Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――学園祭も、今日で二日目。
並んでいる人がいれば、その行列に興味を引かれたものがまたさらにその後ろに並ぶ。
そのため紅たちの『ファンタジー喫茶 ナイトメアハウス』は開店以降客足は鈍るどころか、増加の一途だ。
そして……人の数が増えれば変な人が現れるのも当然であり、特にこの学校はお金持ち学校ということで、女子高生とあわよくばお近づきに……などという不埒な欲を持った者を完全に排除するのは難しい。
そのため学生が家族に配る入校許可証なしに入ることはできないのだが……しかし。
「ねぇ君可愛いね、この後抜け出して付き合ってくれない?」
「ごめんなさい、そういう話は応じかねます」
優しくのんびりしているため与し易いと思われたのか、接客中だった聖が、いかにも遊んでいますな感じの風貌の大学生くらいの男に絡まれていた。
この学園自体結構なお金持ち校であり、こうした客はあまり居ないのだが……なんらかの手段で紛れ込む確率はゼロではない。
だが……その一部始終を見ていたとある少女のその手元で、金属製の盆が怒りによって込められた力により、ギシリと軋んだ。
「そう言わずに……あ?」
困り果てた様子の聖としつこく食い下がる男の間に、割り込む小さな影。
それは……いっそわざとらしいくらいの営業スマイルを浮かべた紅だった。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
ひどく硬質な声でマニュアル通りの対応をする紅だったが、男はまたもや可愛らしい少女が現れたことに舞い上がっており、気づかなかった。
「なんだ、君も可愛いね。良かったら三人で……」
その言葉を聞いた周囲のクラスメイトがザワリと殺気立つが、紅はそれを手で制する。
「ご注文はお決まりですか?」
「いや、それより君たちと……」
男の執拗な態度に、クラスの皆は紅の方から何かがキレた音を聞いた。
「ご注文はぁ、お決まりですかあ゛ぁ゛?」
いっそ媚びたくらいのセリフ前半から、ギロリと凄まじい眼力のキレ顔に変貌したのを受けて、ARがどうとかをすっ飛ばして男が顔を真っ青に変える。
「…………ち、チーズケーキセットで」
「はい、チーズケーキセットですね、お飲み物は紅茶でよろしいですか?」
「あ、ああ、それで」
「うむ、承ったのじゃ。聖、行くよ」
「あ、うん!」
殺気を当てられた瞬間、男が呆然としながら注文を口にすると、紅はさっと聖の手を引いて、注文内容を配膳担当へ伝えにいく。
「あの、紅ちゃん……?」
「大丈夫、私は冷静だよ。母さんたちの訓練が生きたかな」
大丈夫だと笑う紅。
見れば、先程の紅の眼力に当てられたのはナンパ男のみ。他の客は心配した様子で見ているだけで、そこに恐れはない。どうやら怒っていてもそのコントロールは効いているようだった。
そんな、紅の頼もしげな様子に。
「そっか……えへへ、ありがとね」
そう、手を引く紅の小さな背中を見つめ、嬉しそうな笑みを浮かべる聖なのだった。
◇
――そんなトラブルなどに見舞われつつも、ほとんどは順調に学園祭は進み……紅の吸血鬼コスプレに、忙しい合間を縫って来店した天理がテーブルへ伏せて肩を震わせたりしたエピソードなんかもあったりしつつ……時間はもう、夕方に差し掛かっていた。
「それじゃあねー、吸血鬼のおひめさま!」
「うむ、達者でな」
母親に手を引かれた少女が紅に向かってブンブン手を振るのを、紅も小さく手を振りかえして見送る。
そうして最後の客が接客班の皆に見送られて店から出て行き、その背中が見えなくなると。
「……終わったー!!」
「みんな、お疲れ様ー!」
「つっかれたぁ!」
「もー、メイクの下蒸れ蒸れだわ!」
わっと仮装をひっぺがしながら、周囲の皆が次々と安堵の声を上げる。
……この日の来客は、本当に多かった。
混雑を見越して昨日の品切れを受けて追加で焼いた分まで、ケーキ類はほぼ品切れ。
客はというと最後の方はすでにネタも割れていたため、皆怖い物見たさという感じでAR表示を切って楽しげな歓声や悲鳴を上げながら、お茶を楽しんでいた。
ならばと紅たち『1-A』の皆も、期待に応えて積極的に観客を脅かしに行くという、すっかりグダグダな空気ではあったが……それでも、来店してくれた者たちにはちゃんと楽しんでもらえたみたいだった。
そんな、心地よい疲労感に包まれた『1-A』の生徒たちが、ざっと教室の片付けをはじめる。これにて、『ファンタジー喫茶 ナイトメアハウス』は閉店だ。
「この後、ホールで閉会式だっけ?」
「うん、着替えたら移動だね」
教室の後片付けをしながら、紅は聖の質問に答える。
「楽しみだな、プリンセス賞の発表?」
「うぇえ……」
昴の言葉、すっかり忘れていたその賞の名前に、紅が嫌そうな顔をする。
「そういえば委員長、その賞は女子だけが投票対象なのかな?」
「ううん、男女共通だよ、男子の受賞者は過去には居ないそうだけど」
「それは……男子が取ったら物議を醸しそうだなあ」
佳澄の解説に、苦笑するのは玲央。さすがの彼もプリンセスの称号は嫌らしく、今回ばかりは紅と張り合いたくないらしい。
そんな雑談をしている間に、装飾の取り外しなど今できる片付けも終わる。
「ま、今更何を言ってももう結果は出てるんだ、ジタバタしてもしょうがないだろ。早く着替えて行くぞ」
「う、うん」
昴の言うとおり、すでに投票は打ち切っている。今は開票中だから、何ができるわけもない。
なんだか嫌な予感がしつつも、紅も着替えるためにそそくさと更衣室へ向かうのだった――……
ちなみに休憩は3交代で一時間ずつ取っていたトカ。