月さんに見せたいものは……これだー!」

 

 バァン、と効果音の鳴り響きそうな勢いで藍華が指し示したのは……一着の衣装。

 

 あきらかに小柄な少女向けに仕立て上げられたその、ひらひらのスカート、煌びやかな衣装、それはまさしく――アイドルグループのステージ衣装。

 

 それを見てダラダラと冷や汗を流していた紅は……即座に、踵を返すことを決めた。

 

「……じゃ、私帰りますね!」

「「「逃がさないわ!」」」

 

 そんな紅の行く手を阻む、芸能科の先輩の女の子たち。

 

「ずっと、着飾ってあげたかったのを我慢していたの……もういいわよね!」

「ああっ、ノーメイクなんて勿体ない、貴女は磨けば光る逸材なの……!」

「……ちっちゃい、かわいい……」

 

 何やら危険な光を宿した彼女たちが、ジリジリと詰めよってくる。

 

 ――その光景は、ゾンビなどより遥かにホラーだった。

 

 そんな少女たちの様子に顔を真っ青にしながら、紅は瞬時に視線を巡らせて、どうにか逃げ道がないかを必死に探し始める。

 

 かくして突発的な紅、対、芸能科のお姉様たちの追いかけっこが勃発し――多勢に無勢、瞬く間に捕縛された紅は、お姉様方に思う存分着飾らせられ、愛でられる羽目と相成ったのだった――……

 

 

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