Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
クラス皆の手引きにより、学園祭に繰り出した紅と聖の二人。
初めこそ、周囲を気にしながらあちこちの屋台を巡っていた二人だったが……すぐに、そこまで気にしない方がいいという事に気がついた。
今の紅は変装用の髪飾りを外し白髪に戻っているため、たまにギョッと振り向く者は居ても、案外と開会式の少女であることを気付かれることはなかった。
実際、ヒヤヒヤしながら報道関係者とすれ違ったりもしたが、数回はやり過ごすこともできていた。
だが……勘のいい者というのは居るもので。
「あ、そこの君、その顔もしかして……良かったら話を……」
「聖、こっち!」
「あ、待って……ひゃ!?」
記者のパスを首に掛けた男性が声を掛けてきた瞬間、紅は彼に心の中で謝りつつ、聖の手を取って走り出す。
慌てて手を引かれるまま後をついてくる聖の様子も気にしつつ、廊下の曲がり角を曲がり……すぐにそこにあった階段裏の物陰へと飛び込んで、聖を腕の中に抱き留めるようにしながら息を殺す。
「あ、あの……こ、紅ちゃん?」
「しー、静かに」
何やらガチガチに固まっている聖の耳元で静かにするよう囁き、そのまましばらく隠れていると……やがて、息を切らして追いかけてきた数人の足音が、紅たちが裏に潜む階段を登っていってしまった。
……一秒、二秒、三秒。
どうやら気づいて戻ってくる様子はなく、ホッと肩の力を抜く。
「……うん、もう大丈夫みたい」
「な、なんだか変な状況になっちゃったね」
「はは……気分はお姫様と一緒に逃げ回ってる主人公だよ」
実のところ、こうまでして逃げる必要があるのかというと、紅もちょっと自信無い。
だが、必要か必要でないかはさておき、この逃避行自体が楽しくなってきているのを感じていた。
そんな紅の様子を微笑ましく眺めながら、聖が紅へ手を差し伸べる。
「それじゃ……いこっか、お姫様?」
「え、私がそっち!?」
「だって、追われているのは紅ちゃんでしょ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた聖の言葉に、ぐぅの音も出せずプッと膨れながら、差し出された手をしっかり握る。
「でも、このままだといつか捕まっちゃうねぇ」
聖のその言葉は、紅も懸念していた。思ったよりも紅の話を聞こうとしている者が多い。いずれ逃げられないタイミングでバッタリ、ということもありそうだ。
「そうだね……それじゃ一般客がいなくなるまでの間くらい時間の潰せる、暗くて静かな場所に行く?」
「……え? えぇえ!?」
何気なく放った紅の言葉に、聖は思わず驚きの声を上げるのだった。
◇
そうしてやって来たのは……今朝、紅が司会を務めたホール。
「あ、なるほどステージ発表かー……」
何故か少しだけ残念そうな、一方で少しホッとしたような声を上げる聖に首を傾げつつ……紅はホール内、やや人も少なく目立たない端の方の席へ腰掛ける。
「あ、ほら聖、ちょうど藍華先輩と黒乃先輩が出てるよ、ほら」
「あ、そうか、今日この時間って……」
「うん、文化祭1日目は芸能科の発表だから、今はそのラストになる科全体での劇だね」
確か演目は、昔有名になった恋愛映画を元にしたもの。旅先で滞在していた場所から飛び出したお忍びの王女が、一般人の新聞記者とあちこち観光して回るという話だ。
そして今はちょうど、藍華が王女役、黒乃は新聞記者役として、ステージ上で熱演している最中だった。
「やっぱり、先輩はすごいなぁ……」
「あの人たちが、紅ちゃんに教えてくれた人たちなんだよね?」
「うん、ヒロイン役が声優の園宮先輩、主人公の人が役者の姫崎先輩だね」
「はー、圧倒されるなぁ」
すっかり夢中で舞台上に釘付けとなっていた二人だったが……ふと何かに気付いたように聖が口を開く。
「なんだか、今の私たちの状況そっくりだよねー」
「そうかな? あはは、たしかにそうかも」
そう、なんとなしに笑い合いながら、先輩達の熱演を見つめる。その最中で二人の手は、まるで惹かれ合うように自然と結ばれるのだった――……