Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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凶刃

 

 ――薬の出どころが分かった。

 

 クリムがロウランからそう連絡を受けたのは、会談の直後、クリムが長老宅を出てすぐの事だった。

 

 そうして、派閥の者たちを混乱させるわけにはいかないと単身ですぐに調べに行くというロウランに対して、クリムも万が一の際に備えてということで同行していたのだった。

 

 

 

「すまないな、盟主どの。我らの事情につきあわせてしまった」

「うむ、気にするな。我らとしても因縁深い話ゆえな」

「……感謝する」

 

 そう、ロウランは渋々と言った様子ながらも、クリムへと頭を下げて礼を言う。

 

 

 ……セレナと呼ばれた薬の制作に携わっていた錬金術師の少女は、案外あっさりと事情を白状してくれた。

 

 それによれば、薬の製法を教えてくれた旅の者とは、『白の森(ヴァイスヴァルト)』のすぐ外で出会ったらしい。

そして彼はしばらく街道脇の空き家を拠点として研究をするとのことで、快く自分が知る薬の生成方法を教えてくれたのだそうだ。

 

そうして、彼女はしばらく彼の元へあしげしく通い、様々なことを教えて貰ったらしい。

 

 そんなセレナが、その彼から製法を教わった薬を仲間たちのために使いたいと言ったところ、彼は快く自分の教えたものを自由に使って良いと言ってくれたのだそうだが……このような事になるとは思わなかったと、意気消沈した様子だった。

 

 そうして彼女は、ロウランがその旅人の元へ案内を頼むと、怯えた様子ながらも承諾してくれたという。

 

 

 

「しかし、意外じゃな。伝統派の仲間が実は外の錬金術師から援助を受けていたなど、お主はさぞ怒りそうなものじゃが」

「うむ、まあ、確かにそうなんだが……な」

 

 後ろで可哀想なほど怯えているセレナにチラッと視線を送り、そんな少女の様子に溜息を吐くと、彼は語る。

 

「彼女……セレナは、病弱で外に出ることも滅多にできん幼い弟がいる。錬金術師となったのもそんな弟のためらしい。おそらくは、今回の件は藁にもすがる思いだったのだろう、あまり責めることはできんよ」

 

 そう、案外と寛容なことを言うロウランに、クリムは驚きで目を丸くする。

 

「……どうかされたか、盟主どの」

「いや……お主は意外といい奴じゃなぁと驚いておった」

「ばっ……気持ち悪いことを言うな!」

 

 クリムの言葉に、顔を真っ赤にして歩く速度を早めてしまうロウラン。そんな彼に苦笑しながら、クリムも少し歩を早めるのだった。

 

 

 

 

 ……そうして連れてこられたのは、やや街道から外れた場所にある、一軒の小屋。

 

「あの、ここ、です」

「そうか……静かすぎるな」

 

 シン……と静まり返っているアトリエに、怪訝そうに言いながら、ロウランがドアを開く。鍵はかかっておらず、そのドアはあっけなく来客を招き入れた。

 

「もぬけの殻だな……」

「もう、不穏な気配を察して逃げてしまったのかもしれんな」

 

 庵の中は、まるで空き巣にあったかのようにあらゆるものが床に散らばり、散らかり放題となっていた。

 あるいは、大事なものを纏めて逃げるために慌てて物を引っ掻き回したのだろうか。

 

「もう少し奥へ行ってみよう、何が残されているかもしれん」

 

 そう言ってずんずん進んでいくロウラン。クリムも床に散らばった紙を避けるように足を置きながら、彼を追って奥へと進む。

 

「気をつけるのじゃぞ、お主に何かあれば二つの勢力が緊張状態にあるエルフたちの里が、色々と困った事態に……」

 

 そこまで言って、自分の言葉に驚いたように、不意にクリムの足が止まる。

 

 ――脳裏に、引っ掛かるものがあった。

 

 今の状況……伝統派のトップである彼に何かあれば、真っ先に疑われるのは、間違いなくクリムだ。

 

「……流石に、考えすぎ、か?」

 

 かぶりを振って、そう呟く。

 だがそんな中……クリムはふと、ピリッとした気配を首筋に感じた。

 

 振り向くと……そこには真っ青な顔で、しかし腰だめにナイフを構え殺意を漲らせたセレナの姿。

 それは真っ直ぐに、今まさに部屋を調べようと屈んだロウランの、無防備に晒された背中へと向かっていた。

 

「まっ……ッ!?」

 

 咄嗟に少女の凶行を止めようと足を踏み出した瞬間、床にあった紙を踏んだクリムの全身に雷に貫かれたような痺れが走り、身体が硬直する。

 

 それでもどうにか転倒するようにして、突進してくるセレナと、まだ事態の把握が出来ておらず棒立ちのロウランの間へとその小さな体を滑り込ませた。

 

 ――腹部に、灼熱の感触。

 

「ぐ、う……っ!?」

「……盟主どの!?」

 

 ひとたまりもなく崩れ落ちたクリムの体を、ロウランが受け止めてくれる。

 

 瞬時に痛覚緩和機能がフル稼働したおかげで痛みは感じないが……その腹部に刺さっていたのは、少女の持っていたナイフ。

 そのナイフの刺さった箇所から、まるで火を注がれているように熱くなり、全身に全く力が入らない。

 

 さらには、しゅうしゅうとナイフが刺さったままのクリムの腹から立ち登る白い煙と共に、視界端で僅かずつ減少していくHPバー。これは……

 

「銀、か……ッ!」

 

 よく見れば、床に散乱している書類の束に混じり、破られた本のページ。

 それは……おそらく聖書の頁を破ったものを、床中にばら撒いたもの。明らかにクリムを狙い撃ちにしたトラップだった。

 

「……セレナ君、なぜ君が」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、言うことを聞いたら薬をくれるっていわれたんです、こうしないとあの子が、弟が……っ!」

 

 顔を真っ青に染め、カタカタと手を震わせ、視線をふらふらと彷徨わせながら……それでも何らかの強い殺意を目に宿すセレナ。

 彼女はベルトの腰から二本目のナイフを抜き、座り込みクリムを抱えたまま愕然とするロウランへ向ける。

 

「……やはり、対策を……取って正解、じゃったか……」

「……え?」

 

 脂汗を額から垂らしながらも呟いたクリムの、そんな息も絶え絶えな言葉に、セレナが耳を疑うように呟いた――直後。

 

 

 ――トッ。

 

 

 その彼女のすぐ足元へと苦無が刺さり――貼り付けられた符が、パァン! とけたたましい音を立てて弾けた。

 

「お師匠!」

「クリム、無事か!?」

「クリムちゃん!!」

 

 途端に、音を聞きつけて扉を切り裂き駆け込んでくるルアシェイアの仲間たち。

 

 クリムは念のためにと、長老の家から出た時にはすでにセツナに頼み、雛菊、フレイ、フレイヤの三人に事前に連絡を取って、待機してもらっていたのだ。

 

「さて……お姉さん、お館様に代わって事情は説明して貰いますよ……!」

「そん……な……」

 

 そんな声と共に……屋内、何も無い場所からまるで染み出すように現れたセツナが、クリムとロウランを庇うように立つ。

 

 退路を断たれ、標的であるロウランまでの道も塞がれたのを見て……ついに凶行に及んだ少女は諦めたようにナイフを取り落とすと、がっくりと膝を着くのだった――……

 

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