Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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白の森防衛戦 WAVE:1

 

「……むぅ、これだとコストオーバーなのね」

 

 黒いゴシックロリータを纏う少女が、眼前で無情にもエラーを吐いた半透明の画面にむっと顔を顰める。

 

 

 手勢にと用意された蟲たちは、あまりにも膨大な数。だが、それを全て一点突破に利用する、などといった手段はできない。

 

 かなりの裁量は認められているものの、制約は色々とある。

 

 一度に場に配置できる数が決まっているとか。

 

 追加の配置はある程度間隔を置かなければならないとか。

 

 ある程度、満遍なく分散して配置しなければならないとか。

 

 

 ――でも、これはただのルールみたいなもの。だって、遊びにはルールが必要だもの。そのルールの中で、妾は蟲たちの王として、差し手をするのが役目。

 

「でもいいの、ただ数で圧殺なんて興醒めだものね」

 

 元々が、非常にこちら側に有利な前提で組まれているゲーム。それでただ力押しというのはあまりにも芸がない。

 

 

 だから、妾は制限の中で目いっぱいの意地悪をしてあげよう。必死に抗うあの人の姿を想像するだけで、体の奥が火照ってくる感じがする。

 

 もしあの人がしのぎ切ったのなら、その時は……妾自身が、全力で、おもてなしをしてあげるのだ。

 

 

 ――ああ……楽しくなってきた。さぁ、必死に足掻いて、足掻いて、足掻いて……

 

「退屈でどうにかなってしまう前に、早く、妾の元までやって来なさい、夜の精霊さん?」

 

 クスクス、クスクスと。

 

 ただ、少女の愉しげな笑い声が、暗い森の中に響き渡っていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 ――森の中でエイリーと邂逅してから、瞬く間に次の日曜日が訪れた。

 

 結局、参加プレイヤーはフルメンバーとは行かなかったものの、九割を超える人数が集まった。

 

 クリムたちはそんなプレイヤーたちと共に、この一週間、ずっとレギオンレイドに向けた下準備に費やしていた。

 

 そして……ついに、その成果が試される時が来たのだった。

 

 

 

 

『こちら左翼、ソールレオンだ。配置全て問題ない』

『こちら右翼シャオです、いつでもどうぞ』

『後方代表スザク、問題ねーよ』

 

 次々と入る、各方面の代表者からの連絡。森の方々に散ったプレイヤーたち、その取りまとめをする各方面リーダーからの準備完了の報告だった。

 

 街の左手に、最大勢力でもあるソールレオン率いる『ノール・グラシェ北方帝国』。

 

 街の右手には、シャオの率いる『ブルーライン共和国』。

 

 そして中心は、発起人であるクリムたち『ルアシェイア連王同盟国』。

 

 それら三国を中心に、他の場所からの参加者を、幾度も相談した上で各方面バランスを考えながら配置してあった。

 

 それと……事前の説明にあったのは、敵は主に北から来て、南にあるフローリアに迫って来るとのこと。

 だが、馬鹿正直に背面を無防備にはできない。エルフの弓士隊を中心に、少しレベルに自信が無いという者を中心に配備した。こちらは、顔見知りでありゲーム歴も長いスザクにリーダーを頼んでいる。

 

 後方部隊の彼らは、主に襲撃があった際は無理せず時間稼ぎに徹してもらい、もし何かあった場合は人数の多い北方帝国がカバーに入ってくれる事となっている。

 

 

 

 そうして、各方面からの連絡も無事入り、準備が完了したのを確認し……クリムは、レギオンレイド開始のボタンを押す。

 

 

『では、これよりフローリア周辺に大結界を形成します。皆様、どうかご武運を』

 

 そんな女王フローライトの声と共に、フローリアの街と、結界の起点となるハルニアの古木との間に線が走り、それはみるみる魔法陣となって街周辺に蒼く輝く結界を形成した。

 

 同時にプレイヤー皆の視界端には、敵第一陣到来までのカウントダウンが始まる。

 

 

 ……何気に主要三国初の共同戦線となる今回は、人数こそ自由参加だったルルイエのクトゥルフ戦よりは少ないが、それを除けば最大規模の集団での大規模戦闘である。

 

 不安が無いわけではないが、事前準備はしっかりと詰めてきた。

 

 クリム自身は、敵が空から来る可能性が高いのを踏まえ、ジェードには少々無理を言って大量の『ガングニール』の弾を用意してもらった。

 

 各部隊の配置は、クリムも皆に同行して実際に森を歩き回り、持ち場の地形は頭に叩き込ませた。森を徘徊する蟲たちと実戦も繰り返し、特性についても頭に叩き込んだ。

 

 今回は拠点防衛、タワーディフェンスである。大事なのは自分の持ち場をきっちり守ることであり、あまり敵を追ってふらふらと走り回る、いわゆる『小学生サッカー』と揶揄されるようなことにならないよう、何度も徹底して指導もした。

 

 備えることができるだけの備えは、したはずだ。

 だが、クリムは言葉にできない、漠然とした不安感を感じていた。

 

 そんな中……カウントが0となった。

 

 

 

「……静か、じゃな」

「ああ……だけど、なんだか嫌な静かさだ」

 

 しん、と静まり返った白の森。

 クリムの言葉にすぐ後ろにいたフレイが同意した、その直後。

 

『お館様、今すぐ後衛を前に出して対空攻撃用意を!』

「む、セツナ、何が……」

『説明している時間はないですよぅ!』

 

 

 そんな切迫したセツナの声と共に、ようやく敵第一陣が上空から姿を見せる。

 

 それを真っ先に見つけたリコリスが、顔を真っ青にしながらすぐに銃を構えた。

 クリムも一瞬だけ唖然とした直後、傍に置いてあった『ガングニール』を掴むと、全体チャットを開く。

 

 

 

 ――それは、下見していた時に見た事があるエネミーだった。

 

 外観は、赤と黒の縞模様をした、スズメバチに近い形状の蜂だ。しかし1メートル近い巨体は下腹が異様に膨らんでおり、不気味な赤い光を放っている。

 

 この蜂……エネミー名はそのままズバリ、『爆弾バチ』という。

 

 肥大化した腹に爆薬を満載しているため敏捷性も耐久性もさほど無いが、だが倒した瞬間大爆発を起こし、周囲に壊滅的な被害を与えるという厄介極まりない性質を持っていた。

 

 敵第一陣……それは、視界いっぱいに広がるその『爆弾バチ』の群れだった。

 

 

 

「総員、対空攻撃準備! あの蜂を絶対に、一匹たりとも後方へ通すな! それだけで下手をしたら壊滅するぞ!!」

 

 言われるまでもなく騒然となっている防衛側のプレイヤーに、必死で指示を出すクリム。

 指示を出しながら、クリムはなるべく密接している場所の蜂の一体に照準を合わせ、『ガングニール』の引鉄を引く。その銃口から放たれた弾丸は狙い違わず蜂を貫いて、上空で仲間の蜂を複数体を巻き込んで大爆発を引き起こし、開幕の狼煙を上げた。

 

「エイリーめ、やってくれるな……ッ!」

 

 クリムが、思わずと言った様子で忌々しげに舌打ちする。向こうは、初手からこちらを壊滅させる気満々だった。

 

 こうして……『白の森防衛戦』は、初手から文字通り蜂の巣を突いたような混乱の中、幕を上げたのだった――……

 

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