Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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女王の加護

 

 ――セレナによる凶行から、およそ十分後。

 

 ロウランを襲ったセレナは、今はもうセツナが拘束し、監視下にある。

 

 フレイと雛菊は今、何か襲撃がないかを警戒して小屋周辺の警戒をしてくれている。

 

 そんな中でクリムはというと……『お前は休め、邪魔だ』というフレイの言葉に甘えて、聖書のページが撤去された部屋の中のソファで、フレイヤに膝枕されたままぐったりと横たわっていた。

 

 

 ――聖書による拘束を受けた中での、銀製武器による致命傷一歩手前の負傷。

 

 

 弱点に弱点を重ねたその致命の一刺により……辛うじて死亡こそ免れたものの、今のクリムは『衰弱』の状態異常下にあり、まともに腕の一本も動かせない倦怠感の中にあった。

 

「……大丈夫?」

「…………ああ、うむ。おかげで少しマシになって来た、かのぅ」

 

 まだしんどいが、それでも最初よりはまともな手足の感覚が戻ってきた。

 

 そんなクリムの様子に部屋の空気が若干弛緩した中で……ロウランが、セツナに拘束されているセレナへと、悩み抜いた末に声を掛けた。

 

「……セレナ君。何故、君がこのような事を」

「何故、ですって?」

 

 しかし……帰ってきたのは、責めるような怨嗟の眼差しと、怒りの滲み出たような呟き。

 

 そして……そんな火種は、まるで火災に見舞われた家の窓ガラスが割れて内部に空気が流れ込んだように、一瞬で燃え上がった。

 

「本当に、勝てると思っているんですか! あの蟲たちの大群に! ちょっといい薬を手に入れた程度で私たちが!?」

 

 激昂し、セツナに拘束されながらも、喉元に食い付かんばかりの勢いでロウランに詰め寄るセレナ。

 

 だがその目に宿る感情は彼に対する怒りというよりは、悲しみと諦観の割合が高い。そんな目に、クリムは心当たりがあった。

 

 それは……心折れた者の目。

 

「あなたは、死よりも辛い目にあった仲間をたくさん見たと言った! 十年か、二十年後かわからないけれど、いつか人は裏切る、それは確かに事実なんでしょう、だけど!!」

 

 制止するセツナに縋り付くようにしながら、少女は吠える。だが……そんな勢いもすぐに鎮火して、ガックリと膝をついた。

 

「……ろくに外にも出られないあの子は、森の外に逃げることだって難しいんです、十年とか二十年とかそんな先の話は関係ない、だって……あの子はまだ、その十年も生きていないんですよ……ッ!!」

 

 血を吐くようにそれだけ叫ぶと……彼女は、それきり黙り込んでしまう。

 

 一方で、突如激しい感情を叩きつけられたことで同じく黙り込んでいるロウランはというと……こちらはどのような顔をすれば良いのか分からないと言った様子で、呆然としていた。

 

 彼としては良かれと思いずっとやってきた事が、同胞を凶行に及ばさせるまで追い詰めていたのだから、こちらも致し方ないだろう。

 

 

 ――今、彼の葛藤に付け込むのは簡単だろう。

 

 

 そんな悪魔の囁きが脳裏をよぎるが……だがしかし、クリムは一つかぶりを振ると、その考えを棄却する。そして膝枕してくれているフレイヤに起き上がりたい旨を伝え、衰弱状態でまだ力の入らない体を起こさせてもらう。

 

 ……薄情なようだが、今は彼らの事などよりも重大な懸念がある。失踪した薬を広めた人物がクリムたちの予想通りだったとして……では次にどのような手を打ってくるか。

 

 そう――最も可能性が高いのは、こちらを囮に人員を割かせた上での、フローリアの街への襲撃。

 

「それより、急いでフローリアへ戻ろう。向こうがこちらの動きを把握している以上、こちらはただの陽動の可能性も――」

 

 そう、皆に促した、まさにその時だった。

 

『ご心配には及びませんよ』

「……女王陛下!?」

 

 突然、眼前にポップアップした通信窓。

 それは、王宮に居るはずのフローライト女王だった。

 

『クリムさんのおっしゃる通り、こちらにも死霊の群れが迫っていましたが……貴女はこうした事態も見越して、仲間の一部をこちらに残してくださいましたね。おかげでその敵集団は全て一掃できました』

「一掃って、いったいどうやって……」

『ふふ、私、目は良いんです』

 

 そう、悪戯っぽく笑う女王だったが……しかし、クリムはその言葉に眉を顰める。

 

『ですので、皆様は安心してゆっくり戻って来てください。ロウランも、そちらの子……セレナさんも、ね。あなた方にも、落ち着いて考える時間が必要でしょう?』

 

 そんな優しい口調で曰う女王に、名指しされビクッと肩を震わせるセレナだったが……しかし彼女は今度こそ抵抗する素振りは見せず、大人しくセツナに従って連行されていく。

 

「ところで……のう、女王よ。お主はそんな顔色が悪かったかのう?」

『……あら。ふふ、何の事かしら?』

 

 そう、クリムの質問はさらりとかわされて、通信が一方的に切られてしまった。

 

「……はー、やっぱりエルフというのは偏屈な連中ばかりじゃな、全くどいつもこいつも」

「クリムちゃん?」

「いや、いい、行こう」

 

 今しがた愚痴りかけた言葉を飲み込んで、クリムが早く帰ろうと促す。

 

「ほら、クリムちゃん、手掴んで?」

「う、うむ……ひゃわっ!?」

 

 フレイヤの肩を借りてどうにか立ちあがろうとしたクリムの足が、しかし突然地面から離れてしまう。

 

 何だと慌てて周囲の状況を確認すると……どうやら、比較的エルフとしては大柄なロウランが、ひょい、と手荷物のようにクリムの小さな体を抱え上げたらしい。

 

「神官どの。盟主どのは私が担いでいく。命を助けられたせめてもの礼だ」

 

 驚いて目をパチパチしているフレイヤにぶっきらぼうに言い放つ彼に、ようやく事態を把握したクリムもホッと体から力を抜き、身を預ける。

 

 ……だが、一つ不満があるとすれば。

 

「そいつはありがたいんじゃが、かように米俵みたいに肩に担がれて運ばれるとか、お主な……」

「ふん、軽すぎる盟主殿が悪い」

「あはは……ロウランさん、クリムちゃんのことお願いします」

 

 雑な扱いに抗議するクリムに、そっけない返事を返すロウラン。そんな若干険悪になった二人に、フレイヤは一人困ったように苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――所変わり、フローリアの街。

 

『あちらの可愛らしい盟主どのには悪いことをしてしまいましたが……どうやら、無事みたいで何よりです』

 

 女王のそんな言葉に、報告を受けたリコリスは、ホッと安堵の息を吐く。

 

 そんなリコリスが今居るのは、フローリア外縁部……の、上空。

 

 

 ――スキル名『サポートデバイス【フローター】』

 

 青い粒子を放つ、細長い放熱板のような長方形のサポートデバイスが三組ずつまるで翼のように連結したものが二対、リコリスの背中に接続されていた。

 

 リコリスはそれによって、機動力こそあまりないものの自在に宙を飛び回り、今しがた敵性存在をあらかた撃ち抜いたところだった。

 

 

『それで、リコリスさん。そちらは無事ですか?』

「えっ、あっ、はい! 無事、潜んでいたアンデッドは駆逐しましたの」

 

 リコリスの眼下、スコープ越しに覗いた視線の先には……先程までは鹿や狼といった動物を元にしたアンデッドの群れが居た場所が、爆発跡となり黒い煙を上げていた。

 

『そう、それは良かった。お怪我はありませんか?』

「は、はい、私は大丈夫、なの」

『カスミ様の方は……』

『大丈夫、こっちも怪我一つなく制圧完了したよ!』

 

 その他別方面からも、無事に襲撃者を殲滅したとの報告が飛び交う。

 

 被害無く襲撃を未然に防げた理由……それは、女王フローライトが敵に先んじてエネミーを伏せた居場所を掴み、最短ルートで皆を指揮し殲滅したおかげだ。

 

 

 ――『白の森(ヴァイスヴァルト)』内、ハルニアの木が存在する場所限定で全てを視界とすることが可能な千里眼と、中にいる者相手であれば自在に通信を開くことができるテレパス。それが、女王フローライトの力だった。

 

 

 いくら奇襲のため手駒を潜ませても、その場所が全て分かっているならば何の問題もない。

 

 機動力に優れた弓の名手であるエルフの兵たちと、なんなら空だって飛べる狙撃兵であるリコリスで爆弾代わりの動物系アンデッドを遠距離から駆逐し、白兵用のゾンビたちはカスミを中心とした地上部隊が瞬く間に鎮圧した。

 

 確かにすごい能力だ、広範囲に兵力を展開しなければならないタワーディフェンスでは、非常に心強い能力だろう。

 

 しかし……

 

「あの、女王様?」

『はい、どうかしましたか?』

「あ、いえ、何でもないです……」

 

 いつも通り柔らかく微笑む女王に、リコリスが喉元まで出かかった質問を飲み込む。

 

 

 リコリスの懸念……それは、プレイヤーにとっても、視界に作用するスキルは非常に脳に対する負荷が強いことだ。

 

 それ故に視界延長や反応速度加速のスキルは極限まで集中した時にしか作動しないし、疲労が蓄積したらそれを検知し作動しなくなる。

 

 

 超広範囲に渡る、複数箇所の千里眼。

 女王は表面上こそ穏やかな様子で指示を出していたが、果たして、その彼女に掛かる負荷はいかばかりか。

 

「あの女王様、大丈夫なのかな……」

 

 スナイパーという構成柄としてそれをよく知っているリコリスは、不安げにそう、呟くのだった――……

 

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