Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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蠅の王

 

「やはり硬いな、しかし!」

 

 クリムはまるで鋭い鎌のような形状をしたダニ型モンスターの前脚を手にした漆黒の大剣でカチ上げる。

 

 硬質な音を響かせたその外骨格は、しかしわずかに引っ掻き傷ができた程度。クリムの『シャドウ・ヘヴィウェポン』でそれなのだから相当に強固だ。

 

「じゃが……それだけならばやりようは有るッ!」

 

 その前脚の下を潜るようにして鎌を避けると、手にした大剣をギチギチと軋みながら可動する脚の関節へと叩きつける。

 

 

 ――外骨格を持つ生物の欠点として、関節部が非常に想定外の方向からの負荷に弱い。それが、巨大化して重量を増したのならば尚更だ。分厚い甲殻部分は刃を弾いても、関節ならば通る。

 

 

 硬い手応えと共にその脚が千切れ飛び、擱座したその背中へとさらに一閃刃を振るう。

 

 このダニ型の蟲は上下の殻が比較的柔らかく、背中を切り裂かれ、ひとたまりもなく沈黙する蟲を尻目に、クリムはすぐさま次の標的へと襲い掛かる。

 

 

 ――この一体を仕留めるまで、時間にしておよそ五秒。その一体にかける時間も、徐々に最適化されて短くなっている。

 

 

 最初こそ人とは違う動きに戸惑いはしても、動きのパターン自体は読みやすい。

 

 それはルアシェイアの仲間たちも同様であり、雛菊の炎刀が甲羅を焼き斬り、リコリスの魔法弾が穿ち、カスミの槍が衝撃で吹き飛ばし……流石にフレイヤは顔を真っ青にしながら、味方の補助と呪文詠唱中のフレイの護衛に専念していたが……先のクリムの宣言通り、蟲たちは瞬く間に姿を減らしていっていた。

 

 だがそれさえも時間稼ぎ。本命は、たった今準備が完了した。

 

「クリム、皆、射線を開けろ! 『イラプション』!!」

 

 フレイがかざした右手に生じた大火球から、まるでガトリングのような勢いで次々と火の玉が放たれる。

 それは黒い蟲だけを選別して襲いかかり、その体を焼き尽くし……瞬く間に残る十数匹の蟲を焼き尽くした。

 

 そうして――あらかた蟲の駆除された森に、静寂が訪れる。

 

「……よし、これでこの周辺は一掃できたな」

「油断しないでね、お姉ちゃん。なんだかあの人に似た嫌な気配があるの」

 

 一仕事終えて額を拭うクリムへと、胸ポケットのルージュが忠告を投げかける。

 彼女のベリアルに対する嗅覚はこれまでも確かであったため、おそらく何かこの後にある可能性は高いだろう。

 

「なるほど……さて、向こうがどのような行動に出るか――」

 

 そう、気を引き締め直すためにクリムが呟いた――その時だった。

 

「五十匹差し向けた蟲達が、わずか三分で全滅。驚いたわ、本当に。なかなか面白いわね、あなた達」

「――ッ!?」

 

 不意に投げ掛けられたのは、まだ幼い少女のものらしき声。咄嗟に武器を構え直したクリムたちの目の前に、まるで空間を引き裂くようにして現れたのは……

 

「……私と同じくらいの、女の子、です?」

 

 だいたい同じくらいの背格好の雛菊が、皆を代表して呟く。

 

 彼女の言う通り、そこに居たのは……見た目だけならば、どこかボーっとした雰囲気の、幼く可愛らしい銀髪赤目のゴシックロリータを纏う少女。

 

 だが……

 

「お、女の子がどうして……」

「いや……皆、気をつけよ。この娘、気配がこれまでの何者よりもずっとヤバい」

 

 戸惑いを見せるカスミにクリムが忠告するまでもなく、皆それを肌で感じていた。

 

 その圧力は……もしかしたら、以前ルルイエで戦ったベリアルさえ凌ぐのではと思うほどであり、大気をビリビリと振るわせる物理的な影響が生じるほどのものだった。

 

 そうして慄くクリムたちの様子を無感動に睥睨し、少女がその小さな口を開く。

 

「――(わらわ)の名は、バアル=ゼブル=エイリー。あまり愉快な名前じゃないけれど、あなた達の言葉だと『ベルゼブブ』と言った方が通りがいいかしら?」

「ベルゼブブ……ッ!」

「クリフォ2i、ベリアル同様邪悪の木(クリフォト)の、ナンバー2か!」

 

 ベルゼブブ――元はウガリット神話における豊穣の神。しかし宗教戦争の中で悪魔に落とされ、現在ではサタンに次ぐ悪の首魁として有名になった、大悪魔。

 

 その名を聞いたクリムとフレイが、血相を変え眼前の少女を睨む。

 

「ほぅ……なかなか勉強熱心な者達ね。いいでしょう、本来ならば軽々しく名を呼ぶことなどさせないのですが、先の戦いぶりに免じて特別に許可しましょう」

 

 思わぬ大物の出現に騒然となるクリムたちを眺め……少女は、今度は無表情ながらも満足げに頷いた。そして……

 

「……どう、今度はバッチリ決まったわよね?」

 

 不意にクリムたちから注意を逸らしたかと思えば、隣に侍っていた巨大な蠅に何か聞いている。

 その様子は、どこか『ほめて』と見上げてくる子犬を連想させるが……しかし。

 

「……え、ここでそんな事を聞いてこなければ? あっ……」

 

 しまったといった表情になり、なんだかしょんぼりしてしまったそのゴスロリ姿の少女。

 そんな姿に、すわ強敵かと身構えていたクリムたちが緊張感を崩されて戸惑いながら顔を見合わせる、が。

 

「……まあ、いいわ。本当は面倒だったら引き篭もったままのつもりだったけど、あなた達気に入っちゃったから合格にしてあげる」

 

 そう、無表情だった少女が笑みを浮かべた瞬間――周囲で、異常が始まった。

 

 まず初めの変化は、周囲が急激に暗くなっていったこと。

 

 雲が出てきたのだろうか……そう何気なく空を見上げたクリムたちは、例外なく絶句した。

 

「空が……黒く……」

 

 まるで宙から染み出すように、次々と多種多様な黒い蟲たちが上空で姿を表す。

 

 そんな光景を見て愕然と呟いたのは誰か分からなかったが……しかし眼前に現在進行形で起こっていることを目にした皆が、同じ思いだった。

 

「ええ、そう、合格。あなた達面白いわ……だから、妾はあなた達の準備が完了するまで待ってあげる」

「……そいつは、寛大な事じゃな」

「ええ、妾は寛大なの。だって、ただ数で圧殺するだけというのは……あまりにも、退屈だもの」

 

 そう宣う少女だったが、しかしクリムたちにはそれに対して言い返す事ができなかった。

 

 

 ――黒が七分に、空が三分。

 

 

 誇張抜きにそれだけの蟲の大群が、クリムたちの頭上、白の森上空を覆っていた。

 

 それは、たとえクリムたちでも関係ない、たった六人では瞬く間に呑み込まれて終わりであろう、どうにもならない数。

 

 おそらく『ルアシェイア連王同盟国』全戦力を動員できたとしても、単独では手に余る厄災。

 

「妾、すっ……ごく偉いのよ。ベリアルよりもずぅっと……ね?」

 

 そんな圧倒的な大群を背後に、黒い堕天使の翼を羽ばたかせて宙へと浮かび上がった少女が、クリムたちを見下ろす。

 

 その愛らしい童女の顔に浮かぶ表情は……新しいおもちゃを目の前にし喜色に満ちた、嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「だから……あなたたちの準備ができるまではきちんと待ってあげるの。ちゃんと十分な戦力を集めて来ないと……殺しちゃうわよ?」

 

 その忠告の言葉を最後に……少女は、蟲の大群たちと共に、ふっと姿を消したのだった――……

 

 

 

 

 

 

【超大規模レギオンレイド『白の森防衛戦』が解放されました。このクエストは現在、開始条件を満たしていないためロックされています】

 

 

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