Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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花の都に吹く風

 

 再び演奏を始めたハルの周囲へ集まり、久方ぶりに楽しげにしているエルフたち……その最後列に居たクリムは、ふと背後に気配を感じて振り返った。

 

 そこに居たのは……声を掛けるか掛けないか迷ったままの姿勢で佇む、青髪のエルフの少女だった。

 

 

「あ……め、盟主様」

「む? セレナではないか。どうした?」

 

 気まずそうに声を掛けてきたセレナに、クリムはあえて、あっけらかんと返事を返す。

 そんなクリムの様子に、セレナは驚いたように目を丸くする。

 

「その……なんだか近くから楽しそうな声が聞こえて、弟も今日は調子が良さそうだったから……」

 

 そう恐る恐る言葉を選んでいるような彼女の目線の先には、寝巻き姿の小さなエルフの少年が、ハルの方へと物珍しそうに歩いている。

 その姿がふらつくたびに、心配そうにピクッ、ピクッと反応している彼女に苦笑しながら、クリムはその手を引く、

 

「ほれ、お主はきちんと弟についていなければならんじゃろうが、お主も近くに寄れ」

「……でも、私は盟主様に」

「ふん、あの程度で死ぬようなタマではないわ。それに皆が楽しんでいる時にそんな話は野暮じゃろう、気にするな」

 

 そう、フッと笑うクリムに……彼女は、俯き「ありがとう」と呟くと、そっと頬から滴を伝わせたのだった。

 

 

 

 ◇

 

『――作れるわよ、薬』

「……本当か、ジェード!?」

 

 ――子供達が解散し、セレナの弟を家へと送り届けたあと。

 

 彼女の弟の病気について、今はヴィンダムに居るジェードに相談したところ……彼女は、あっさりとそう言った。

 

『ええ、症状を見るに、プレイヤーにも状態異常としてある【虚弱症】の重いやつみたい』

 

 虚弱症……たしか一部ゴースト系の呪いにより罹患する、時間経過で徐々に重篤化する衰弱とスリップダメージを受ける状態異常だったはずだ。

 

『こういうプレイヤーの掛かる状態異常の病気版を治療するクエストは、錬金術師クエストでいっぱい見るし……たぶんそれらと同じようにそれ用の薬を一定期間服用したら治ると思うわ……だけど』

 

 一つ言葉を切ったジェードは、クリムたちの姿を一瞥した後、告げる。

 

『私は、今はそこに行けない。調合は別の錬金術師が行わなければならないわ』

 

 その言葉に、皆の視線は自然とこの中で唯一の錬金術師……セレナへと向かう。

 

『……正直、あなたには難しい調合になる。それでもやる?』

 

 真剣に語るジェードの言葉を受けて、注目を浴びている彼女は……何かを覚悟した目で、顔を上げた。

 

「……やります。何だってします。だから……お願いします」

 

 やるべき事ができると人は変わるもので……心折れていたはずの少女の目は、今は僅かながらも、希望という光を取り戻していた。

 

『……分かった、遠くからだけど、全力でサポートさせてもらうわね。ただ、薬の製作に必要な希少な素材がいくつかあって、工房に在庫を切らしているのだけれど……』

「ジェード、必要素材を教えてくれ、すぐに採ってくる」

『ってクリムちゃんなら言うと思ったわ。必要なものと採取地をメールで送るから、確認しておいて』

 

 食い気味に尋ねるクリムに苦笑しながら、そう告げて通信を切るジェード。

 

 

 ――そうして、素材集めの班分けをしていた時。

 

 

「お前たち、何やら面白い話をしているな、その必要な材料、私にも見せてくれないか?」

「む、ロウラン?」

 

 不意に声を掛けてきたのは、意外にも伝統派のリーダー、ロウランだった。

 警戒して睨んでくるセレナを横目で確認し苦笑しながら、彼はクリムの書き写した材料のメモに目を走らせる。

 

「……これと、これは里の近場でも探せば手に入るな。これは私たちと、融和派の兵士たちにも話を通して探しておこう」

「……ロウラン様、どうして」

「私が守りたいのは、里の皆だからだ。勿論そこにはお前とお前の弟も含まれている」

 

 セレナの言葉に、即答するロウラン。

 だが、彼はすぐに自嘲の笑みを浮かべ、呟く。

 

「……はず、だったのだがな。どうしてすぐ近くの者に命を狙われるまで、その守りたかったものへ目を向けられなかったのだろうな、私は」

「ロウラン様……」

「罪滅ぼしというわけではないが、どうか私にも協力させて欲しい」

 

 そう告げるロウランに……セレナも、渋々ながら頷く。

 

「スザク……」

「はいはい分かってるよ、この流れで嫌とか言えるわけねーだろが。だからその目を止めろ!」

 

 そんな中、ジトっと見上げてくるダアトに、スザクが頭を掻きむしりながら返答する。そんな様子を、ハルは愉しげに見守っていた。

 

「あはは、まあスザクくんは言わなくても手伝ってたと思うよ?」

「……ふん、言ってろ」

「と言うわけで、私たちもお手伝い決定ね」

 

 そうしてあれよという間に探索隊は規模を広げ……気がつけば、すっかり大所帯になっていた。

 あるいは空元気かもしれないが、前向きな仕事を得た皆の顔からは先程までの鬱々とした影が消え去り、その表情は明るい。

 

 

 ――風向きが、変わってきた。

 

 

 それを感じたクリムは、皆を鼓舞するように声を張り上げて、号令を発する。

 

「では……皆、手分けして事に当たる、今日中に終わらせるぞ!」

「「「「おー!!」」」」

 

 そうして……花の都には、久方ぶりの活気に満ちた声が飛び交い始めたのだった。

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